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赤月さん、盗み聞きをする。

 

 古文書学の発表は何とか無事に終わりました。梶原教授は米沢さんがいないことを訝しげに思っていましたが、「いつものこと」として片付けていたようです。


 ですが、あまり休み過ぎると本当に評価が下がって、単位は取れなくなるでしょう。私が気にしても仕方がないことですが、つい気になってしまうのです。


 発表の方はと言うと、私達の班は教授から高評価を頂くことが出来ました。

 三人が担当している文章をお互いに理解しつつ、相互関係を確認し合っていることで、時代背景が分かりやすい発表だったと褒められました。


 私も声は小さかったのですが、何とか言い間違えずに発表することが出来て、深く安堵しています。


 大上君達の班も良い評価を貰えていたようです。図書館で資料を調べたり、発表の準備をしたりしていたので、その結果が伴って本当に良かったと思います。


 発表が終わった後、同じ班の二人と昼休みの時間に食堂に集まって、お互いに労いました。


 もうすっかり、来栖さんと奥村君の席の定位置が決まっているようで、今後も同じように集まって昼食を摂ることになるかもしれません。


 そう思うと、つい頬が緩んでしまいそうになります。友達と一緒に昼食を食べるのは楽しいので、これからも続いて欲しいと思っていたからです。


 来栖さん達が一緒に食事を摂るようになってからは、幼馴染二人は毎日にこにこです。

 最初に大上君がやって来た時とは大違いです。


 大上君は「何で、来栖さんと奥村君だけ最初から大歓迎されるんだ……」としょんぼりと呟いていました。

 すると白ちゃんが「最初は千穂を悪い方向にほだす敵だと思っていたからね」とのんびりと返していました。


 ……い、今は仲が良いので水に流してはいかかでしょうと言いたかったのですが、言わずに黙っておくことにしました。


 そんな感じで穏やかに昼休みを過ごして、三限目の講義を受け終わった私は四限目の講義が始まる教室へと向かっていました。


 月曜日の四限目は「東洋史概論」です。


 三限目の講義がいつもよりも早く終わったので私は一人で教室へと向かっていました。

 同じ講義を受けていた大上君は先程まで一緒でしたがお手洗いに行くとのことで、私は先に行かせてもらうことにしたのです。


 私が別棟の建物の教室へ向かっていると、廊下にまで響いてくる声が聞こえて、思わず立ち止まってしまいました。


 扉は数センチほど開け放たれたままです。

 講義中かなと思って、話の内容に耳を澄ませてみましたが、どうやら空き教室を学生の誰かが使ってお喋りしているようですね。


 最近、盗み聞きばかりしている気がして、とてもお行儀が悪いです。反省しつつ、私が扉から離れようとした時でした。



「──本っ当、最悪だったんだけれど」



 厳しさを含んだ声に私はびくりと肩を揺らしてしまいます。この声は紛れもなく米沢さんです。


 何だか顔を合わせづらいなと思いましたが、その場に友達がいるようで、愚痴を吐くように鋭い言葉遣いで話していました。


「来栖、だっけ?」


「そうそう。あいつに邪魔されたせいで、私の評価はどん底だわ」


「そう言って、いつも講義サボっているくせに~」


「だって、面白くないんだもん。もう、あの講義落としちゃおうかな」


 開き直っているように、米沢さんは鼻を鳴らしながら言い切りました。……私にとっては面白い講義ばかりなので、面白くはないとはっきり言われると少し悲しいですね。


「そう言って、諦めている講義、いくつあるのよ。そのうち留年するわよ~」


「それなら、いっそのこと別の学部に編入するわ。確か色んな手続きしたら、編入出来るって聞いたし。もしくは海外に留学したいかも」


「経済経営学部、イケメンが多くておすすめだよ」


「留学するならアメリカに行こうよー。従姉妹が留学していて、凄く楽しいってよく写真やお土産を送って来てくれるんだぁ」


 華やかな声の中に混じるのは、明らかに不満をぶつけられないでいる米沢さんの声でした。彼女はこれでもかと言う程、深い溜息を吐いています。


「……あーぁ。好きな先輩がいるって理由だけで、歴史学部なんかに来るんじゃなかったわ。講義内容、退屈で仕方ないもん」


「同じ高校の上級生だった久藤先輩だっけ。女の子をとっかえひっかえしているって聞いたけれど」


「高校の時は凄く優しくて、紳士的だったんだから。今もたまに食事とか誘うんだけれど、それ以上の関係にはなれないのよねぇ。……やっぱり噂通り、何股かしているのかも」


「でも、あの顔なら、凄くモテそうだよね。私もあんな彼氏欲しいっ~」


 どうやら米沢さんは久藤先輩の知り合いだったようです。そういえば最近、あの先輩と顔を合わせていませんね。

 何だか飲み会の際に纏っていた彼の雰囲気が苦手だったので、今後も会わない方が気は楽ですが。

 

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