前奏4
「それはそうと、なぜ世継ぎの君様は舞の披露を所望されたのですか?」
解けかかった足の包帯を巻き直しながら、薬草師の巫女は疑問を口にした。
この小神殿は本当に辺鄙な田舎町にあり、これといった特別なものはない。
強いていえば、巫女長様が当代きっての舞の舞手というぐらいか…
しかしそれは、月刀がリリアを舞手に選んだための措置でもある。
癒しの力の大きさと、舞の上手さは比例しているわけではない。
かつて選ばれた舞手の巫女は舞がどうしようもなく、
ただぶんぶんと振り回すだけで終わっていたという。
それでも癒しの力が強かったのでその場に居合わせた者は皆、清々しい気持ちになれたのである。
「舞手の舞は、やっぱり見映えのする方がいい!」
その時代の領主自身の好みで、月刀に選ばれた巫女には
それなりの指導者が付けられることとなった。
それ以来その慣習は守られ続けられているというわけなのである。
巫女長様自身は舞は天下一品であったが癒やしの力が今一つであったのか
月刀に選ばれなかった。いや、実はここ100年ほど選ばれていなかったのである。
100年ぶりに月刀の舞が舞われるとなれば、見てみたいと思うのが世の常。
世継ぎの君様も所詮人の子、そんな気持ちになるのもわからないわけではないのだが
急に見たいと言われたのでは準備するこちらの都合も考えてほしい、というのが本音ではある。
「世継ぎの君様は、白の領主様の縁のお方だから
それもかねてのご訪問だと伺いました。
現領主様も100年ぶりの舞手登場にとても期待なされているのです」
「それに噂の巫女姫を見てみたいからでしょう!」
巫女長様の話を遮って、先輩巫女達は顔を見合わせ含み笑いを隠せずにいた。
「っえ!!この神殿にお姫様がいらっしゃるのですか?」
噂の本人自身がボケをかまし、その場大爆笑につつまれる。
そう、リリア本人は空気が読めない上にどがつく天然なのである。
本人の生い立ちを考慮し、俗世から隔離されて育てられたという事情もあるが
育てた巫女本人たちの過保護にも責任の一端はあるのだが…
リリア接するのは巫女長、姉巫女、薬草師の巫女に限定されていたのは訳があるのだが
それは長自身しか知らない。
その雰囲気を破るかのように薬草師の巫女が何気に話題をふる。
「それはそうと、先日薬を仕入れに立ち寄った領境の市場で
リリアとうり二つの少女みかけましたよ」
「「「「「何ですってえええええ!!!!!」」」」」
その一言が恋の不協和音の始まりなんて、この時誰も予想できなかったのである。




