照れる
屋上に向かう。昼ごはんを食べにだ。
「屋上の鍵って開いてるの?」
霊城が俺に問う。どこで昼飯を食べるか聞かれた時に俺が屋上と言ったからだろう。別に理由はない。なんとなくだ。
もちろん俺が屋上に行ったことがあるわけでもない。まあ鍵がかかっていようが、どうとでもなる。問題は屋上が汚かったら、だ。バレないように綺麗にしなきゃな。
「ああ」
開いているかは知らないが一応そう答える。
屋上へ続く扉の前。案の定というかなんというか。やはり鍵がかかっていた。今は俺がノブに手をかけている状態だ。バレないように魔法で鍵を開ける。魔力でこの扉に合う鍵を作ったのだ。高等技術。
そして開ける。これまた案の定、汚い。開放していなかっただけあって、掃除もそんなにしていないのだろう。バレないように浄化。
「んっ?」
「どうした」
「今なんか·····いや、何でもない」
霊城が気付きかけてしまった。さっきのに気づかなかったからと少しわかりやすくしてしまった。不覚。少し過小評価だったようだ。
大体真ん中辺りで各々好きな位置に座る。俺の左右には、アイリスとララス。アイリスとララスの隣にそれぞれレイナとサラシャ。その隣にそれぞれ霊城とラナト。つまり円になっている。俺の正面は霊城とラナトだ。
「ご主人様、アイリス様。お弁当です」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ララスから弁当を受け取る。皆は弁当や、朝のうちに購買で買ってきたもののようだ。
「そのご主人様ってのは何なのよ」
レイナに聞かれる。
「ララスは私とお兄様の住んでいる屋敷の使用人です」
「使用人って……。もしかしてアレックス達は貴族なのかい?」
「でも苗字はないじゃねぇか」
「私達は元貴族です。お兄様が三男でしたので、混乱を避けるために家から出たのです。私はそれに付き合った形になります」
別段隠すことでもない。前にも言ったが珍しくもないのだ。
「ち、ちょっと待って……。貴族の三男でアレックス。その双子の妹でアイリス。それってまさか!」
そうです俺こそが大貴族の三男です。
「レイナ何驚いてんだよ。貴族の三男が家から出るのなんてそう珍しく……」
「そうじゃなくって、その貴族の家ってのが問題なのっ」
レイナがラナトに被せる。
「レイナがそこまで動揺するなんてどこの家だろう?」
サラシャが首を傾げる。
「アレックス君はどこの家出身なのかな?」
「シャイン」
時が止まる。普段であれば冗談として流されるくらいありえないもの。しかしレイナの狼狽っぷりが冗談でないと語っている。
アレックスもアイリスもそんなに珍しい名前ではないし、俺達の名前は他の大貴族と、シャイン家に連なる家にしか知らされなかったのだ。俺は元から冒険者になるのは決まっていたし、領民に後継者争いが起こるかもしれないという疑念をもたせないためだ。
「しかも、このふたりは信じられないくらい優秀だって有名だったのよ!」
照れるわ。
「どんな風にだよ」
「そりゃあもう凄かったわよ。高魔力体質だし、武器の扱いは一級品だし、三歳の頃にはそこらの大人よりも頭が良かったとか」
いやあ。
「へー。アレックスってすごいヤツなんだな」
そうなんだよ。
「やっぱり僕の見込み通りだったね」
「アイリスさんもすごいです」
満足。褒められるというのは気分がいい。まあ、少し恥ずかしくなってきたので話を切り上げさせる。その後は適当に飯を食う。
「あ、でもシャイン家から出たのになんで屋敷なんて持っているんですか?」
「そういやそうだな」
サラシャとラナトが疑問に思ったらしい。
「俺らがシャイン家を出たのは、七歳だ。そこから冒険者を続けていたら成功した」
「どんな依頼をこなしていたんですか?」
さらにサラシャに聞かれる。
「ダンジョン都市で魔物の素材を売ったりしていました」
アイリスが答える。
「でも、もう冒険者なら学園に来る必要ないんじゃないのか」
霊城が問う。
「お兄様が仰るには、私達に友人を作らせるためだそうですよ」
「アレックス君優しいんだね」
いやん。恥ずかしい。
後は雑談だ。
午後の授業は実技。実技の授業中は眠ることなんかできないので真面目に受けます。
「今日は初めてなので、自分に合った武器を見つけてもらいます。初等部で使っていた武器でもよし。他の武器に挑戦して見るのもよし。後半で模擬戦をしようと考えていますので、頑張ってくださいね」
はーい、と元気のいい返事。俺はどうしようかな。刃の潰された武器が集まっているところへ行く。ハンマーとかもあるな。ハンマーとかの場合どうすんだろ。剣とかと違って刃引きも何も無いし。そう思ってハンマーを手に取る。軽い。こんなに軽いとハンマーの持ち味がないな。
お、これにしよう。手甲があった。相手の武器は手甲で受け、殴っていくスタイル。なかなか浪漫がある。アイリスは槍、ララスはダガーにしたようだ。
模擬戦楽しみ。手甲をはめながらそう思った。




