復活
先日、新聞の人生相談に我が家とそっくりな状況の投書が載っていた。
年齢は違いこそすれ、長年、夫の仕事を手伝い、義母も介護の末に送ったのに、夫が昔の同棲相手と不倫をしている、という内容だった。
相談者は心労から10Kgも痩せたと、書いてあった。寂しさも訴えていた。
似た内容に驚いた。
そして私の身の上に起こった事も、私自身は一大事だと思っているが、案外、よくあるケースなのかも知れないとも思った。
人のやる事に、それほど違いはないのだとも思うし、しょうもない夫はどこにでもいるのだと、改めて知らされた。
ただ、新聞の相談者と私が違うのは、今回の不倫で、「寂しい」という感情はわかなかった事である。
「怒り」「悲しみ」はあったが寂しさは感じなかった。
案外、私は堪えてないなと、何だか複雑な気持ちがした。
怒りや悲しみは、前に出る感情だ。
表現や起因するものは違うが、喜び、嬉しさと同じ性質の感情だと思う。
人が本当に参ったら、虚脱感のように、凹んでいく感情しかないのではないか。
私は過去にほんの数回であるが、へこんでいきそうな時があった。
その時、心の中で「もう一つ、何か起きたら、私、精神やられるな」と恐怖を覚えた。
でも、今、そんな状態ではない。
私は案外、強いと自画自賛した。
発覚後、休日には我々夫婦は努めて一緒に出かけるようにした。
出かけると行っても、日帰りだ。
夫のせめてもの、罪滅ぼしだったと思うが、そのような時間を楽しむには私の心は荒れ過ぎていた。
出かけると、最後は必ず気まずい雰囲気になって帰ってきた。
同じ家に帰るのだから、殺伐としたやり取りは寝るまで続く。
子供が就職を機に独立して、夫婦二人だったから、抑制が効かなくなっていた。
私の顔はまさに夜叉になっていた事だろう。
そんな事を続けていたら、夫はますます逃げていく、と誰もが分かる事が分からなくなっていた。
自分だけが正しく、夫は罪人で、裁くのだと思い込んでいた。
馬鹿であった。
夫が地方に出張に出かけた。
定年前は役職に就いていたが、今度は現場の一兵卒に戻ったのだ。
定年後、なかなか切り替えがきかない男性も多いと聞くが、夫は大変さを感じながらも、新しい職場を楽しんでいるようだった。
いつの間にか夫への宣告から2ヶ月が過ぎようとしていた。
宣告後、相変わらず携帯チェックは続けていたが、怪しげな様子はなかった。
二人を重ねて、成敗したと思い込んでいた。
その頃の私はネットで、不倫された妻のブログを読みあさったり、不倫の証拠集めの方法や、苦しみから抜け出すためには、と言ったカウンセリングサイトを見続けていた。
そういったサイトを見ると、不倫がばれても、また関係を密かに始めるケースが多いと書いてあった。それもかなりの確率だというのだ。
また、携帯電話の操作のサイトで、消去したメールを見る方法がある事も分かった。
全ての携帯が消去メールの閲覧ができる訳ではないが、幸か不幸か、夫の携帯では、その操作ができた。
夫が地方出張から帰ってから数日して、私は夫の携帯で消去メールの復元を試みた。
坂下朋子からのメールがあった。
『出張で美味しいもの、食べられるなんていいなぁ〜
でも、きれいなお姉様にくっついて行っちゃダメですよ』
『あなたばかり、辛い思いさせてごめんなさい
私がそばにいられれば、慰めてあげるのに、今はちょっと無理ね。
でも、2人の記念日に会う約束、待ち遠しいなぁ』
『あなたが、私の事、後悔してるんじゃないかと、すっごく怖かったの。
でも、あなたも同じ気持ちだって分かって嬉かった‼︎
私達の間違いは35年前に別れた事ね。
今更遅いけど…
だから、今度は後悔したくないの。
大好き』
私の中で怒りがスパークした。
夫はすでに寝ていたが、夫の起こし、夫の前で、夫の携帯から坂下朋子へ電話をかけた。
「はい?」と坂下朋子が怪訝な声で電話にでた。
初めて、夫の不倫相手が実態となった瞬間だった。




