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  作者: 上田 桃子
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過去

「坂下さんですね。」

・・・「はい」

「杉山和夫の妻です」

・・・「はい」

「あなたは、まだ夫と連絡を取っていますね。

私が5月にメールを送ったとき、もう二度と連絡を取らないと約束しましたよね。

でもあなたは約束を破った。

今、ご主人はいらっしゃいますか」


「今、主人はいません」


「では、ご主人の連絡先を教えてください。これから連絡取ります」


「夫は仕事中で連絡つかないと思います。帰ってきたら必ず連絡します」


何度か押し問答したが、夫が帰宅したら連絡をするという坂下朋子の言葉を信じて、

いったん電話を切った。

目の前に繰り広げられていることに、夫は無言だった。

坂下朋子との電話を終えた私は、夫に向き合った。

冷静にと自分に言い聞かせながら、メールの中にあった「35年前」について問い詰めた。


夫は、私と結婚する前に坂下朋子と付き合っていたことを認めた。

その当時、坂下朋子には長年付き合っている人がいたにも関わらず、夫からのアプローチに肉体関係を持つまでになっていたそうだ。

坂下朋子は35年前にも二股をかけていたのだ。

あとから知ったことだが、その当時付き合っていた男性が現在の坂下朋子の夫君だとのこと、35年前と同じことを繰り返していたのだ。

人は業が深い。


35年前、夫は坂下朋子に自分と結婚する気はあるのか聞いたのだそうだ。

でも、結局彼女は夫を選ばなかった。

夫はフラれたのだ。

私が夫を紹介されたのは、その直後だったそうだ。


35年前と同じことを繰り返し、二度にわたり夫を裏切る心理は、私には到底理解できない。

何よりも35年前の彼女にからめとられる夫にとって、私との30数年の結婚生活は何だったのだろうと、絶望的な気持ちに陥った。

二度目の裏切りは、不倫を最初に知ったとき以上のダメージを私に与えた。


今、この不倫を知っているのは夫、私、坂下朋子の3人だけである。

明らかに2対1である。

夫はもはや、私の味方ではなくなっていた。

ひどく遠い人になっていた。


2時間ほどして、真夜中の12時近くに坂下朋子から夫の携帯に連絡があった。

かかってくるかどうか、一つのかけだと思っていたので、かかってきた時は意外だった。

坂下朋子の口から「夫に不倫を話した」と前置きがあってから、私と坂下朋子の夫は電話を通して向き合った。


坂下朋子の夫は

「突然、不倫の事実を妻から聞かされて、今何の考えもまとまらない、

でも自分が知った以上はもう連絡とらせない」と言っていた。

私が「2か月前に、私が不倫の事実を知った時に、坂下さんに不倫をやめるよう申し入れした」と告げると

「妻は、お宅がどうなったか気になってつい、連絡を取ってしまったそうです」と、この状況でも妻をかばっていた。


夫は私に問い詰められても、二度目の関係復活が、坂下朋子からの連絡がきっかけだとは言わなかった。

坂下朋子は自身の夫からも、そして不倫相手からもかばってもらっている。

本当に不公平だと、余計に憤りが湧いてきた。

坂下朋子の夫の声からは、妻を突き放すような「冷たさ」は感じられなかった。

すでに、この時点で妻の不倫を赦している。

どういう人なのだろうと、初めて坂下朋子への興味が湧いた。


今まで、夫が私を裏切ったという事にだけ、怒りがフォーカスされて、不思議に夫の不倫相手への怒りは感じてなかった。

相手を知らず、実態がなかったからであろう。

でも、今、声を聞き、存在が急に生まれてたような気がした。


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