証拠
私は不倫の状況証拠を集めだした。
知った最初の衝撃の波が去ると、自分でも、驚くほど冷静になれた。
夫にすぐに問い詰めるのは止めた。
メールのやり取りを始めとして、夫は驚くほど無防備だった。
夫と坂下朋子は毎日、頻繁にメールのやり取りをしていた。
最近の不倫の話題で、必ず登場するLINEではない。
でも、逆に中身のある、濃いメールであった。
そして、私が夫からはもらった事のない、文面だった。
証拠集めの過程で、私自身や義母の入院、子供たちの節目と夫の密会記録をすり合わせてみた。
義母のカンファレンスや子供の卒業式などと重なっていた。
夫は、休みを取る口実に、家族の予定を使っていた。
夫の不倫を知ってから初めて、腹の底から怒りが湧いてきた。
奥歯を噛み締めてないと、叫びだしそうだった。
それでも唸り声が喉から漏れた。
私の手には、不安を訴える義母をさすり続けた感触が残っていた。
同じ頃、どこで何をしていたのか。
想像するのも嫌だった。
とにかく、夫の不倫を止めなくてはならない、それだけは思っていた。
でも、どうやって止めるか。
その間にも夫の不倫は 進行していく。
今まで、意識の外にあった夫の行動に注意してみると、数々の不倫に関連した行動があった。
しかも2年近くも関係を続けていると、いろいろな行動がパターン化しているのが分かった。
トキメクフリンでも、パターンになるのだと、何だか可笑しかった。
夫は以前から早寝早起きで、朝は午前5時前には起きている。
そもそも、何時に起きているのか、私には分からない。
起きて、コーヒーを入れ、トイレに行き、新聞に目を通すのが毎朝の習慣だった。
その後で私を起こしてくれていた。
その長年の朝の習慣に、坂下朋子へのメールが加わっていたのだ。
夫の携帯電話の使い方は今まで、通話が中心であった。メールもCメールが中心で、連絡事項を手短じかに送ってくるだけであった。
今でも私への日常的なメールはCメールだが、いつの頃からか、携帯メールが混ざるようになっていて、ほんの僅かな違和感を感じたのが思い出された。
きっと文字数制限のあるCメールでは、足らなくなってきたのだろう。
毎日、これだけの長文のメールを作成して送信するのは、時間がかかったろうと、夫の太い指を思いだして、笑った。
もう一つ滑稽だったのが、絵文字を使っていたことだ。
普段の夫からは想像できない姿だった。
「今日はね~!!嬉しいことがあるんだぁー。
知りたくない?教えてほしい?
僕がずーと好きだった人とあえるんだぁー。
今日はいっぱい愛し合うんだぁー(ハートマーク)
それじゃねー(キスイラスト)」
夫は、私に限らず同僚や友人とのやり取りも、ほぼCメールなので坂下朋子とのやり取りだけが、何百通も携帯メール履歴に並んでいるのは、圧倒的な力を持って私に迫ってきた。
夫は寝るときも携帯電話を枕元に置くようになっていたので、坂下朋子とのメールの送受信記録を私の携帯に転送するのは大変だった。
携帯の操作に精通していれば、一気に転送する方法もあるのだが、その時点での私は、夫同様、連絡手段としてしか携帯電話を使っていなかった。
夫が熟睡したのを見計らって、何日かに分けて、携帯メールの履歴を集めた。
そして、夫の手帳に挟みこんであったビジネスホテルのデイユースのメモや勃起不全の薬の説明書、密会の予定を書き込んでいた、手帳のコピーをとった。
証拠集めにのめり込んでいく自分が怖かった。




