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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
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リナと2人で

 翌朝、眠らずに過ごした俺達はこの後どうするかを話し合っていた。

「たぶんこのまま鉱山洞窟に行くのは無理でしょう、今の状態のエッダさんを連れて行くのは危険すぎる」

 昨夜の出来事の恐怖が抜けないのかエッダさんは虚ろな表情をしている。

「そうですね、私もこのまま洞窟へ向かうのは得策ではないと思います」

 イルゼさんがエッダさんの肩を抱きながらそう話す。

「それじゃあ一旦アスト村に戻りま――」「私は洞窟へ向かうぞ」

 俺は帰還を提案しようとした途中でリナさんが割ってはいる。

「向かうって……護衛はどうするつもりですか?」

「そんなもの私は最初から必要ないわ。さっさと彼女達と帰ったらどう?」

「なるほど。つまり護衛の同行を許してたのは彼女達のためということですか」

 そう言ってイルゼさん達のほうを視線で示すとばつが悪そうに目を逸らすリナさんだが、昨日の襲撃の後からは少し態度が柔らかく感じられる。

「一つ聞いても良いですか?」

 リナさんは俺の問いにいいわと答える。

「そんなに急いで鉱山洞窟に向かう必要があるんですか? 一旦帰って体勢を整えてからでも遅くはないと思いますよ。それにあの盗賊達。何かおかしかった」

 シート被せて放置している盗賊の死体を見ながら尋ねる。

「それじゃ遅いのよ。私は一刻も早く一人前の魔術師になる必要があるの。そうでないと私は……」

 忌々しげな表情を浮かべるリナさんを見て、俺は方針を決める。

「レインさん。2人をアスト村まで護衛してもらえますか?」

 俺のその言葉を聞いてレインさんは何かを察したように頷いた後口を開く。

「わかりました。リナさんの事お願いしますねタスクさん。私リナさんとはもう少しじっくりお話してみたいんです」

「あなた達何を言っているの?」

 驚いた表情で訊ねてくるリナさん。

「何って護衛の分担の話ですよ。レインさんが二人を俺があなたを担当すれば問題ないでしょ?」

「何を馬鹿な事を」

「馬鹿な事じゃないですよ。あなたをここで一人で行かせるとおそらく達成金の金貨10枚がもらえなくなってしまいますし。そうでなくてもあなたを一人で行かせたくはない」

「金貨10枚ぐらいなら後で私がさしあげ――」「無駄ですよ、リナさん」

 リナさんが何とかして俺を帰そうと説得しようとするとレインさんが待ったをかける。

「タスクさんこう見えて結構頑固ですから。一度決めちゃった以上最後全うするつもりですよ」

「な……」

「こう見えてどういう意味ですか?」

 絶句しているリナさんを横目にレインさんに尋ねる。

「え? 優男ってことですよ。いい意味で」

「いい意味で……ね。とにかくそういう事なんで。リナさん改めてよろしくおねがいします」

 俺はいやそうな顔をしている彼女の目を見ながらしっかりあいさつをした。


「それじゃレインさん。二人をよろしくおねがします」

 出発のための荷造りを終えて、もう少しこの場に留まるというレインさんに2人のことを頼む。

「はい。タスクさんも気をつけて」

「タスクさん怪我などしないようにしてくださいね。リナさんをよろしくお願いします」

「タスクさん。ごめんね……」

 レインさんとイルゼさんが俺を激励し、エッダさんが申し訳なさそうに謝る。

「大丈夫ですよエッダさん。また来ればいいんですから。その時はお付き合いしますよ」

 エッダさんを励ますように目一杯笑顔を作ってそう告げた。

「あ……私。レインさんの気持ち少し分かったかも……はは」

「私もです。ふふふ」

 エッダさんとイルゼさんは小さく笑い合っている。

「レインさんの気持ち?」

「な! なんでもないですよ! いえ……なんでもなくはないんですけど。今言う事でもないので急いで出発してください!」

「え? あ……はい。それじゃいってきます」

 鋭い眼光でそう言ってくるレインさんが少し怖くて俺はとりあえず言われるがまま返事をする。

「…………」

 リナさんは無言でもう歩き始めていた。

「やるだけやってみるって言ったからな」

 マチルダさんに言った言葉を思い出して呟きながら前を歩く彼女の後を追って歩き出した。


「ねえ」

 無言でしばらく歩いたところでリナさんが前を向いたまま俺に話しかけてくる。

「はい。なんですか?」

「あなたウォーロックって知ってる?」

「え? 男の魔術師のことですか?(何なんだいきなり……)」

「そうよ。エルフの子といい。あなたといいよく知ってるわね。この国の歴史に興味がないと知ってる方が珍しいのに」

「歴史ですか?」

 俺の問いには答えずリナさんはこちらに問いかける。

「あなた。ウォーロックはいると思う?」

「……いると思いますよ」

 はっきりと答えた俺のほうリナさんが振り向く。

「どうしてそう思うの?」

「その前にあなたはどう思うんですか?」

「いないわよ。そんな存在……もし存在するのなら私は……」

 そこまで話してリナさんは立ち止まる。

「着いたわよ。晶石鉱山洞窟。さっさと中で純度の高い晶石を拾って帰りましょうか」

 彼女の視線の先には岩壁に大きく口を開けたかのような洞窟が見えた。


 洞窟にたどり着いたタスクとリナの様子を遠くから気配を消して見ている者達の姿があった。

「予定通りイリーナを別行動させることに成功したな。護衛の男が付いて来たのは余計だったが」

 盗賊のような格好の男が話す。

「しかし良かったのですか? 若様の命令だとギルドの試練を邪魔するだけで良いと」

 同じく盗賊のような格好の男がそう告げる。

「構わん。あの若造も所詮は我らの傀儡に過ぎん。それに忌々しい初代王妃の血を色濃く受け継ぐ者を生かしておく理由などない。本当なら昨夜の襲撃で死んでいて欲しかったものだが……」

「失敗したのは護衛の男が予想外に優秀だったのも大きいでしょう、襲撃も看破していたようですし」

「そうだな。だがどんなに護衛が優秀だろうとあの洞窟からは生きて出られんよ。今日が貴様の命日だ」

 男は洞窟から背を向けて肩越しにリナを睨みながら言葉を発する。

「イリーナ・フォン・レムナス」

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