魔法結晶石
「先導するわ。入りましょう」
リナさんはそう言うと収納の魔導具から何かを取り出す。
「それは?」
「光の晶石を使用したランプよ。燃料がいらないから便利なの。いちいち魔法で明かりを確保してたら疲れるでしょ? まぁ魔法が使えないあなたに言っても分からないでしょうけど」
「まぁ……そうですね」
俺はそう応えて気になることを尋ねてみる。
「ところで晶石っていったい何ですか?」
その言葉にリナさんはこちらに振り向いて信じられないようなものを見た表情をする。
「あなた何を言ってるの? 晶石を知らないってどんな生活を送ればそんな質問が出てくるのかしら?」
「あ……いや……え~と……(また失言だったか)」
「……冗談で言ってるわけではなさそうね」
俺の顔を観察しながらリナさんは呟く。
「いいわ。洞窟の道すがら暇つぶしに説明してあげる。行きましょう」
その言葉に促され俺はリナさんの後に続いて洞窟の中に足を踏み入れた。
「それじゃあ説明するけど。あなたは晶石ってなんだと思う?」
光のランプで洞窟の先を照らしながらリナさんが訊いてくる。
「う~ん……魔法みたいなことが出来る石って感じですか?」
「大体あってるわ。晶石。正確には魔法結晶石というんだけど。これを使うと魔法と同じようなことが出来るようになるの。といっても発動に魔力を使うから男には使えないけどね」
「なるほど(俺はどうなんだろうな……)」
「そのため魔導具を作るためには必須となる素材なの。炎の魔導具が作りたいなら炎の晶石が。水なら水という具合にね」
「あ! じゃあもしかして収納の魔導具に付いていた石も晶石なんですか?」
イルゼさんの説明を思い出して尋ねる。
「……おそらくそうなんじゃないかと言われてるわ」
「おそらく?」
「あの石は現在ある魔法体系どれにも当てはまらないのよ。だからあれが本当に魔法結晶石なのかどうかは分からないの」
リナさんは説明できないことが悔しいという雰囲気で話す。
「そうなんですか? じゃあその収納の晶石は置いておいて。そういう晶石が掘れるのがこの洞窟なんですか?」
「掘れるというのは違うわ。晶石はこういう洞窟や遺跡に無造作に落ちてるものなの」
「落ちてる? でも鉱山洞窟って……」
「それは元々ここが石炭の鉱山だっただけよ。石炭を掘ってる途中で晶石が見つかったために晶石鉱山洞窟って呼ばれるようになったの」
「石炭が掘れるんですか?」
「石炭は知ってるのね? 掘れるけれど晶石のほうが便利だからほとんど使われないし。採掘もされてないわよ」
「確かにそうですよね……じゃあ晶石っていったい何なんですか? そんなものが無造作に落ちてるって大丈夫なんですか? それこそ盗賊なんかに根こそぎ持っていかれるんじゃ?」
「盗賊じゃどれが晶石なのか分からないのよ。これを見て」
立ち止まったリナさんはそう言ってしゃがむと足元に落ちていた石を拾って俺に見せる。
「それって普通の石じゃ」
「違うわ」
次の瞬間、手に持った石が茶色く光り輝きだす。
「晶石は魔力は流すまで見た目じゃわからないの。盗賊になる魔術師なんてものがほとんどいないのも晶石に奪われない理由ね」
そう言って光っている晶石を地面に置く。
「いいんですか? 採らなくて」
「この土の晶石は純度が低いわ。ギルドの試練は品質の高いものを採ってくることだから」
そう言って再び歩き始めるリナさん。
「あの……晶石っていったい何なんですか?」
俺は一番分からないことを聞いてみる。
「わからないわ。なぜ石に魔法のような効果があるのか。そしてどうやって出来た物なのか。全くわからないの」
『晶石の正体なら知っていますよ』
「うわっ」
「どうしました?」
「いえ何でもないです……」
「……そうですか。晶石については以上です。暇つぶしにはなりました。感謝します」
リナさんは怪訝な表情をしながらも礼を言ってまた前を向いて歩き始める。
(驚かせるな。パーシヴァル)
『いい加減慣れなさいよ。タスク』
(努力はするよ。それで晶石の正体ってなんだよ?)
『あれは精霊の亡骸ですよ』
(亡骸?)
『ええ。精霊はその命を終えるとき結晶化するんですよ』
(じゃあここで沢山の精霊が死んだって事か……)
『悲観しなくて大丈夫ですよ。精霊が結晶化したということは自分の役目を全うした証ですから。全うできずに死んだものは結晶化しませんし』
(じゃあ晶石を使うことは)
『ええ。死して人の役に立てるというのは人と直接関われない私たちにとって本望ですよ』
(でもレインさんと関わっているだろ?)
『あれはタスクと彼女がお互いを信頼しているからですよ。つまりあなたを起点にしないと私は彼女に干渉できない』
(そうか……しかし晶石の事は黙っておいたほうが良さそうだな。言っても信じてもらえないだろうし)
『お好きなように』
そう言ってパーシヴァルの気配は消えた。
「この辺ね」
そう言ったリナさん先には開けた空間が広がっていた。
「ここに晶石が?」
地面を見ている彼女に話しかける。
「ええ。こういう開けた空間にはたくさん落ちてることが多いの」
(大勢で集まって役目を全うしたということなのか……精霊も一人は寂しいのだろうか)
何故かこの世界に来る切っ掛けになった精霊を思い出した。
「ありました。高純度とまではいきませんが。なかなかの炎の晶石です」
「良かったですね。ではすぐに出まし――」
キリキリキリキリ
洞窟を出ようと促そうとした時、突如耳に異音が聞こえだす。
「なんだ?」
周りを見回すが暗くて見えない。
「術式講――」「こっちの方ね」
詠唱の途中でリナさんが音の発生源と思われるほうをランプで照らす。
キリキリキリキリ
「な!」「いやっ!」
音の正体は2足歩行のムカデのような魔物が体にあるたくさんの足を鳴らしている音だった。




