第3話 上級黒魔法の嵐と、地下『秘宝の泉』への転落
いつも作品をお読みいただき、誠にありがとうございます!
第3話は、密室での絶体絶命の危機とハルトの決死の反撃、そして地下フロアへの突破です。
それでは、本編をお楽しみください!
――ダダダダダダダダダダッ!!
頭上の高い鉄格子の回廊に並んだ十五人の黒鎧の男たちが、手にした『黒鉄の長杖』の先端から、一斉にオレンジ色の禍々(まがまが)しい炎を噴き出させた。
次の瞬間、四角い石の密室全体を揺るがすほどの『雷鳴の嵐』が炸裂した。
街道の雑兵どもが持っていた短い杖とは、音の重さも魔力の禍々しさも次元が違う。長杖から絶え間なく吐き出される連続雷鳴に、俺の長い耳はキィィィン!と悲鳴を上げた。
――パァンッ! ガシャアアアンッ! バキバキッ!!
俺たちが乗っていた『白い鉄の荷馬車』の前方の透明な氷の板(窓ガラス)が一瞬で粉々に砕け散り、車体の鉄板に目に見えない無数の『黒弾』が突き刺さって火花を散らした!
(く、くそったれがァッ!!)
俺の黄色い目が驚愕に見開かれ、ゴブリンとしての生存本能が警鐘を乱打した。
隣で荷馬車の舵を握っている俺様の鞄持ち――ハルトは、たったの『レベル3』しかない柔らかい人間だ!
あの上級黒魔法の弾丸が一発でもハルトの頭に当たれば、スイカのように弾け飛んで死んでしまう! この鞄持ちが死ねば、俺様に秘宝の場所を教える案内役も、『経験値4倍の契約』もすべて消えてなくなるのだ!
「グガアアアアアッ!!」
俺はコンマ一秒も迷わなかった。
左手でハルトの襟首をガッと引っ掴むと、右肩で鉄の荷馬車の横扉を蹴り破り、ハルトを引きずり出すようにして石の床へと飛び降りた!
その直後、さっきまでハルトの頭があった座席の背もたれが、無数の黒弾によってボロ雑巾のように引き裂かれた。
「ゴ、ゴブッ!?」とハルトが石の床を転がりながら息を呑む。
――キンッ! ビシィッ! ギャリッ!
頭上から降り注ぐ見えない黒弾の雨が、俺たちの足元の石床をえぐって青い火花を散らす。
俺は右手に握った愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』の平らな先端を、荷馬車の後ろの分厚い鉄扉の蝶番にねじ込むと、『レベル27(筋力90)』の怪力を一気に爆発させた!
――メキョッ! バキィィィンッ!!
俺は荷馬車の分厚い鉄扉を力任せにむしり取ると、それを巨大な『鉄の盾』として俺たちの頭上に掲げ、ハルトを自分の小さな背中の後ろへと押し隠した。
その直後、本当の地獄が頭上から降り注いだ。
――ガガガガガガンッ!! ドゴォッ! ズガガガガッ!!
何百発という見えない黒弾の嵐が、俺の掲げる鉄扉の盾を大槌のように激しく叩きつけ、俺の足が石の床をズズズッと後ろへ押し滑らされた。
(な、なんて威力だ……!! これが魔王軍の上級幹部どもが放つ『長杖の黒弾魔法』なのかよ!?)
俺は緑色の歯茎から血が滲むほど奥歯を噛み締めた。
さっき街道の雑兵が放った黒弾は、俺の筋肉に当たっても表面で潰れるだけだった。
だが、今頭上から降ってきている上級黒弾は、回転しながら鋼鉄すら食い破る『貫通の呪い』が込められていた!
――ズパァンッ! グサァッ!!
鉄扉の盾の端を突き破った三発の黒弾と、石の床で跳ね返った一発の黒弾が、盾の隙間から俺の肉体へと襲いかかった。
焼けた鉄の杭を打ち込まれたような激痛が、俺の体を四箇所同時に貫いた!
一発が右肩の肉をえぐり、一発が左の脇腹を深く裂き、残る二発が俺の左太ももの硬い筋肉を突き破って骨の近くまで食い込んだ!
「ゴ、ゴブウッ……!!」
この世界に転生してから初めて、俺の口と傷口から濃い緑色の血がブシャッ!と噴き出し、灰色の石床を濡らした。
左足の力が抜け、俺は重い鉄扉の盾を支えたまま片膝を床についた。
《警告! 高威力の貫通攻撃により深刻なダメージを受けました!》
《体内の供物の備蓄が『0』のため、自動治癒が機能しません!》
《現在のHP:95% ➔ 68% ➔ 42%!!》
(い、痛え……! クソッ、骨が軋むほど痛えぞ!!)
肺が焼けるように熱い。腹の中に神の秘宝が一欠片も残っていないせいで、傷口から魔力と生命力がどんどん抜け落ちていき、視界がチカチカと明滅し始めた。
もし俺一人だけなら、敏捷90の脚力で壁を走り回って黒弾の雨を避けることもできただろう。だが、背後にいる足の遅いハルトを守るためには、俺がこの場に踏みとどまって『肉の盾』になり続けるしかなかったのだ!
『はっはっはっは! 見ろ、緑色の血を吐いて膝をつきやがったぞ!』
頭上の回廊から、首領の男――クロカワの勝ち誇った声が響き渡る。
『いくら化け物でも、5・56ミリ徹甲弾を食らえばただの肉塊だ! 後ろのガキを庇って一歩も動けねえぞ! このまま盾ごとハチの巣にして、大口径の散弾で両足を吹き飛ばせ!』
俺のすぐ後ろで、ハルトは自分の靴を濡らす俺の緑色の血を見つめ、顔を真っ青にして震えていた。
だが、そのメガネの奥の瞳に浮かんでいたのは、死への恐怖ではなく――自分の無力さに対する激しい悔し涙だった。
「ゴブ……! 僕なんかを庇ったせいで、そんなに血を流して……!!」
ハルトは声を振り絞って叫んだ。
「僕のせいだ……! ゴブは門の外で、あいつらが嘘をついているって最初から気づいて僕を止めてくれたのに! 僕がゴブの警告を無視したせいでこんな罠にはまったのに……それでも君は、僕を見捨てずに盾になってくれるのか!?」
「グルルル……ゴブッ! グガァッ!!(つべこべ泣き言を喚いてないで頭を下げてろ、バカ鞄持ち!! 今てめえの頭が吹き飛んだら、誰が俺様を『秘宝の大釜』まで案内するんだ!?)」
ハルトは袖で乱暴に涙を拭い去った。
(僕の甘さのせいで、たった一人の大切な相棒を死なせてたまるか……!)
ハルトの右手の甲で、金色の【従魔契約】の紋章が熱く脈打った。
(ゴブが僕の『盾』になって血を流しているなら、主人である僕がゴブの『槍』になるんだ!!)
俺が止めるより早く、ハルトは腰の帯から『二本の短い黒鉄の杖(38口径リボルバー拳銃)』を同時に引き抜くと、俺の小さな緑色の体の両脇からバッ!と身を乗り出し、高さ十メートルの頭上の回廊へ向かって二本の杖を突きつけた!
「僕のゴブを、これ以上傷つけるなあああああっ!!」
――ズガァンッ! ズガァンッ! ズガァンッ! ズガァンッ!!
ハルトは両手の短杖から、決死の覚悟で黒弾を乱射した!
頭上の回廊にいた魔王軍の幹部どもは、俺たちが防戦一方で反撃してこないと思い込み、手すりから無防備に身を乗り出して下を覗き込んでいた。
ハルトが下から放った決死の黒弾のうち、二発が上の男たちの右腕と兜の面に直撃し、さらに残りの二発が、首領クロカワが手に持っていた『声を大きくするラッパ(拡声器)』を木っ端微塵に吹き飛ばしたのだ!
「ぎゃあっ!? 下からガキが撃ってきたぞ!」
「うわあっ、頭を下げろ、柱の陰に隠れろ!!」
下からの思わぬ反撃に驚き、頭上の十五人の男たちが一斉に手すりから飛び退いて物陰に身を隠したため――降り注いでいた黒弾の嵐が、ほんの三秒間だけピタリと止んだ!
《契約主『ハルト』の援護攻撃により、敵の集中砲火が中断されました!》
俺は血走った黄色い目を大きく見開き、両手に煙を吐く二本の短杖を握って肩で息をしているハルトを見上げた。
(こ……このイカれた鞄持ちめ……!!)
傷ついた俺の長い耳が、戦友に対する純粋な畏敬の念でブルッと震えた。
(十五人もの魔王軍上級幹部による黒魔法の集中砲火を浴びながら、気絶するどころか二本の魔導杖を両手に持って『二刀流の黒弾連射』をやり返し、奴ら全員に尻尾を巻いて隠れさせやがっただと……!? なんという度胸だ、こいつはただの魔導師じゃねえ、本物の『大魔導師』の器だぜ!!)
だが、敵がひるんだ三秒間だけでは、この石の牢獄からは出られない。
頭上の柱の陰から、頬をかすり傷で濡らした首領クロカワが憎々しげに顔を出し、懐から『緑色の小さな鉄の卵』を取り出して、その頭の輪っかを歯で引き抜いた。
「クソガキがァッ、調子に乗るなよ! トラックごと肉片にしてやる、手榴弾を食らえ!!」
頭上から投げ落とされた緑色の鉄の卵が、カラン、コロンと乾いた音を立てて俺たちの盾の四メートル前に転がり落ちた。
俺は『手榴弾』という言葉は知らなかったが、長年の腐肉漁りで培った死の嗅覚が、その小さな緑色の鉄の卵の中に『部屋ごとハルトを吹き飛ばすほどの超高密度の爆裂魔力』が圧縮されていることを瞬時に察知した!
(まずい! あれは魔王軍の『爆裂魔石』だ!!)
俺は周囲を見回した。
上の回廊までは高さ十メートルのツルツルした石壁だ。太ももを撃ち抜かれた今の足で、ハルトを抱えて跳び上がるのは間に合わない。後ろの鉄の門は分厚すぎて壊せない。
俺の視線が、自分たちの足元の『石の床』へと落ちた。
俺たちのすぐ横一メートルの床の中央に、四本の太い鉄の杭で固定された、一メートル四方の分厚い『格子状の鉄の蓋(鋳鉄製の床ハッチ)』が埋め込まれていたのだ。
しかも――その鉄の蓋の隙間からは、むせ返るような熱気とともに、二つの強烈な匂いが下から吹き上げてきていた!
一つは、俺が魂の底から求めている『温かく溶けた大量の神の秘宝と甘い蜜』の天上の香り。
そしてもう一つは、その地下の暗闇をうろついている『何百体もの飢えたモンスターども』の野生の獣臭だった!
ハルトも爆裂魔石と足元の鉄蓋に気づき、必死の声で叫んだ。
「ゴブ、もう上には逃げられないし、あの爆弾が爆発する! この床の鉄格子は、地下1階の『カカオ調合フロア』に繋がる点検口だ! 君のバールでその鉄の蓋をこじ開けてくれ、下へ飛び降りるぞ!!」
《契約主ハルトの『緊急突破命令』を受領! 3秒間だけ肉体のリミッターを強制解除し、筋力が+20%上昇します!》
(この鉄の蓋の下が、神の秘宝が眠る地下階層なのか!? 上等だ鞄持ち、爆裂魔石ごとあばよだぜ!!)
俺は穴だらけの鉄扉の盾を投げ捨てると、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を両手で逆手に握り直し、その曲がった鉤爪の先端を、床の鉄蓋と石床のわずかな隙間へとガツン!と力任せに叩き込んだ!
俺の緑色の両腕の血管が、縄のように太く浮き上がる。
撃ち抜かれた左太ももから緑の血が噴き出す痛みも忘れ、俺は石床を踏みしめて唯一の武器スキルを解き放った!
「ゴブァァァアアアアアアアッ!!(開けやァッ、【暴食の痛撃 Lv.3】!!)」
――ギギギギギッ……バキィィィィンッ!!
全身の筋肉を絞った俺の渾身のてこの力が、人間が固定した四本の太い鉄の杭を根元からねじ切り、周囲の石床を砕いて重さ百キロの分厚い鉄の蓋を栓抜きのように宙へと跳ね飛ばした!
足元に、直径一メートル半の真っ暗な縦穴が口を開ける。
俺はハルトの腰帯を片手で小麦粉の袋のように引っ掴んで自分の胸に抱え込むと、ためらうことなくその暗闇の縦穴へと頭から飛び込んだ――その直後、俺たちの頭上で緑色の爆裂魔石が大爆発を起こした!
――ドゴォォォォォォォンッ!!
灼熱の爆風と鉄片の嵐が、俺たちのつむじが縦穴へ消えたコンマ一秒後に上の部屋の床を薙ぎ払った。
俺たちは暗闇の空間を六メートルほど落下し、俺が下で受け身を取って、香ばしい匂いのする麻袋(空のカカオ豆の袋)が山積みにされた柔らかい山の上へとドサッ!と着地した。
「ゴホッ、ゴホッ……! い、生きてる……助かったよ、ゴブ!」
麻袋の山から転がり落ちたハルトが、煤で汚れたメガネを直しながら、黒い煙が噴き込んでいる天井の穴を見上げた。
六メートル上の穴の縁から、首領クロカワが忌々しそうに顔を覗かせ、吐き捨てるように怒鳴るのが聞こえた。
『チッ、あの緑の化け物め、素手で点検口の鉄格子を引き剥がして地下1階へ逃げやがったか! ……まあいい、あいつらはもう終わりだ! あの地下フロアの扉は外から全部溶接して封鎖してある! 銃弾で死ななくても、地下のカカオタンクに巣食う『あの化け物ども』に骨まで食い尽くされるだけだ、ほっとけ!!』
上の男たちの足音が遠ざかり、重い鉄の蓋が再び上から塞がれて周囲が薄暗闇に包まれた。
だが、俺は上の臆病者どもの言葉などどうでもよかった。
俺は麻袋の山の前で四つん這いになり、左太ももから滴り落ちる緑の血を押さえながら、荒い息を吐いていた。
《現在のHP:28%(重傷・魔力枯渇状態)》
暑い。
この地下階層は、まるで熱帯の沼地のように蒸し暑く、空気そのものが甘く重苦しい熱気を帯びていた。
赤い非常灯のわずかな光に照らされた周囲には、巨大な鉄の釜や、ひっくり返った銀色の桶、そして大木の幹のように太い鉄の管が迷路のように入り組んでおり、割れた管の継ぎ目からは、茶色く固まった『神の秘宝』が鍾乳石のように垂れ下がっていた。
だが――この地下階層には、俺たち以外の『主』がいた。
――カリカリ……ペチャ、ペチャ……グルルルル……。
巨大な鉄の釜の陰や、さらには天井を走る太い管の上――まるで巨大な蜘蛛のように逆さまに張り付いた何十体もの異形の影が、一斉に真っ赤に充血した目を開いて俺とハルトを見下ろしたのだ。
そいつらは、外の街をノロノロと歩いていたレベル1の腐った死体とはまったく別物のモンスターだった。
そいつらの全身は、黒くツヤツヤと輝く『分厚い結晶化した秘宝(カカオと焦がし砂糖)の黒い鎧』にすっぽりと覆われており、その内側の筋肉は過剰なまでの栄養と魔力を吸い上げてドクンドクンと異常な速さで脈打っていた!
俺は血のついた『鉤爪付きの鉄の棍棒』を構え、天井の管から猛スピードで這い降りてきた先頭の一体に【捕食鑑定】を発動した。
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【種族:秘宝過食アンデッド(高カロリー・カカオ変異種)――レベル:18】
【筋力:52/敏捷:58/防御:45】
【特徴:結晶化カカオの重装甲/過剰栄養による超高速駆動】
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レベル18の上位アンデッドが、暗闇の中にざっと四十体以上。
四方を完全に囲まれたハルトは、壁や天井をゴキブリのような猛スピードで這い回る黒い鎧の怪物たちを見て、絶望に顔をひきつらせた。
だが――重傷を負い、飢えに苦しんでいた俺の緑色の顔に浮かんだのは、恐怖ではなく、生まれて初めて見せるほど凶悪で歓喜に満ちた笑みだった。
(……ほう。なるほどな)
俺は唇についた自分の緑色の血を舌で舐め取り、目の前のレベル18の怪物たちが身に纏っている『分厚い黒光りするチョコレートの鎧』をギラついた目で睨みつけた。
(てめえらアンデッドの分際で……この一ヶ月間、俺様の神の秘宝の泉に勝手に浸かって、体に鎧が生えるまで俺様のミルクチョコレートを食い散らかしてやがったのか……!!)
俺が握りしめた鉄の棍棒が、ミシミシと音を立てて軋んだ。
「ゴブ……グガアアアアアアアッ!!(おい鞄持ち、その二本の短杖を構えろ!! この地下階層じゃ、最高級の秘宝と大量の経験値が向こうから歩いてきやがるぞ……一匹残らず引っ剥がして俺様の胃袋にぶち込んでやるぜええええっ!!)」
第3話をお読みいただき、誠にありがとうございました!
ハルトの決死の援護とゴブの怪力で床の鉄蓋をこじ開け、地下フロアへと飛び降りた二人でしたが、そこにはさらに強力な変異モンスターの群れが待ち構えていました。
続く第4話では、ゴブによる大逆転の快進撃と、最初の『種族進化』が巻き起こります!
引き続き第4話もお楽しみいただけますと幸いです。




