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第2話 SSランクダンジョンの門と、魔王軍の上級幹部(?)

いつも作品をお読みいただき、誠にありがとうございます!

第2話は、目的地である『SSランクダンジョン』への到着と、新たな敵との遭遇です。


それでは、本編をお楽しみください!


グルルルル……ギュルルル……グォォォォッ!!



俺の緑色の腹の底から響き渡った飢餓の咆哮は、唸りを上げて走る『白い鉄の荷馬車』の轟音すらもかき消すほど巨大だった。



西へと続く石の道を疾走する鉄の荷馬車の席で、俺――ゴブは、三つ目の大きな背負い袋の中に頭ごと突っ込み、布の裏地にわずかに張り付いた茶色い秘宝の粉を必死に舌で舐め取っていた。



――ない。一欠片も残っていない。



黒弾で穴が開いた金色の箱から最後の柔らかい秘宝を救出して飲み込んでから、すでにずいぶん時間が経っていた。


身長百二十センチの小さな体に『レベル26』の超高密度筋肉を詰め込んだ俺の肉体は、早くも深刻な魔力炉(胃袋)の飢餓状態に陥っていたのだ!



「ゴブゥ……グガァァァッ!!」



俺は空っぽの背負い袋から頭を引き抜くと、前の黒い棚を小さな拳でバンバンと叩き、丸い舵(ハンドル)を握る俺様の鞄持ち――ハルトへ向かって牙を剥いて吠えた。



(おい鞄持ち、その足元の板を床が抜けるまで踏み込め!! 俺様の魔力炉が完全に空っぽなんだよ! 今すぐ温かい神の脂と甘い蜜の海に飛び込まねえと、俺様はこの荷馬車の丸い舵を齧(かじ)り始めるぞ!!)



もちろん俺の口からは獰猛な獣の唸り声しか出ていないのだが、隣で舵を握っているハルトは、俺を見るなり感動で目を潤ませた。



「分かってるよ、ゴブ……! 一刻も早く工場に辿り着いて、中に取り残されている生存者の人たちを助けたくて、武者震いが止まらないんだね!」


ハルトは丸い舵を強く握りしめ、力強く頷いた。


「自分のお腹が空いているのに、どこまでも人類の平和を優先するなんて、なんて気高い守護精霊(ペット)なんだ……! あと一分で着くから、もう少しだけ我慢しててくれ、僕の小さな英雄!」



(……誰が生存者の心配なんかするかボケェ! 秘宝が切れて目が回ってんだよ!)



俺が苛立ちのあまり体を縛る帯(シートベルト)に噛みつこうとした、まさにその時だった。


割れた横の窓から、生暖かい一陣の風が吹き込んできた。



俺のキャベツの葉のような長い耳が、ピクリと垂直に跳ね上がった。


鼻の穴が限界まで広がる。



灰色の空気の中に混じっていたのは、石や錆びた鉄の臭いではなかった。


それは、山のように焼かれた香ばしい神の豆と、熱でドロドロに溶かされた甘い神の脂、そして濃厚な乳の甘い香りが巨大な風穴から吐き出される――天上の楽園の匂いだった!



「見えたぞ、ゴブ!」


ハルトが前方の透明な板の向こうを指差して叫んだ。


「あれが『武蔵野・中央製菓工場』……僕たちの目的地、『SSランクダンジョン』だ!!」



俺は窓から緑色の頭を半分突き出し、よだれを風になびかせながら前方を見据えた。


そこにそびえ立っていたのは、王都の城よりも巨大な灰色の石の要塞だった。赤と白に塗られた三本の巨大な塔が空を突き刺し、壁の内側には巨大な銀色の大釜(タンク)が並び、大木の幹のように太い鉄の管が建物から建物へと張り巡らされている!



(あったぞ……! 大木みてえな鉄の管と、神の秘宝がたっぷり詰まった銀色の大釜だ!! 鞄持ちの言った通り、この世界の神の宝物庫は本当に実在しやがったんだ!!)



だが、俺の愛しき秘宝の大釜と俺たちの間には、招かれざる先客たちが群がっていた。



要塞の分厚い鉄の正門前の広場には、ひっくり返った巨大な鉄の荷馬車の周りに五十体あまりの『感染死体(レベル1)』がひしめき合っていた。


しかもその群れの中心で、横の鉄扉を体当たりで破壊しようとしている三体のアンデッドは、他の雑魚よりも一回り以上図体がデカく、分厚い布鎧(作業着)と黄色い兜(ヘルメット)を身につけていた。



俺はすかさずスキル【捕食鑑定】を発動した。



――――――――――――――――――――

【種族:重作業員アンデッド(パワーローダー)――レベル:3】

【筋力:9/耐久:12/状態:筋繊維硬直化】

――――――――――――――――――――



ハルトは正門から三十歩ほど手前の道で白い鉄の荷馬車を停めた。


これまでのハルトなら、ここで荷馬車の中に隠れて震えているところだった。


だが、先ほど『レベル2』へと成長した俺の鞄持ちは違った。ハルトは腰の帯から、街道の魔王の手下から奪い取った『黒鉄の短杖(38口径リボルバー拳銃)』を引き抜くと、凛々しい表情で扉を開けて外へ降り立ったのだ。



「正門の前に五十体の通常ゾンビと、三体の大型ゾンビが固まっているね!」


ハルトは黒い石の道の上に立ち、両手でしっかりと黒鉄の短杖を構えて言った。


「あいつらを倒さないと、門を開けてトラックで中に入れない。ゴブ、僕がここから銃で君の背後を援護する! 行け、僕の相棒(ペット)、一緒に正面突破だ!!」



《契約主ハルトの『戦闘命令』を受領しました! 従魔ボーナスにより全ステータスが+10%上昇します!》



(フッ、言うようになったじゃねえか、俺様の『黒魔導師兼鞄持ち』よ! SSランクダンジョンの扉の開け方をたっぷり見せてやるから、後ろからしっかり援護しろよ!)



「ゴブァァァアアアアアッ!!」



俺は白い鉄の荷馬車の鼻先を蹴って大跳躍し、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を構えて五十体のアンデッドの群れのど真ん中へと緑色の隕石のように着地した!



――ドゴォッ! バキィッ! グチャァッ!!



いくら腹が減っているとはいえ、『レベル26』の俺とレベル1の雑魚とでは次元の壁がある。


俺は無駄な飛び跳ねを一切やめ、最短距離を直線的に踏み込みながら、鉄の棍棒の水平殴打だけで群がるアンデッドの膝と頭蓋骨をまとめて粉砕していった。



わずか少しの間で四十体の雑魚が肉片となって床に沈んだ、その時だ。


正門を叩いていた身長二メートル近い三体の『重作業員アンデッド(レベル3)』が、地響きを立てて三方向から同時に俺へと襲いかかってきた!



「グォォォォォォッ!!」



一体目の巨漢が振り下ろしてきた太い鉄の工具を、俺は鉄の棍棒の胴部分でガキィン!と受け流し、その回転力を利用して二体目の重作業員アンデッドの分厚い胸板へと、棍棒の曲がった鉤爪の先端を深く突き刺して後ろの鉄車に縫い止めた!



――ドスッ! メキョッ!



だが、レベル3の硬直した分厚いあばら骨と布鎧に棍棒の曲がった爪が食い込み、俺の鉄の棍棒がほんの一瞬だけ敵の胸から抜けなくなった。


そのわずかな隙を突いて、三体目の重作業員アンデッドが俺の真後ろの死角へと回り込み、腐った大口を開けて俺の首筋へと噛みつこうと飛びかかってきた!



(チッ、棍棒の爪が引っかかった! 手を離して裏拳で叩き潰すか――)



俺が鉄の棍棒から手を離そうとした、その刹那。


三十歩後方の荷馬車の前から、ハルトの鋭い声が響いた。



「僕の大切なペットに指一本触れるな、化け物め!!」



――ズガァンッ! ズガァンッ!!



乾いた二つの雷鳴が広場を切り裂いた。


俺の右耳のすぐ横を、目に見えない超高速の『黒弾』が二発立て続けに通過し――俺の背後に迫っていたレベル3の重作業員アンデッドの左目と眉間を、寸分の狂いもなく正面から撃ち抜いたのだ!



頭蓋骨を内側から吹き飛ばされた三体目の巨体が、俺の背中に触れることなく仰向けに倒れ込む。


俺はその隙に鉄の棍棒を引き抜き、残る一体目の頭蓋骨を真横に叩き割って、正門前の広場を完全に沈黙させた。



《感染死体(Lv.1)を50体、重作業員アンデッド(Lv.3)を3体討伐しました!》


《レベルアップ! レベル26から『レベル27』に上昇しました!》


《主従の連携討伐ボーナスにより、契約主『ハルト』がレベル2から『レベル3』に上昇しました!》



俺は肩に鉄の棍棒を担ぎ直し、後ろの荷馬車へと振り返った。


そこではハルトが、まだ白い煙のくすぶる黒鉄の短杖を両手で構えたまま、誇らしげな笑顔を浮かべていた。



(……す、すげえじゃねえか!!)



俺は感嘆のあまり、自分の緑色の胸板を拳でドン!と叩いた。



(三十歩も離れた場所から、俺様の耳をかすめもせずにレベル3のアンデッドの目玉を正確に撃ち抜きやがったぞ! こいつ、さっき【黒弾の魔導具】を拾ったばかりなのに、もう魔王軍の上級魔導師並みの精密射撃を身につけてやがる! こんな頼もしい黒魔導師の鞄持ちが背中を守ってくれるなら、俺様は両手で秘宝を食いながらでも戦えるぜ!!)



「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!(見事な黒弾魔法だったぞ、鞄持ち! よし、このままこの鉄の門をぶち破って秘宝の大釜へ突撃するぜ!)」



俺が正門の鉄扉を蹴り破ろうと助走をつけた、まさにその時だった。


要塞の高い壁の上――高さ十メートルほどある2階の石の回廊の手すり沿いに、黒い鎧と黒い兜を身につけた『十五人の大人の人間たち』がずらりと姿を現したのだ。



俺の長いゴブリンの耳は、その中心に立つ顔に傷のある四十代ほどの首領の男が、手にした『声を大きくするラッパ』を使う前に、部下たちへ向かって低く囁く声をしっかりと捉えていた。



「おい、見たか今の……? あの緑色の小さな化け物、バール一本で外のゾンビ五十匹と大型三匹をミンチにしやがったぞ。しかもあのメガネのガキの命令に飼い犬みたいに忠実に従ってやがる。トラックごと『第2荷捌き室』の密室へ誘い込め! 後ろの鉄扉を閉めて閉じ込めたら、上から全員でメガネのガキを蜂の巣にして殺し、緑の化け物は両足を撃ち抜いて生け捕りにするぞ!」



俺はそれを聞いて黄色い目を細め、上の十五人の男たちに【捕食鑑定】を発動した。



――――――――――――――――――――

【種族:人間(武装占拠グループ首領:クロカワ)――レベル:5】

【装備:連射式・黒鉄長杖(5.56mm)/防弾黒鎧】

【精神状態:冷酷な打算・欺瞞・極度の強欲】

――――――――――――――――――――



俺の視線が、奴らの強欲に歪んだ顔から、十五人全員が胸の前に構えている『異様な魔導具』へと移った。



それは、街道の三人組やハルトが持っている「短い黒鉄の杖」ではなかった。


上の十五人の黒鎧の男たちが両手で抱えていたのは、俺の背丈の半分以上もある『巨大な黒鉄の長杖』だったのだ! その腹の下には曲がった黒い弾の箱が突き刺さり、杖の上には赤いガラスの目玉が怪しく光っている!



俺の背筋に、氷水のような悪寒が走った。



(な、なんだあの黒鉄の長杖は……!? さっきの雑兵が持っていた短杖の『五倍』は長いぞ!! 前世のエルドリアでも、魔導師が持つ杖が長くてゴツければゴツいほど、そいつが放つ黒魔法の威力と階級は跳ね上がった! つまり、このSSランクダンジョンを占拠しているレベル5の黒鎧の十五人は、大杖を操る『魔王軍の精鋭・上級幹部部隊』に違いねえ!!)



すると上の首領クロカワは、『声を大きくするラッパ』を口に当て、まるで優しい父親のような猫撫で声を作って広場全体に呼びかけた。



『――待て待て、そこの二人! 門を壊す必要はない、俺たちは味方だ!! 正門のゾンビを片付けてくれて本当に助かったよ、若き英雄くん! 今すぐ横の「第2搬入口」の鉄扉を開けるから、トラックごと中へ入ってくれ! 中では君の小さな相棒のために、出来立ての最高級ミルクチョコレートを山ほど用意して待っているぞ!』



「あ、工場の警備隊の人たちだ!」


遠い場所にいてさっきのヒソヒソ話が聞こえなかったハルトは、パァッと顔を輝かせ、黒鉄の短杖を腰に戻して手を振った。


「聞いたかい、ゴブ!? すごく良い人たちだ、僕たちにお礼として出来立てのミルクチョコレートを山ほど用意してくれているって! さあ、トラックに乗って中へ入ろう!」



ゴゴゴゴゴ……と重苦しい音が響き、正門の横にある分厚い『鉄の吊り扉』がゆっくりとせり上がって、白い光に照らされた石の部屋が口を開けた。



俺は首の毛を針のように逆立て、荷馬車に乗ろうとするハルトのズボンの裾を片手でガッと引っ掴むと、上の男たちを指差して必死に威嚇の唸り声を上げた。



「グルルル……ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(待て鞄持ち、入るんじゃねえ! 俺様の長い耳には全部聞こえたぞ、あいつらは人間のフリをした『魔王軍の上級幹部部隊』だ! あの長い黒弾の杖を見ろ、石の部屋に閉じ込めててめえを殺す気だぞ!!)」



だが、人間の言葉が話せない俺の必死の警告は、ハルトにはまったく逆に伝わってしまった。



「こらこら、ゴブったら。さっき高速道路の悪い人たちに撃たれたからって、制服を着た警備員の人たちまで怖がっちゃダメだよ!」


ハルトはくすぐったそうに笑いながら俺の緑色の頭を優しく撫でた。


「僕を守ろうとして警戒してくれているのは嬉しいけど、この人たちは味方だから大丈夫! 主人(マスター)である僕を信じて、美味しいチョコレートをもらいに行こう!」



ハルトはそう言って舵の席に飛び乗り、俺を隣の席へと手招きした。



(く、くそったれえええっ!! 俺様の鞄持ち、黒弾魔法の才能は天才的なのに、人間の耳が短すぎるせいで敵の作戦が聞こえてねえ!!)



だが、ハルト一人で突っ込ませるわけにはいかない。このレベル3のモヤシ人間が死ねば、俺様の【従魔契約(経験値4倍ボーナス)】も消滅してしまうのだ!



俺は『鉤爪付きの鉄の棍棒』を強く握りしめ、全身のレベル27の筋肉を極限まで張り詰めさせながら隣の席に飛び乗った。



白い鉄の荷馬車がゆっくりと前進し、鉄の吊り扉の下をくぐり抜けて石の部屋の内部へと進入する。


そこは窓一つない巨大な灰色の石の四角い部屋だった。壁の上部、高さ十メートルの位置には、部屋をぐるりと取り囲むように『鉄格子の回廊』が張り巡らされている。



そして当然ながら――部屋のどこを見渡しても、秘宝の箱など一つも置かれてはいなかった。



俺たちの白い鉄の荷馬車の後ろの車輪が、入り口の線を完全に越えた、その瞬間。



――ガシャアアアアアアアンッ!! ドォォォンッ!!



俺たちの背後で、重さ三トンはある分厚い『鉄の吊り扉』が断頭台のように落下し、石の床を揺らして唯一の退路を完全に封鎖した!



「えっ……!? ど、どうして後ろのシャッターを閉めたんですか!?」


ハルトが異変に気づき、密室のど真ん中で荷馬車を急停止させた。



次の瞬間。


高さ十メートルの頭上の鉄格子回廊に、十五人の黒鎧の男たちが一斉に姿を現し――暗い空間を十五本の『赤い呪いの光糸(レーザーサイト)』が切り裂いて、ハルトの眉間と、俺の胸板へとピタリと重なった。



――ガシャッ! チャキッ!!



十五本の『黒鉄の長杖』が同時に構えられる冷たい金属音が、石の処刑場に反響する。


そして頭上から、先ほどまでの優しげな声とは似ても似つかない、首領クロカワの冷酷で下卑た笑い声がラッパを通して降り注いだ。



『ようこそ屠殺場(とさつじょう)へ、おめでたいバカども! 総員、まずは運転席のメガネのガキを蜂の巣にして殺せ! そして緑の化け物は、5・56ミリ徹甲弾で両足を粉々に吹き飛ばして生け捕りにしろ――撃てェッ!!』

第2話をお読みいただき、誠にありがとうございました!

黒い長杖を構えた一団を「魔王軍の上級幹部部隊」と警戒するゴブでしたが、人の良いハルトはそのまま建物の奥へと誘い込まれてしまいます。


続く第3話では、密室での激しい攻防と、さらなる深部への突入が始まります!

引き続き第3話もお楽しみいただけますと幸いです。


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