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短編集  作者: さく
8/8

プロデューサーα×エロ配信者Ω

オメガは、成人向けの動画で人気を集める配信者だった。


撮影は基本的に、ひとりきりで行う。


ベッドの上にカメラを据えて、衣服を落として、自分で自分を高めていくところを見せる。


それが彼の売りものだった。


整った顔立ちと、オメガらしい華奢な身体。


なにより、レンズの前で少しも臆さず、いちばん綺麗に見える角度で乱れてみせる術を知っている。


会員数は右肩上がりだった。


そのオメガをプロデュースしているのが、あのアルファである。


二人が組んだのは二年前。


アルファは、このオメガの見せ方を徹底的に研究した。


同じような内容では飽きられる。


どこまでを無料で公開するか。


どんな企画なら有料会員が増えるか。


衣装は、角度は、公開のタイミングは。


オメガのほうも、この男の判断を全面的に信用していた。


実際、組んでからの収益は何倍にも跳ね上がっている。


ただ、このチャンネルには、ときおり数字が異常に伸びる回があった。


プロデューサー本人が出演する回である。


もちろん顔は映さない。


カメラの位置を調整して、相手役としてベッドに上がるだけ。


その回にかぎっては、オメガはひとりで乱れるのではなく、このアルファの腕の中で乱れることになる。


公開すれば、再生数は通常の数倍に膨れ上がった。


最初は一度きりの企画だったはずが、いつのまにか数か月に一度の恒例になっていた。


ある撮影の翌日。


ソファに寝転がってスマホを眺めていたオメガは、感心したように言った。





「ねえ。昨日のやつ、もう先月の最高記録抜いたんだけど」


「そうか」


「自分で撮ってるの、馬鹿らしくなってくるな」





向かいでパソコンを開いたまま、アルファは顔も上げずに答える。





「普段のがあるから特別感が出るんだ。毎回俺が抱いてたら、数字は落ちる。今くらいがちょうどいい」


「でもコメント欄、あんたの話ばっかりだよ。『またあのアルファだ』『今回いつもより激しい』って。俺のチャンネルなんだけど?」


「ちゃんとおまえを見てるだろ。俺の顔なんて映ってないんだから」





もっともである。


オメガは画面をスクロールして、ふと吹き出した。





「『絶対この二人付き合ってる』だって」


「好きに言わせておけ」


「残念でした。ただのビジネスでーす」





笑ってスマホを放り出す。


実際、そのとおりだった。


二人が肌を重ねるのは撮影のときだけ。


カメラが止まれば、プロデューサーと配信者に戻る。


長く組んでいるぶん気心は知れているが、恋人ではない。


――少なくとも、オメガはそう思っていた。


ところが最近、この男の様子が少しおかしい。


次の企画会議のことだった。





「そろそろ、違う相手に抱かれる回があってもいいんじゃない? 最近コラボの誘いも結構来てるし」





資料から、アルファが顔を上げた。





「必要ないだろ。二人で撮る回は、今でも十分数字が出てる」


「だから毎回あんたに頼むのも悪いじゃん。別に本業じゃないんだし」


「構わない」





即答だった。


あまりに早かったので、オメガは思わず瞬きをする。





「……出てくれるの?」


「知らない男に抱かせるくらいなら、俺がやったほうが管理しやすい。撮影にも慣れてるしな」





もっともらしい理屈だった。


もっともらしいのだが。





「へえ。じゃあ、これからも俺の相手よろしく」





からかうように言っても、アルファは眉ひとつ動かさない。





「仕事ならな」





そのくせ、いざ撮影となると妙に熱が入るのだ。


二人で撮った夜のこと。


カメラが止まったあとも、オメガはベッドに沈んだまま、まだ乱れた息を整えていた。





「……今日、長くなかった? 編集大変そう」


「使えるところが多かったからな。数字は出ると思う」





アルファはもう、いつもの仕事の顔に戻っている。


オメガは呆れて笑った。





「よくそんな平然としてられるね。さっきまで散々俺のこと抱いてたくせに」


「撮影だからな」


「はいはい。プロですね」





これも、いつもどおりの会話だ。


そう思って起き上がろうとしたオメガは、動きを止めた。


腰に回った腕が、離れない。





「……プロデューサー?」


「なんだ」


「撮影、終わってるけど」


「知ってる」





なら、なぜまだ抱き寄せているのか。


怪訝そうに見上げると、アルファは数秒黙り込んで、それからようやく腕を解いた。





「悪い。癖だ」


「そんな癖ある?」


「今できた」


「怖」





笑って流した。


流したのに、妙な違和感だけが胸に残った。


それから数日後。


また、コラボの依頼が届いた。


今度はかなり名の知れたアルファ配信者からだ。





「この人ならいいんじゃない? 向こうも顔出ししてるし、数字も持ってるし。俺としては一回やってみたいけど」





スマホを差し出す。


アルファは相手のプロフィールをじっと眺めて、しばらく黙っていた。


そして、こう言った。





「……俺じゃ駄目なのか?」





思わぬ返事だった。





「いや、駄目じゃないけど。あんた、プロデューサーでしょ」


「俺との回が一番売れてる」


「それはそうだけど」


「おまえも、俺なら気を遣わなくて楽だと言ってただろ」





たしかに、言った。


オメガは、目の前の男の顔をまじまじと眺めた。





「……もしかして。ほかのアルファに、俺を抱かせたくない?」





冗談のつもりだった。


笑って否定されると思っていた。


けれどアルファは、目を逸らさなかった。





「だったら?」





オメガの笑みが、止まる。


アルファは何事もなかったようにスマホを返してきた。





「その案件は保留だ。次回も俺が出る。企画は明日詰めよう」





そのまま、勝手に決めて立ち上がってしまう。





「ちょっと待って。今の何?」


「仕事の話だ」


「絶対違ったでしょ!」





アルファは答えない。


ただ、少しだけ楽しそうに笑っていた。


その背中を見送りながら、オメガは思う。


二人はあくまでビジネスだ。


撮影の日だけ肌を重ねて、カメラが止まればプロデューサーと配信者に戻る。


そのはずだった。


なのにこの男は、明らかに境界線を踏み越えはじめている。


しかも――どうやら本人には、戻る気がまるでなさそうだった。

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