あなたに出逢ったから、わたしは”あの日”まで生きれた
カレンダーを見て、その日が近づいてくるのを見る。
みんなで出逢った日。
悲しいことがあった日。
でも、
「記念日、来るね…」
「お前のその感覚は本当によくわからないな……」
カレンダーを見ながらつぶやいたら、リアスが少しあきれ気味に言った。
失礼じゃない?
三月二十七日だよ?
「大事な日…」
「それは認める」
「そしたら記念日じゃない…?」
「何度も言うが記念とは言いづらくないか……?」
ちょっとほんとにわけわかんないみたいな顔しないでよ。
カレンダーは置いて、少しだけほっぺふくらませながら。ソファで読書してるリアスに近づいて行って、ひざに乗っかる。
「不服そうだな」
「認識の、ちがいが出てる…」
「そりゃ受け取り方が違うんだから認識も違うだろうよ」
不服そうなわたしに笑いながら、リアスは本を置いて。支えるように、でもどこか甘く。わたしの腰に手をまわした。
「今そういうふんいきじゃない…そういうのはのーせんきゅー…」
「お前から膝に乗ってきてそれはない」
「うそでしょ…」
暴君め。
どうせ心の中で言ってるのわかってるだろうから。
「暴君…」
「おそらく心の中でも言っているだろうが言葉違くないか」
「俺様…」
「これがお前から膝に乗ってきたわけじゃなかったなら認めてやる」
「わたしにそういう意思はない…」
「そろそろお前が俺に恋愛感情を抱いてくれているのかが本気で心配になってくるなその言い方は」
抱いてますけども。
違うじゃん、そうじゃないじゃん。
「まじめな話じゃん…」
「知っているが」
「知ってるならこんな甘く腰に手をまわしたりしない…」
「恋人が膝に来てくれたならまじめな話だろうとなんだろうと触り方は甘くなるだろ」
「意味わかんなくない…?」
「それは男ならではだろうな」
「あわよくば…?」
「あいにくそれを狙うほど落ちぶれちゃいない」
言いながら、甘く回してきた手はわたしを引き寄せる。
そうして、肩にもたれて。
「で?」
甘いような、少し低い声で先を促された。
それはずるくない??
「ずるい…」
「何が」
「無自覚でそんなかっこいいのずるくない?」
「記念日がどうたらみたいな話だったか」
「こいついつも通りだなっていうみたいにスルーしないでくれます…?」
たしかに通常運転ですけども。
でもそっちのかっこいい話題には戻してくれなくて。
また「それで?」って聞くみたいに、リアスは肩にすりよる。ほんの少しだけ、金の髪がくすぐったい。
ちらっと見える横顔はかっこいいけど。
なんとなく、どきどきはしない。
別にときめいてないとかじゃなくて。
「…記念日、だと思うよ」
「……あぁ」
手が、声が。悲しそうだから。
「……やっぱりお前くらいじゃないか、そう言えるのは」
小さくこぼれた音は、わたしを見下してるとかじゃない。
「……俺はお前ほど、そう強くはない」
強く抱きしめられて、吐き出された音は、ただただ後悔ばかりが詰まってた。
あの日、わたしを守れなかったこと。
その先もずっと、目の前で。悲しい姿でただ死んでいくわたしのことを見送り続ける人生。
見送るたびに、あなたは何度も何度も後悔して、また努力をして。
そうしてまた、深い悲しみに心で泣いていく。
「…」
あなたは強くないというけれど。
わたしはやっぱり、あなたが強いと思う。
目の前で大切な人が死んでしまう。
記憶も残って、たまにフラッシュバックする。その記憶は消えることなく、思い出というように増えていく。
その悲しい思い出とともに歩き続けるあなたは、その悲しさを見せないあなたは。本当に強いと思う。
ただきっと、これを言っても「そうじゃない」って言うから。
「…悲しいことも、いっぱいあったよ」
「……」
あなたのその悲しみが、背負う荷物が、少しでも軽く、どうか半分になりますように。
「…でも、みんなと出逢えた、大切な記念日」
それにね――。
その先は、はっきりとは言わないけれど。
「悲しかった分、みんなと逢えた」
「……」
「望んだ形じゃなくても」
四人で歩けてる。
あの日の続きみたいな、夢みたいな日々を。
だから。
「だから、記念日でもあるよ」
そう、頭をなでながら言ったら。
いつの間にか服をつかむように抱きしめられていた手は、緩んで。優しく抱きしめられる。
「……お前がそう思うなら、もうそれでいい」
諦めのような、けれどどこか願うような声が聞こえて。そっと口角が上がる。
そうして、「そう思っていいんだよ」って許すように。
ずっと自分を責め続けているあなたの髪を、優しくなでた。
『あなたに出逢ったから、わたしは”あの日”まで生きれた』/クリスティア




