出逢わなければ、君が死ぬことはなかった
恋人がその日に桜のシールを貼ることに、疑問しかなかった。
「……」
「♪」
まるで「記念日」と言うように。
三月になれば、嬉々としてシールを手に取り、二十七日に貼る。
毎年、毎年。
シールがなければ手書きで。
目についたペンで日付を囲う。
「……」
「♪」
今年もシールを貼り終えた恋人は、満足そうにカレンダーを棚に戻した。
それを、見て。
「……毎年嬉しそうだなお前は」
「うんっ」
声をかけてやれば、嬉しそうで。
ぱっとこちらを振り返った恋人は、声だけでなく顔も嬉しそうにして、俺のもとへ駆けてくる。
読んでいた本はどかして、勢いのまま俺の膝に飛び乗ってきたクリスティアを受け入れた。
「俺にはよくわからん」
「なんでー」
ご機嫌に俺に抱き着いてくるクリスティアに、見えないとわかっていながらも、わけがわからないという雰囲気を隠さず。
「記念日になるのかその日は」
そう、こぼせば。
少しだけ冷えた体温は一度離れていく。名残惜しく感じるのもつかの間。目に映ったのは、心底不思議そうな少女の顔。
その少女はこてんと首を横に倒し。
「記念日…」
さも当然と言うように言った。
それにはただ、そうか、としか返せず。
再び少し冷えた体温を抱きしめる。
「♪」
ご機嫌に俺の背に手をまわしてきた恋人を堪能しながら思うのは、やはり疑問。
記念日か?
この日が。
そう、疑問に思わざるを得ない。
三月二十七日。
四人で、正確には俺達三人とクリスティアが出逢った日。
確かにそこでクリスティアに助けられ、出逢ったからこそ、恋に落ち。今こうして恋人としていられている。
まぁ出逢った記念日として考えてもいいんだろう。
それが、その日に何も重なっていなければ。
その日、確かに出逢った。すべてが始まった日だ。
ただ同時に。
その日は、終わりの日でもある。
すべてを失った日。
お前を守れなかった日。
俺にとっては――。
「……終わりの始まりとはよく言うものだな」
「?」
「何でもない」
何度も出逢う。けれど、何度も失う。
終わりよければすべてよしの、逆みたいなものだ。
終わりがひどすぎて。
俺にはこの日が記念日だとは到底思えない。
それなのに。
「……」
それなのにお前は、記念日というのか。
何度も俺に見殺しされるこの日が。
守ると約束したのに、守ることもできない、情けない俺に見殺しにされるこの日が。
己の情けなさに、いつの間にか手に力が入っていて。服を強くつかんでいる。
緩めたいけれど、何故か緩められぬまま。
「……」
逆に強く、抱きしめた。
「…」
けれど苦しいはずなのに、恋人はその強さには何も言わず。
「!」
ただただ、俺の髪を優しくすく。
「……なんだ」
「なんも…」
嘘つけ、と言う前に、小さな体が息を吸ったので言葉を止める。
「ただね」
「……」
「いつかリアスにも、記念日になればいいなって思う…」
「……」
今は無理でも。
そうこぼす彼女の手を受け入れながら、
「……そう思えるには」
あと何度。
「あと何回、繰り返せばいいだろうな」
お前が死んでいく姿をいればいいんだろう。
果てしなく感じる旅に、そう呟いて。
「…」
「……」
あと少しだと言うように髪をすき続ける恋人を、より一層強く抱きしめた。
『出逢わなければ、君が死ぬことはなかった』/リアス




