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第四十話 Two Hearts

 ドラゴンスクリューは、受け方を間違えれば膝の靭帯を破壊するとまで言われている。しかし、己の干支乱勢であるヒカルは関節の柔軟性が驚くほどに強化されているのだ。


「効かねえよ!!」


 仰向けになったヒカルは、その状態からの蹴り 『ペダラータ』を放ち、ちょうど足4の字固めを掛けようとしていたテルの顔面を足の甲で打った。


「クソっ!」


 テルが攻撃を再開しようにも、ヒカルは仰向けて両足をこちらに向けた状態である。オープンガードと呼ばれるこの状態は、一見無防備に見えるが下手に手を出そうものならば、一気に引き込まれて寝技の餌食となってしまう。その姿形も動きも、まさに蟻地獄のようなものである。


「こんなモンはなあ!」


 テルは両脇でヒカルの両足首を挟む。


「こうだ!!」


 そして、そのままハンマー投げの如く横に回転し始める。


『じゃ、ジャイアントスイングーー!!?』


 ヒナコは、テルの繰り出したまさかの技に驚く。


『プロレスの試合でも使われないような技を出すなんて!』


 ジャイアントスイングは、そのインパクトからプロレスに詳しくない者でも知っているほど有名な技だ。だが、ヒナコの言うようにプロレスの試合で使われる事は殆ど無い。理由は幾つかあるが、この技の効果は回転により相手の三半規管にダメージを与え、平衡感覚を狂わせるというものなのだが、スープレックスやパワーボムといった他の投げ技に比べて効果があるのか見ている者に伝わりにくいという所にあるだろう。

 しかし、現在技を掛けられ振り回されているヒカルは遠心力により外側へと引っ張られ抵抗も出来ず、平衡感覚は狂い始めている。


「ぬうおりゃあ~~~~」


 テルはコマのように回転し、カー杯ヒカルを振り回す。もう何回転したかも覚えていない。

 プロレスではないガチンコの試合でジャイアントスイングをするなど、総合格闘技の試合に出ていた頃の自分が聞けば正気を疑うだろう。だが、実際に出来ているじゃあないか。何てことはない、プロレスラーはプロレスを武器に戦えば良かったのだ。

 テルこと星野輝臣は、齢50を過ぎてなお、死してなお、プロレスラーとして更なる成長を遂げたのだ。


 もう十分回しただろう。テルは手からヒカルの脚を放した。回転の勢いでヒカルの体は飛んでゆく。マットに体をしこたま打ち付けて、フラフラになりながら立ち上がる。今ここで、顔面にパンチの一発でも食らえば失神は免れない。だが、テルは攻撃を仕掛けてこない。


「ヒカル!聞こえるか!!」


 何がだ?と問う前に気付いた。観客席から聞こえてくる声に。


 ヒ・カ・ル!  ヒ・カ・ル!


 テール! テール!


 自分たちの名をコールする観客達の声援。


「高ぶるだろ?これだから、 やめられねえんだよプロレスは!」


 テルは笑っていた。 いやらしいほくそ笑みではなく、純真無垢な子供のように爽やかな笑顔。


(そうか、こいつは…楽しんでいるんだ、闘いを!)


 闘いを楽しむ。それはヒカルには無い感覚だった。生きるため、金のため、常に必死だった己には闘いに楽しみを見出す余裕は無かった。そして、テルの強さの根源はそれだけではなかった。


(自分だけでなく、客を楽しませる事でテル自身も強くなってやがるのか!)


 プロレスが他の格闘技と一線を画す所のひとつに、会場との一体感がある。観客の期待に応え、己を研鑽し、強く、高みを目指す。それがプロレスラーなのだ!


「うおおおおおお!」


 ヒカルは叫ぶ。そして渾身のパンチをテルの頬に叩き込んだ。負けたくない、負けられない。テルという相手が強き者だからこそ。


「ハハハ!やるじゃねえか!!」


 テルは仕返しとばかりに、ヒカルの胸へ逆水平チョップを炸裂させる。何度もそれを繰り返す。お互いに笑いながら。

 そして、テルは大きくよろめいたヒカルの首と右内腿に手を掛けて担ぎ上げた。ファイヤーマンズ・キャリーと呼ばれる体勢である。


『これは、テルのオリジナル技“アトラス・ボム”の体勢だよ!』


 テルが師である田山聡一より伝授されたライゲル・ボムに彼なりのアレンジを加えたのがアトラス・ボムである。


「違うぜ……これはプロレスでは危なすぎて出せなかった技だ!!」


 テルはヒカルの体を、首を支点にして逆さまに垂直の状態にさせ、跳んだ。空中でヒカルの頭部を大腿部で挟み、重力に任せ落下してゆく。

 背中から叩きつけるアトラス・ボムではない。これは幻の必殺技……



 星神脳天落アトラス・ドライバー!!



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