第三十八話 “AO”corner
『会場にお越しの皆様、中継をご覧の皆様、お待たせいたしました!これより干支乱勢大武繪決勝戦が始まります!!実況はわたくし申国のヨシ・ツジナリと』
『解説はヒナコ・ライマンでお送りするよ〜』
リングの中央にタキシード姿をしたカエルの獣人がマイクを持って立っていた。リングアナウンサーのケロン・タナカである。
「最強の獣は誰か!?今、それを決する時!!」
観客達の歓声が響く。
「紅禽の門より、巳国・ヒカル選手の入場です!」
鮮血のように、或いは業火のように赤く塗られたゲートから、ヒカルは姿を現した。緑と黄色のブラジル国旗を象った半袖のラッシュガードを上に、下は鱗の模様が刺繍された白いファイトショーツという出で立ちである。
『さあさあ決勝戦が行われようとしているリングに向かう一人目の干支乱勢はヒカル選手。堂々とした足取りです。蜥蜴のように素早く、亀のように慎重に、鰐のように力強く、そして蛇のように執念深いのが巳の干支乱勢。強豪達を丸呑みしてきた一人の大蛇が優勝へと、その牙を伸ばします!!」
ヒカルはそのまま歩いてリングへと進み、トップとセカンド二つのロープの間をくぐり、リングイン。マットの中央辺りに立ち、落ち着き払った様子で対戦相手を待つ。
「続きまして、蒼竜の門より子国・テル選手の入場です!」
空の如く、はたまた海の如く青く塗られたゲートから姿を現したテル。その服装は今までと同じ黒いシングレットにリングシューズだったが、頭部にはこれまでと違う装飾が施されていた。
『おっとテル選手、顔にリコ選手のマスクを着けての入場です!準決勝でヒカル選手に敗れた友の分まで共に闘おうという事でしょうか!!』
テルはトップロープを両手で掴むと、両足で跳び、空中で脚を180度開き飛び越えた。リコのリングインを真似たパフォーマンスである。転生前、ヘビー級のレスラーだった頃は軽やかに飛ぶ事など出来なかったが、干支乱勢となった今の軽い体重ならジュニアヘビー級レスラーの真似事くらいは出来るのだ。
リングインしたテルはリコのマスクを外すと、 8本あるコーナーポストの内、青い鉄柱にそれを被せた。
「相変わらず茶番と無駄だらけだ」
リング中央からヒカルが言う。
「お前の言う無駄と茶番で客を楽しませるのが、プロレスなんだよ」
テルはヒカルの方へと歩き出し、至近距離で対峙する。
「そのくだらねえ演出もここまでだ。そんなもんやらせる間もなく負かしてやる!」
「秒殺宣言か。いいねえ。因みにプロレスの最短決着記録は6秒だ。お前にそれを更新できるかな?」
にぃっと笑い、余裕を見せるテル。
「二人とも、構えなさい」
決勝戦を捌く審判ゴーレム、ジャガー・ハトリに促されると、テルとヒカルはそれぞれ構える。
未練を残し命を落とした十二人の男達は、この異世界に転生し、獣の力を宿し、闘い、散った。最後に残るは鼠か蛇か。
現世への復活を賭けた獣たちの闘いは、終わりを迎えようとしていた。




