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第三十話 GRAND SWORD

 「チョップ」とは、本来ならば掌における小指側の側面、いわゆる「手刀」部分による打撃を指す。掌を上に向け、水平に薙ぐ手刀打ちを水平チョップとしたならば、プロレス技の逆水平チョップは掌を下に向けている事が逆なのだという。

 しかし、この逆水平チョップという技はヒットさせる箇所が手刀ではなく掌。チョップというよりは張り手なのである。

 その様な打ち方をする理由は「音が鳴るから」に他ならない。観客を楽しませる事に重きを置くプロレスにおいて、パチンパチンと音が鳴るチョップは実に解

り やすい技と言える。


「~~~~ッッ!!」


 マイは声にならない、悲鳴とも嗚咽ともつかぬ音を喉から発する。テルの掌による一撃は胸骨、肺、そして心臓を強打したのだ。張り手ひとつと侮るなかれ、テルの放つ逆水平チョップは、しなる鞭の速さにハンマーの重さを乗せたが如し一撃であった。


「シューーーーッ!」


 噴気音の様な発声とともにテルは両手の手刀をマイの肩口へ叩き込む。


「逆水平の次はモンゴリアンチョップだーー!!」


 テルは逆水平チョップ、モンゴリアンチョップ、エルボースマッシュ、ヨーロピアンアッパーカット、ケンカキック等、あらゆるプロレスの打撃を連発する。先ほどマイから食らった連撃と同じく合計7発打ち込んだところで……


「……嘗めるなヨ!!」


 マイが反撃に出た。腰を深く落としながら放ったのは右掌による強打。


「ッッ!!!?」


 五臓六腑に染み渡る衝撃。テルは吐き気と転倒しそうになるのを堪えた。


「弧漫道絶技・神龍掌バハムート…… ! 内家拳の浸透勁と骨法の鎧通しを組み合わせた、我が至高の秘拳ネ!」


 マイはテルから受けたチョップの傷みも残る中、告げる。


「ハア…ハァ……何てうさんくせえ技だ……だが、嫌いじゃねえぜ。 そういうの……」


 むしろ、大好きなのだ。テルことアトラス星野は、米国での武者修行時代、ケンドー・ホシノのリングネームで顔に歌舞伎の隈取りを模したペイントを施し、鎖鎌やヌンチャクを振り回す、口から炎や毒霧を吹く等、胡散臭いギミック満載のキャラクターだったのだから。


「オラァ!」


「ホアタァ!」


 互いの胸に張り手をぶつけ合うテルとマイ。


「……日本ハポンのプロレスには互いの胸にチョップを合計200発以上打ち合う試合があったって聞いてたけど、それで客を沸かせて試合を成立させるなんて……」


 リコの言うプロレスの試合は、今でも日本プロレス史に残る名勝負と言われている。


「こんなのは格闘技じゃねえ。ただの我慢比べショーじゃねえか!……だのに、何だこの盛り上がり様は!?」


 ヒカルが怪訝に思うのも無理は無い。観客席に座る人達は皆、テルかマイどちらかの名を叫んでいる。本来ならノールールの真剣勝負ガチンコである仕合の場を操り、それを見に来た筈の観客を魅了するほどのプロレスの試合を作りあげる―それはテルとマイ、双方にプロレスの才能と化学変化をもたらす相性があったからに他ならない。


「オラァ!!」


 何発目になるであろう、テルの逆水平チョップがマイの胸を打つ。すると、マイの体と精神にも限界が来たのか、仰向けに倒れた。しかし、当のテルもチョップを放った勢いのまま前方へ倒れ込む。


『何と、本大会初の両者ダウンです!しかし、この干支乱勢大武繪に引き分けはありませんッ!大会規定に基づき、先に立ち上がった方を勝者としますッ!!』


 八角形のリング上に、方や仰向け、方やうつ伏せで倒れた二人の干支乱勢は、双方ともその姿勢のまま微動だにしなかった。


「マイ!お立ちなさい!アナタには辰国の連覇が懸かってますのよ〜〜!!」


「さっさと起きんかテルー!!ワシらの初優勝を夢で終わらせるでなーい!!」


 辰国女王・アンフィーと子国長老・ウスマはリングサイドから叫ぶ。


「うるせーな……」


 そう呟いてゆっくりと立ち上がったのはテルだった。


「テル、試合続行可能につき、勝利と認定します。勝者、テル!!」


 両足でしっかりと立ち上がったテルは、試合終了のゴングと、彼の勝利を告げるアナウン スをしっかりと聞いた。


「……俺の今までの人生で、ベストバウトだったぜ……マイ」


『打撃の打ち合いと根性比べを制し、決勝戦へ進出したのは子国のテル選手となりましたー!!』


 そして、足下に倒れているマイの体は光に包まれたのち、一匹の魚に変化した。その姿は地球でいうところの「ネオケラトドゥス・フォルステリ」に近い。


 女王アンフィーと、バケツを持った大臣スズキ、辰国の魚人がリングへと上がり肺魚の姿になったマイの元へ駆け寄るが、先にテルがマイを拾い上げた。


「おい、お前らこいつをこの後どうする気だ?」


「わ、我らの宮殿にある池で終生大切に育てますが……?」


 スズキは恐る恐る答える。


「そうか。もしも、そいつを粗末に扱いやがったら俺がお前らを寿司にして食ってやるからな!!」


 テルはスズキの持っていたバケツにマイを放り込むと、足早にリングを降りていった。


「な、何ですの!あの痴れ者は!?」


「あの子国の干支乱勢、この後負けてネズミになっても我々に囓りついてくるかもしれませんぞ……ああ恐ろしや……」


 決勝へと駒を進めたテルは、そのまま観客席に座る。体の痛みも残るまま次の試合を見届けるつもりなのだ。

 決勝の相手は友であるリコなのか、それとも因縁のあるヒカルなのかを……

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