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第69話 アスガルドの英雄

「うおおおおおおおおん・・・・・・うおおおおおおおん・・・」


 カムサムが大粒の涙を流している。まるで噴水の様だ。


「良かったあ~・・・ガルム・・・本当に良かった・・・」


 ガルムは息を吹き返していた。カムサムの最上級魔法により命をつないだガルムは、カエデからソーセージをもらって食べている。


「んんん、うんまい!! ありがとなカムサム。でもそんなに泣くなよ。大丈夫だからさ~俺」


 九本の尻尾を可愛くフリフリさせてガルムは言った。


 かろうじて全員が生き残ったフェン一行は、破壊神(シア)との決戦に勝利し『魔界樹』の下で身体を休めていた・・・。


 ユピが魔界樹を見上げる。


「姫・・・。本当によくやった。姫の師として・・・王国騎士団の前団長として誇らしく思う」


「えへへ~」


 フェンは可愛らしくユピの肩に頭を預けた。ユピが頭をなでる。


「フェン王女・・・。あらためて謝りたい。俺は魔王軍を率いて民を苦しめた身・・・。世界に平和がおとずれようとも決して償える罪ではない」


 フェンは軽く首をふった。


「いいえ・・・エクスレイア。あなたの生き方は決して間違ってなかった。だからこうして、あたし達は生きてる」


 エクスレイアが目線を落とす。涙がぽつり、ぽつり・・・。


「・・・すまない。フェン王女」


 フェンが笑みをこぼす。


「それはそうとさ~、イシシ。ユピとはどうなのよ? ウリウリ・・・」


 フェンが肘でエクスレイアをつつく。


「な、何を・・・」


 エクスレイアがユピに目線を移すと、ユピは顔を赤くしてそっぽを向いた。


 すると・・・。


― ぐもん、ぐもん、ぐもん、ぐもん・・・・・・


 小さい雲に乗った小さい白い竜が、空から手を振って降りてくる。


 ・・・創造神(ロドア)だ。


「お―い・・・。竜王(カエデ)様~、奥方様~」


 創造神(ロドア)はひょいと雲からジャンプした。


「いや~。さすがは奥方様じゃ。よく完璧にアナザーエデンを使いこなしたのう」


 フェンが照れくさそうに頭をかく。


「・・・で? お二人はこれからどうするんじゃ?」


 フェンとカエデが互いに向き合った。目が合って顔を赤くする。


「ご結婚されるんじゃろ?」


「な、何故それを!?」


「ふはは・・・わしは地獄耳じゃ。聞こえましたとも。奥方様もなかなか積極的じゃな~。うはははは」


 フェンがさらに顔を赤くする。


「まあ・・・。結婚式には必ず呼んでくだされ」


 フェンとカエデが「うんうん」うなずく。創造神(ロドア)はニコリとした。


「さあて、そろそろわしもバハムートの里に帰るかの。・・・おっと、その前に・・・」


 創造神(ロドア)はユピとエクスレイアに目線を移した。


「ユピ、エクスレイア・・・お主らはギルティアに残れ」


「・・・?」


「破壊神(シア)を倒したことで、邪悪な思想に囚われていた悪魔はみな元通りになっておる。もう奴らはただの悪魔(たみ)。じゃがな・・・残念なことに、自ら望んで悪事を働く不届き者も存在するんじゃ」


 ユピもエクスレイアも黙って聞いている。


「お主ら二人はギルティア王国の王と妃となり、この地を治め―――い!!」


 創造神(ロドア)が「フッ・・・」と言って振り返る。


(決まった・・・かっこいいのう・・・わし。お代官様みたいじゃ)


 だが! この時、創造神(ロドア)に想定外のことが起こった!!


 ユピがモジモジしている!!!


「ななななななな・・・わたしと・・・エクスレイアが・・・ふふ夫婦なんて! ご老人! ものには順序ってものが・・・」


 ユピが真っ赤になった顔を両手で覆う。そして照れくささのあまり思い切り創造神(ロドア)の肩をひっぱたいた!!


― ばちこ――――――――――――――ん!!!!!


「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」


― ピュ―――――――――――・・・・・・・・・キラン☆


 強烈なビンタをくらい、創造神(ロドア)は空の彼方に飛んでいってた。


 一同の目がテンになっている・・・。


「あ・・・あれ? ご老人は何処へ?」


「う、嘘でしょ・・・・・・・・・」


 フェンたちは呆然とした。そして全員の頭に同じセリフがよぎった。


(ユピ・・・怖っえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


 それからというものユピいじりは誰一人しなくなったという・・・。アスガルド王国に延々と語り継がれる逸話のひとつだ。


 だが、生真面目なエクスレイアだけは一味(ひとあじ)違った! 拳に力を入れて誓う。


(流石はユピ。俺はより鍛錬を積まねばならんな!)




「・・・さて。ボク達もアスガルドに帰ろうか? 世界に平和がおとずれたことを早く国民に伝えなきゃね」


 フェンはうなずいた。そしてエクスレイアに視線を移す。


「エクスレイアも一緒に来る?」


「・・・いや、フェン王女。俺はここに残る。先ほど創造神(ロドア)が言ったこと・・・。真面目に考えてみる。ギルティアに王が必要なのは、わたしも理解しているからな」


 エクスレイアはチラリとユピを見た。・・・だが、ユピは目を合わせない。


「いでよ! クムクム!」


― もくもくもくもく・・・ポワ―――――――ン・・・・・・


「カエデ・・・呼んだ?」


「うん。俺たちそろそろ帰ろうと思う。クムクムも一緒に・・・アスガルドに来てくれるよね?」


 クムクムはにこりと笑顔で返した。


「みんなといるの楽しい―――。クムクムも行く!」


 クムクムがお兄ちゃん二人に手をふりトコトコと歩いてきた。ミンティアとケルルはポロリと涙を流し、小さなハンカチで鼻をかんでいる。


― くちゅん・・・


「え~と・・・先ず『魔空間転移(テレパス)』して船を取りに行ってそこから南下して・・・クリシュナに向うんだよね?」


「う―――ん・・・それしかないよなあ。遠いけど仕方がない」


 カムサムがあご髭をさする。


「ちょっと面倒くさいね・・・」


 フェンがため息をついた。するとクムクムが首をかしげてカエデを呼んだ。


「カエデ?」


「なんだい? クムクム」


「クムクム、アスガルド知ってる。行ったことある」


「え? そうなの?」


(ラ・・・ラッキ――――――!!)




 ・・・カエデから離れたところで、ガルムとブエルが喧嘩をしている。リリスは審判。ミトラは観客だ。


 カムサムはガルムに噛まれて回復中。ユピはエクスレイアをチラチラ見ながら顔を赤らめている。


 冒険の中で何度も見た光景が、今は少し寂しく思える。


 だけど、ちょっとだけ照れくささもなくなったみたい。


 フェンはカエデの腕をぎゅっと抱きしめた。


 なにせ奥方様・・・ですから。



「バイバイ。お兄ちゃん」


 クムクムが手をふると、フェンたちも一緒に手をふった。


「バイバイ! あたし達、またギルティアに来るから!」


 エクスレイアがつられて手を振る。


「エクスレイア――――!! 悪魔(みんな)が幸せになれるように、ギルティアはあなたが守るのよ!!」


 フェンは思い切り声を出した。


 ギルティア王国の未来は、次期魔王エクスレイアの手腕にかかっている。


 フェンとカエデとカムサムは、大きな声でエクスレイアにエールを贈った。


「頼んだぞ! エクスレイア! 一年後、アスガルドはギルティアに友好条約を持ちかける。それまでにこの国を、必ずまとめ上げてくれ!!」

 

 カムサムが拳を突き上げるとエクスレイアも同じ仕草をした。


「ああ・・・待っているよ・・・カムサム」



― ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ―――――――ン・・・・・・



『魔空間転移(テレパス)』が発動し空間に穴が開く。


「・・・?」


「あ、あれ・・・・?」


「・・・ユ、ユピ!?」


 ユピがエクスレイアの後ろにひっそりと隠れている。


「ま、まさかユピ・・・ここに残る気!?」


 ユピは黙って腕組みをしている。そして明後日(あさって)の方を向きながら小さくフェンに手をふった。


「姫・・・。ありがとう」


 ユピの口の動きをフェンは理解した。


 そして小さな声でつぶやいた。


「ユピ。あたしも今までありがとう・・・幸せになってね♡」




 こうしてアスガルドの英雄たちの活躍によって、世界は平和を取り戻したのだった・・・。


 決戦の地、オルペア島。北海の孤島にひと際目立つ、世界で最も巨大な『魔界樹』。その巨木が生まれた理由を千年後の人々は知らない。


 世界を救った英雄たちは、アスガルドに帰国しても多くを語らず・・・おとずれた平和を民とともに享受するのだった・・・。



次回、最終話となります! こうご期待!


最後まで読んでくださってありがとうございました!! 


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