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肆拾参 ~ 宴 ~

 召喚に応じるか否かまでは選択の余地があるのに、日時の方には全く余裕を与えないというのは。自分たちに余計な準備をさせない意図でもあるのだろうか。そして、この時間に出かけることになると、まず今日中には帰って来られまい。


「あはは。それは急な話ですね」

「端から胡散臭いとは思っていたけれど、これでさらに怪しさが増したわね」


 ユカリは苛立ちアホ毛をギザギザさせる。


「はい。それについては、私としても心苦しく思っております。誠に唐突なお話になってしまい申し訳ありません」

「いえ、メリルさんが頭を下げられることではなですよ。どう考えてもあなたは悪くないですから。むしろ心中お察しいたします」


 頂位神官という、それなりの地位にあるはずのメリルなのだが。本部からの命令とあらば、納得がゆかずとも従わざるを得まい。まったくご愁傷さまである。


「じゃあ早速向かいましょうか。と言いたいところだけれど、三十分ほど時間をもらえるかしら? こちらにも準備は必要だし」


 ユカリはメリルにそう言うと、ヨリを連れて一旦ひよこの間へと戻って行った。


 何をしに戻ったのかは分からないが、ヨリを連れて行ったということは、恐らく安全確保などの手段を準備したいのだろう。

ふたりが戻るまでの間、残された自分とサクラは、手持無沙汰な感じになってしまった。するとそこで、サクラを凝視していたニンファが口を開く。


「サクラ殿」

「お? やるかい? さっきからずっとあたしの方チラ見してたし。あたしはいいよ~。晴兄(はるにい)がオッケーくれれば」


 ニンファは話をしている間中、時折サクラの方をチラ見していて、落ち着かない様子だった。まあ自分もそろそろ来る頃合いではないかと思っていたところだし。

 サクラが自分次第だと言ったため、ニンファはこちらの方を見て、懇願(こんがん)するような顔をしているため、軽く吹き出してしまう。


「あは、はい。いいよ、被害の出ない場所なら自由にやるといい。ただし、くれぐれもニンファさんに怪我をさせないこと。それから分かっているとは思いますが、ニンファさんも無茶はしないでくださいね」


 そう声をかけ、メリルからも了承をもらうと、ふたりはうきうきした足取りで外へ出て行き、後からは二名の星光騎士がついて行く。しかし、メリル護衛のために残ったと思われる残りの騎士にも、その対象である本人が声をかけ、神技や剣技の参考になるからと言って随伴を(うなが)していた。現在時刻は十四時を過ぎているため、早くしないとろくに手合わせする間もなく、真っ暗になってしまうだろう。

 物はついでとは言うが、今回の訪問に合わせたこの要求は、時間的にあまり余裕がない。もう少し早く来てもらうか、後日改めて手合わせした方が良かったのではないかとも思う。もしかすると、ニンファと言う女性は、外見に似合わず子供っぽい人なのかも。


「そういえば、場内には外灯とか防犯灯付けてないな。あとで用意した方がいいなあ」


 ふと思いついた環境改善提案について、独り言を言っていると、ここまでずっと恐縮しているようなメリルが、また申し訳なさそうに口を開いた。


「すみませんハルイチさん。娘のわがままに付き合わせてしまって。一度ああなってしまうと、プライベートな場では聞き分けがなくなってしまいまして。私も日ごろから注意はしているのですが」

「いえいえなんということはないですよ。サクラも楽しんでますし、これがきっかけでニンファさんが友人になってくれれば、自分としてもうれしく思いますので」


 本当にこの程度のことで、サクラがニンファと親しい関係を持つようになれれば御の字である。お互いいい刺激にもなるだろうし。これも多様性とやらを獲得するための一環となれば、また意義のある交流となる。それに、友人はいた方がなにかと楽しいし。


「ふふふ、親心ですね」

「まぁそういう感じですね。血のつながりはありませんけれど」


 彼女の言葉で思い出したが、メリルとニンファは、お互いに真の親子という認識を持っている。しかし実際には、年齢が異なるだけの同一個体であり、ふたりは本人同士である。一体どういうタイミングで、自分自身が親子という関係になったのか。非常に気になるところではあるが、彼女の記憶を覗くような無粋な真似はしたくない。なのでこの件についても、恐らく主犯であると思われる教会の方へ、直接問いただそうと思っている。

 それから二十分少々、ふたりで話をしていると、サクラたちが戻ってきた。サクラの後ろから現れたニンファと騎士たちは、ほぼ全身泥まみれになっていて、全員()されてしまったことが一目でわかる。

 サクラが言うには、圧倒的能力に秀でた騎士長であるニンファが、いともあっさりと手玉に取られたことに驚き、騎士たちは(かたき)とばかりに、次々とサクラへ挑みかかってきたという。だが、ニンファよりも格下である騎士たちが、サクラにかなう道理はない。結果、軽くあしらわれて、仲良く地面に転がされたらしい。

 それから幾度か挑み掛るも、結果は変わらなかった。最終的に、面倒になったサクラが、皆でいっぺんに来いと煽り立てたため、五人は連携した攻撃へ移行した。ニンファ隊の連携は、見事に統制が取れたかなり実戦的なものだった。だがそれでも、彼女の髪の毛一本にさえ、剣先を当てることはできなかったそうだ。

 話を聞いて、現場の状況が気になったため、サクラへ記録映像の閲覧を要請し、データを受け取る。そこで繰り広げられていた光景は、まさに大人が子供たちをあやしているような、一方的な戦いだった。

 初めに挑んだニンファは、正面から一気に踏み込んで、かなりの速度で縦の斬撃を繰り出していた。サクラはその剣を左手の甲で払いのけ、バランスを崩したニンファの左へ回り込むと、軽く足をかけてから背中を平手で張った。

 ニンファは、前回りに受け身を取るとすぐに立ち上がり、外した兜を剣の(つか)で叩いて、隙間に詰まった雪を落としたりしていた。だが煩わしくなったためか、結局は兜を投げ捨て、今度は神技の強度を上げた高機動なフェイント作戦でサクラへ迫る。

 しかし、それもむなしく先を読まれ、また足を払われた彼女は、もんどりうって転がった。するとそこで、遠巻きに様子を見ていた騎士たちが奮起し、ひとりまたひとりと抜刀しては、サクラへ向かって行くのだが、皆仲良く足払いで転ばされて、雪の上に倒れ込んでいった。

 神技を使ったニンファや騎士たちの動きは、常人からは考えられないほど素早く、地球の常識ではありえない立ち回りだった。それでもサクラには、それをはるかに上回る能力があるので、彼らの動きはかなり緩慢なものに見えていたことだろう。

 そんな状態が続いたせいで、散々踏み荒らされた地面では土と雪が程よく混ざり合い、泥濘(ぬかるみ)ができている。その上に何度も転ばされるものだから、騎士たちの鎧はみるみる泥に塗れていった。

 年端もゆかない丸腰の少女を相手に、大の大人が五人がかりで挑んでも全くかなわず、あっさりと返り討ちにあってしまった。おかげで、プライドを打ち砕かれてしまった騎士たちは、完全に負け犬モードになって戻ってきたのだった。


「ま~なんですかだらしのない。一度や二度負けたからといって、そんなに落ち込む人がありますか。あなたたちは誇り高き星光騎士なのですよ?」


 泥だらけでヨレヨレになってしまった五人へ、メリルの檄が飛ぶ。


彼女の前で兜を小脇に抱え、横一列に並んだ屈強な騎士たちは、すっかり小さくなっていた。恐らく、彼女はわかってて言っているのだろうけど、この人たちは二十分ほどの間に二桁ほど負けを重ねているので、そう追い打ちをかけては可愛そうというものだ。


「いや、メリルさん。サクラが規格外に強すぎるんですよ。ですので、皆さんもそう肩を落とさないでください。そもそも忌神(いみがみ)を素手でぶちのめすような娘ですよ? そんな相手に普通の人間がどれだけ束になったところでどうしようもないですから」

「そうそう、あたし無敵だからさ~。じゃなくて晴兄(はるにい)それちょっとひどくない? 可憐な乙女を捕まえて化け物みたいにさ~」


 サクラはそういって自分の背後に回り、首に腕をまわすとスリーパーのような態勢に入る。


「こら。人前でべたべたするんじゃない。大体俺は褒めてるんだぞ?」

「そんな言い方嬉しくないに決まってんじゃん。あたしだって女の子なんだよ? もっとヨリ(ねえ)とかリエ(ねえ)みたいに優しくしろよ~」

「俺は十分優しくしてるつもりだし、これ以上優しくしたら、それは甘やかしって言うもんだっ」


 そう言いつつ立ち上がり、上体を落として腰を跳ね上げ、くっついたままのサクラを背負い投げのように前へ放る。すると彼女は、ハンドスプリングをするように態勢を整え、静かに床へ着地した。


「ぶ~、そういうとこだぞ晴兄(はるにい)~」


 自分の背中から放り出されたサクラは、ぷりぷりと可愛く文句を言っている。


 そこで、じゃれ合いを見ていたニンファが、四人の星光騎士たちと声を落として話し始め、少し間を置いた後五人の視線が自分へと集中する。


「ハルイチ殿。サクラ殿との手合わせ、まことに有意義な物でありました。私共星光騎士は、今後もこれをバネにして一層鍛錬に励みたいと思います! つきましては、いつかお時間のあるときに、今度はハルイチ殿にも手合わせをお願いしたく……」

「えっ! なんでそうなるんですか? 私はサクラのように武術の心得もないですし、全然へっぽこですよ?」

「またまたご謙遜を! たったいまサクラ殿を投げ飛ばしたその動き。何らかの武術の心得があるものとお見受けいたしました」


 何だかとんでもないことになってしまった。自分はただ、体育の授業で習った程度で、柔道の技めいたものを使っただけなのだが。

 距離を詰めてきた騎士たちの睨むような視線と、ニンファの勢いに気圧され、自分はしり込みしてしまう。自分はサクラへ助け求めたが、彼女はにやにや笑うばかりで、援護は望めそうにない。そんなとき、扉の向こうからヨリとユカリが戻り、口実を得た自分は逃げるようにふたりの元へ駆け寄った。

 ニンファたちの包囲から逃れるとき、彼女が自分を引き留めようとする声が聞こえてきたが、心苦しいけれどここは聞こえないふりをするしかない。


「やあ! おかえりふたりとも。向こうでなにしてたの?」


 わざとらしいジェスチャーと、大げさな声でふたりを出迎え、後方からの追撃をなるべく引き離せるよう努めてみる。果たして作戦は功を奏し、背後ではニンファが発した解散指示の声が飛んだので、騎士長以下五名の星光騎士団御一行様は、無事に諦めてくれたようだった。


「ただいま戻りました。実はですね、私もユカリから補助ユニットをもらったんですよ。三人おそろいですね♪」


 ユニットをもらえたことが余程嬉しいのか、ヨリはいつになく上機嫌な様子だ。


「いい機会だし、同じものをヨリにも渡したわ。小道具は多い方が何かと安心だものね」


 先の戦闘で高い性能を示した補助ユニットは、汎用性が重視された装備なので、あらゆる攻防の場面で有効な装備となるはずだ。この実績あるユニットが、ヨリを護衛するというならば、自分としても心強い。それにヨリのセンスなら、きっと自分以上にうまく使いこなせることだろう。


「さぁ、私たちの準備はできたわ。いつでも行ってやろうじゃないの」

「まぁ待ちなさいって。とりあえずニンファさんと騎士の皆さんは、泥を落とした方がいいですね。お風呂の用意はできてますから、どうぞ」


 花子へ指示を出し、まずはニンファから先に風呂へ案内してもらう。ニンファは戸惑っていたようだが、花子の笑顔と圧に負けてしまい、肩を押されてリビングを出て行った。この分だと、全員が準備を整え終えるまでには、まだしばらくかかりそうだ。


「メリルさん。事後確認で申し訳ないですけど、時間の方は大丈夫ですかね?」

「ええ、それは問題ありませんわ。どのみちプロメリアまでは移動にも時間がかかりますし、今回は神技での転移は認められておりませんから、一日くらい遅れても誤魔化しは利きますし。うふふふ」


 本当にこの頂位神官様は砕けた人である。上層部からの呼び出しでも、余裕で遅刻をぶちかますつもりでいるようだし。あまつさえ言い訳まで用意している始末だ。しかも笑いながら、お茶を飲んでいる豪胆ぶりときたものだ。


「そうですか。それならば、今日はもうこちらへ泊っていかれませんか? 時間的にも今から出るというのは遅いと思いますし」

「まぁ! それは素敵なご提案ですね! 交渉が成功したことを通達すれば、移動時間についても大目に見てもらえそうですし。折角だからお言葉に甘えちゃおうかしら」


 胸の前で掌を合わせたメリルは、すごく嬉しそうに言った。


「ええっ!? あんたたち急いでるんじゃなかったの? なんなのよもう。慌てて準備して損したじゃないの!」


 緩すぎる支部頂位神官に、肩透かしを食らったユカリは、大層おこであらせられるご様子。


 それはさておき。当初は急な話だったため、急いで出発する必要があるのかと思っていたが、そういうこともないらしい。自分の申し出をメリルはすぐに了承していたし。

 聞けば、自分たちが召喚に応じた場合は、ひとまずキトアで一泊してから、翌日プロメリアへ向けて出発する行程になっていたそうで。一方、話を聞いたユカリは、すぐにでも出発する気満々だったため、もっと早く言えと怒りだしてしまった。


「ユカリの気持ちも分かるけど、予定はあくまでも予定だからな。そう怒るなってば」


 ユカリは腕組みをしてテーブルにつき、卓上の茶請けをもりもり食べはじめた。


「あらあらもう。ユカリ、お菓子を食べるのはいいですけど、そんなに散らかしては」


 ユカリの横にいるヨリが、皆にお茶をつぎ足しながら、ユカリの暴食を(たしな)めている。テーブルには、ユカリが食べ散らかしている焼き菓子の欠片が降り注ぎ、ヨリはそれを丁寧に片付けていた。


「申し訳ありませんユカリさん。ああ、そうでした。また余りもので申し訳ないのですけれど、皆さんで召し上がって下さいな」


 そう言いながら、足元に置いていた大きな布袋をテーブルの上に置くと、こちらへ口を開いて中身を見せる。そこに入っていたのは、以前キトア支部へ出向いたとき、お土産にと持たせてくれた例の菓子類だった。中身を確認した途端、ユカリは機嫌がよくなり、袋を引き寄せて早速漁りはじめた。


「あら悪いわねメリル」


 そうは言うが、やはりユカリは全く悪びれる様子がない。


「こらユカリ、メリルさんに失礼でしょう? すみませんメリルさん。またこんなに沢山いただいてしまって。何かお返しをしなければいけませんね」

「でもくれるって言うんだから、お言葉に甘えるのは悪いことじゃないでしょう?」


 ペ〇ちゃんのように舌を出したユカリは、そう言いつつ袋の中をまさぐっている。


「そうじゃないだろユカリ。とことん遠慮しろとまでは言わないけど、おまえのそれは図々しさが過ぎると言っているんだ」


 このやり取りにはデジャヴを感じる。確かあのときも、ユカリとメリルはこんなやり取りをしていたっけ。


「お気になさらないでハルイチさん。ヨリさんもまだ小さいのに、しっかりしていらっしゃるのねえ。それに、ユカリさんは素直でいいと思いますよ。子供が遠慮をするものではないですから」

「いえ。こちらこそいつもお気遣いくださりありがとうございます。私も家では母や姉が厳しかったものですから」


 ヨリはにこやかな笑顔でメリルと大人な会話をしていた。


「私は子供じゃないわよ……」


 それなのに、最年長者であるはずのユカリときたら、お子様のように我が儘し放題である。自分としては、少しくらいヨリの行儀のよい振る舞いを見習ってほしいのだが。


「ふがっ――ん~っ。寝てた~。あれ、このお菓子食べていいの? いただきまーす」


 腕組みしたまま、ふんぞり返るようにして寝ていたサクラが、ジャーキングを起こし目を覚ましたようだ。そういやもう一人ヨリを見習ってほしい娘がいたんだっけ。

 しかし、量子脳がジャーキング(寝ているときビクッとなるやつ)まで起こすとは。この子たちについてまだ知らないことは沢山ありそうだ。


「サクラもさぁ。もうちょっとちゃんとしろよな~」

「ん~? なにが?」


 キャラメルのような飴菓子の包装紙を破り、口の中へ中身を放り込んだサクラが、抜けた返事を返して来る。


「いや、もういいや」


 時計を見ると十七時近辺になっていた。そろそろ夕飯も近い頃合いかと思っていると、武装を解除し、グレーのスウェット姿になったニンファが戻り、ソファへ腰掛ける。

 彼女の後からは花子がついてきており、組みあがった状態の装備一式を、キャスター付きのディスプレイトルソのような台に装着して、ごろごろと運んでいる。いつの間にそんなものまで用意したのか気になるが、やっぱり気にしないでおこう。それにしても、こんな装備を毎回着込んで出張しなきゃならないのだから、騎士というのは大変な職業だ。

 そしてここでスウェットとは。確かにスウェットとジャージは楽で最高だけれど、花子ももう少し他になかったのだろうか。しかもグレーって。


「では次は騎士の皆さんですかね。この家の風呂場は、キトアの公衆浴場並みに広いので、全員で入られて大丈夫ですよ。あ、着衣での入浴はご遠慮願いたいので、タオルなどで隠してご利用ください」


 外した装備の汚れを拭っていた騎士たちへ、自分はそう(うなが)すも、彼らは頂位神官殿を差し置けないと言い、風呂へ行こうとしない。そこでまたメリルの檄が飛び、遠慮せずに入ってくるように(うなが)されると、皆渋々従って太郎と共にリビングを出て行った。

 すると花子が装備を回収し、またいつの間に用意したのか、例の台へ組み上げた鎧一式を設置しはじめる。ニンファの装備を含め、五つ並べられた剣と鎧のセットは、室内の一画を博物館のような雰囲気に変えていた。


「何から何までお手数おかけしますハルイチ殿。このお礼はまた後日改めて」

「気にしないでください。しかし、任務とはいえ鎧や剣はさぞ重たいでしょうね」

「それがですね、星光騎士の装備にはクラレスティ様の加護が施されていますから、実際は衣服のように軽いものなのですよ。よろしければご覧になりますか?」


 ニンファは席を立つと、兜と剣を持って再び戻ってくる。


 試しにと手渡されたそれらは、プラスチック製おもちゃのような軽やかさで、とても金属でできているようには思えなかった。しかし、指で軽くつついた兜は、どう聞いても金属音を返してくるし、鞘から引き抜いた剣の刀身も金属の光沢を放っていた


「すごい……。金属製なのに全然重くない」

「ちょっと私にも見せて」


 メリルからもらった菓子を貪っていたユカリが、そう言って兜を手に取った。


「ふ~ん。これもリンカーに紐づけされた重力制御機構が組み込まれてるのね。ねえニンファ、これって持ち主からあまり離れると重たくなるわよね?」

「え!? はい……その通りですが何故そこまでわかるのですか? それにじゅうりょくせいぎょ? とは一体」

「重力云々(うんぬん)は、クラレスティとやらの威光のことよ。それに、リンカーと結ばれている物のことなら、ちょっと見れば大体わかるわ」

「そ、そうですか。やはりあなた方は底が知れませんね」


 騎士たちの鎧は、いわゆるプレートアーマーに酷似しているが、近くで観察すると、各部位は曲線的なものではなく、直線的な形を持つ近代兵器の装甲めいた形をしている。興味本位で材質や強度などを走査したところ、兜には厚さ一ミリ程度のチタン合金に近い金属が使用されていた。それはかなり高い靭性を持っているようで、見た目以上の防御力があるようだ。

 これらの装備を構成している主な物質は、間違いなくチタンなのだが、添加されている元素に、例の炭素系安定同位体を含んでいる。そのため自分の尺度でいえば、この合金は未知の素材ということになる。また、剣の刀身も同じ合金で作られており、耐久性と切れ味は相当高いものと推測された。このような解析結果から、さらに興味を惹かれた自分は、メリルとニンファに素材の詳細を聞いてみる。


「ところで、これらの装備はなんという金属でできているんですか?」

「その武具に使用されているのは、私たちが神鋼(しんこう)と呼んでいる金属です。これは教会の中でしか使用されておりません。そして、その製法は秘中の秘とされております」


 メリルはそう答えてくれたが、詳しいことは彼女も良く知らないのだという。そして、ここでも神の威光らしきものが出てきてしまったが、“神鋼”とはまたどこか馴染みのある単語である。


「ほんと謎の多い教会よね。教祖の顔が早く拝みたくなったわ」

「そうだな。でも、やる気を出すのはいいけど、いきなり殴りかかるとかそういうのはなしの方向でたのむよ。まずは話を聞くところからだからな」

「わかってるわ」


 その昔、アイとの初対面した場面では、ブチ切れたユカリが実力行使に出そうなこともあった。あの頃から比べれば、この子も大分落ち着いたとは思うが、ちょっとしたきっかけでまた暴走されては困るので、先に言い含めておく。

 星光騎士の装備の検分が済むころ、風呂を済ませた四人の騎士たちがリビングに戻り、場の空気は一気には賑やかなものになった。戻ってきたスウェット姿の騎士たちは、どういうわけか太郎と仲良くなっており、結構な大声で談笑しながら部屋に入ってきたのだ。

 風呂に入る前までは、職務に忠実なお堅い四人組だと思っていたのに。いまではすっかり打ち解けたように、太郎とHAHAHA笑いのような笑い声まで上げている。そして風呂上がりのためか、皆は一様に赤い顔をしているが、しばらくすると、リビングの空気には酒臭さが混じりはじめたので、彼らが酩酊状態であることに気づいた。


「おい太郎、まさかおまえ風呂で」

「イェ~スハルイチサァーン。ぽん酒勧めマシター」

「くっ。やっぱりか。メリルさん、ニンファさんすみません。うちの太郎が彼らに酒を飲ませたようです」


 ふたりへそう伝えると、クレスト母娘は顔を見合わせて困惑したような表情を見せたが、それもほんの一瞬で、すぐに笑い出した。てっきり、騎士たちはお咎めを受けると思っていたが、その心配はなかったようだ。

 彼女曰く、自分たちがくつろいでいるのに、彼らにだけ職務を全うしろと言うのは酷だと言い、今日あったことについては、後日叱責などもしないとのこと。


「これが普段であれば、私も彼らを叱りつけて叩き直していたでしょうけど。本日はお母さまも許可していますし、たまにはいいものでしょう」

「ええ。いつも彼らには苦労を掛けていますからね。慣れない現場で心労も溜まっているでしょうし、先に休ませましょう」


 メリルがそう言うので、太郎と花子に騎士たちを寝室へ案内させると、四人はクレスト母娘に恐縮しつつも感謝の言葉を残し、リビングを出て行った。

 長身で、がっしりとした体躯の四人組が、ふたりの女性の前で小さくなり、肩を落としている様は滑稽で、自然と笑みがこぼれてしまう。普段は、鎧に身を包んでいる厳つい彼らも、武装を解いてしまえば気のいい一人の人間なのだ。

 その後、ヨリと太郎&花子の手によって夕食が用意され、ふたりのために軽い酒宴も用意し、いつにも増して賑やかに夜は()けて行く。

 親子はかなりの酒豪だったようで、果実酒や蒸留酒を合わせて二升半程飲み、上機嫌となっていた。ニンファの方は、やや絡み酒で面倒臭く、自分やサクラと肩を組み、酒臭い息を振りまきながら、本気でやれだのいつ手合わせしてくれるのかだのと、まくし立てていた。メリルの方は笑い上戸に近く、娘に絡まれた自分たちを見てはひたすら笑っている。

 ふたりは同一人物のはずなのに、こうも酒癖が違うとは。加齢による感情変化などが、影響しているのか。この分だと、今夜は長くなりそうなので、ユカリとヨリには先に休むように(うなが)して、社の方へ帰ってもらった。その後も、しばらくふたりに絡まれ続けた自分とサクラは、流石に厳しくなってきたため、リンカーをいじってふたりを眠らせ、寝室へ運び込んだ。それから後のことは太郎と花子に任せ、逃げるように社へ戻った。

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