肆拾壱 ~ 蚕食宣言 ~
翌朝目が覚めると、HUDの時計は七時を過ぎていた。少し寝すぎてしまったと思い、何やら重たい両腕を見ると、左右にふたりずつ同じ背格好の娘たちが寝ていた。両側から引っ付いているのはヨリとユカリで、さらにその外側からチカとムツミが陣取り、自分たちを挟み込んでいる。
昨晩は風呂の後で、子供たちの賑やかな夕食に付き合ったため、ようやく全員が床に就いたのは、とっくに日付が変わってからだった。そのせいもあってか、いつもは早起きの三人が珍しくまだ寝ている。たまにはいいかと思い、自分ももう少し寝ようと目を閉じる。
すると、間を置かず隣から襖をノックする音が聞こえたため、すぐにまた目を開けて、ニュルりと布団を這い出した。襖をそっと開くと、そこにはミチルがぺたんと座り込んでいて、赤毛のストレートヘアをぼさぼさにしたまま、小さな声でおはようを言った。
「はいおはようミチル。目覚めちゃった?」
「ふぁい。私だけ起きちゃったんですけど、居間の方には誰も居なくて。皆さんもまだ寝ているのかなって」
寝起きの目を両手でこすりながら、ミチルはぼそぼそと言っている。
「そっか。どうする? こっちの布団でユカリたちと寝る? 俺はもう起きようと思ってるけど」
「あ、私も起きます」
「うい。なら顔でも洗いに行こうかね」
隣の十畳間で寝ている子たちを起こさないよう静かに部屋を移動し、居間を抜けて台所へ向かう。すると、そこには見慣れた背中がふたつあった。ありえないことに、今さっき寝室で寝ていたはずのチカとムツミが、朝食の準備をしているのだ。
「お、おばけ!」
「やーっ!」
自分がそう声を上げたため、ミチルが驚いてわき腹にしがみつき、悲鳴を上げる。
「「おはようございます晴一様、ミチル様」」
「朝からご挨拶で御座いますね」
「ご挨拶がてらご挨拶で御座います」
「え、あれぇ? おはようございます?」
ふたりの声を聞き、自分の陰から恐る恐る台所を覗いたミチルは、あるはずのないその姿を見て混乱していた。先ほどミチルが自分たちの寝室を覗いたとき、確かに彼女もふたりの寝姿を目撃しているのだ。
「お、おはよう……。だけど寝てたよね? つい今まで向こうで寝てたよね!?」
「「残像で御座います」」
「なに? 残像か!」
「いえ。冗談で御座います」
「こちらに裏方専用通路なる物が御座いますれば」
チカは、足元にある腰の高さほどの隠し扉をパカパカしており、こういった通路は、拠点や社内のアチこちに存在することを教えてくれた。忍者屋敷かよ。
「なるほど。それでチビも神出鬼没なのか。それはさておき、顔洗っちゃおうかね~」
「あ、はい」
ふたりの空気に当てられて、ほうけていたミチルの背中を軽く押し、風呂場方面へ移動するように促す。すると、ムツミがタオルを渡してくれた。礼を言ってタオルを受け取り、脱衣所の洗面台で洗顔をしていると、慌てたような足音と共にヨリがやってきて、なぜかぺこぺこと頭を下げはじめる。珍しく遅起きだったこともあって、話を聞いてみると、昨夜チカとムツミから、今日は遅めに起きようと提案されていたらしい。でも、いざ目が覚めてみるとふたりの姿はなく、おまけに自分までいなくなっていたので、慌てて起き出してきたとのことだった。まさかの裏切りである。
「もっと早く起きるつもりだったんですけど」
申し訳なさそうな表情で苦笑しているヨリを、素早く掲げるように持ち上げる。壁一面の鏡に映った自分たちの姿は、父親が娘に高い高いをしている姿にしか見えない。
「いや、むしろもっとゆっくり寝ててもいいんじゃない? ちょっと寝坊したくらいでそんなに謝ることないって。ウチにはもっと凄い寝ぼすけがいるし、ヨリはもっと堂々としててイインダヨー」
ヨリを降ろして横を見ると、濡れた顔で目を閉じたミチルが、手探りでタオルを探していた。そこでタオルをスライドさせて、お探しの物を渡す。
「皆もよくそう言ってくれますけれど。でも、私自身がしっかりしておきたいことなので」
「そっか。俺もその気持ちは尊重するよ。けど、ごめんなさいはなしにしてほしいかな。ね?」
「はい、そうですね」
笑顔で返事をしたヨリは、手拭いで前髪を包みはじめると、蛇口を操作して水を出し顔を洗いはじめた。洗面台はお湯も出るのに、この子は昔気質と言うかなんと言うか。こういう場面では、あまりお湯を使っているところを見たことがない。
「お湯も出るよ?」
「はい。それは存じてますが、水の方が目が覚めますから」
彼女は晴れやかな笑顔で言い、頭から外した手拭いで顔を拭った。
脱衣所を後にして戻る途中、ヨリはそのまま台所へ留まり、朝食の支度に加わる。自分たちは居間へ戻り、朝のお茶を用意して、皆が起きてくるまでの間、のほほんと時間を過ごすことにした。
「そういえばミチルとふたりきりになるのは初めてだね」
「そうですね。いつもは皆といっしょでにぎやかですよね」
ミチルは普段から口数が多い方ではないため、他の子たちがいないと話題に詰まり、間がもたなくなりがちだ。そんな空気を察してか、落ち着かない様子のミチルはなにかと目線を泳がせて、必死に話題を考えているように見える。
「ミチルはあまり喋らない方だし、もし無理に話を続けようと思っているなら気を使わなくても大丈夫だよ。ゆっくりお茶でも飲んでいようね」
「あ、いえ……。はい」
どうやら図星だったらしい。ミチルへ笑みを返し、お茶を一口すすってから少し気になっていたことをたずねてみる。
「皆とゲームコーナーへ行った日にさ、休憩室でランと話してたよね。あのときは何を話してたの? あ、言いにくかったら大丈夫だから」
「いえ、そんなことないです。……ええと、あの時はラン姉さんにお礼を言っていたんです」
「お礼?」
「はい、お礼です」
ミチルは、ニーヴの屋敷から救出された日のことを、たどたどしい口調で話しはじめた。
当時のことは辛い記憶であるため、本来口にするのも嫌だろうと思う。だがそれでもミチルは、地下牢での状況をできるだけ詳細に思い出して、話してくれた。
自分が奥の部屋にニーヴを監禁した際、ランが初めに鉄格子を破壊したのは、ミチルの牢だったそうだ。突然声をかけてきたランは、輝く右手で一筆書きのように格子をくりぬき、あっという間に牢を破壊したという。怯えきっていたミチルは、その人間離れした様子に驚愕し、ランに強い恐怖心を抱いてパニックになってしまったそうだ。
しかし、そんなミチルの様子を見たランは、すぐに牢の中へ入ろうとはせず、後でまたくる旨を伝え、他の子たちの救出へ行ってしまったらしい。それからしばらくの間、鉄格子を破壊する音が続き、ようやく静かになったころ、再びランが牢の前に現れて声をかけて来たそうだ。
「あのときラン姉さんは、私にろうやに入ってもいいかって聞いて来たんですよ? おかしいですよね。私は閉じ込められていたのに」
そう言ったミチルの表情は、軽く笑みを浮かべた、どことなく嬉しそうなものだった。
「そうだったんだ。状況的にはちょっと意外だけど。まぁでもランらしいかな。それでミチルはどうしたの?」
「はい。私可笑しくなってしまって、少しだけ笑っちゃったんです。そしたらラン姉さんも笑ってくれまして……。でもそのあとは、ラン姉さんにしがみついて思い切り泣きました」
秘密のプレイルームで、自分がニーヴとちちくり合っていた頃。部屋の外ではそんなやり取りがあったようだ。敵地ということで多少危険もあったため、ランは事務的な対応で子供たちを連れ出したと思っていが、どうやらそういうわけでもなかったらしい。彼女の思いやりを、意外と言ってしまったことには少々申し訳なくなった。しかし、その時の状況を想像すると、微笑ましい気持ちになる。
「それで、ずっとお礼を言えてなかったので、先日やっとそれが叶ったというお話なのでした」
「なるほど。それでランはくっ付いてたのか」
ミチルによれば、彼女はそれ以降も何かと気を使ってくれていたということだが、なぜか遠慮がちで微妙に距離を保っていたという。自分には、そんなそぶりを見せていなかったと思うけど、あの子は案外人付き合いが苦手なのだろうか。でもこれがきっかけで、ふたりは友達のような関係になれたのかもしれない。それがどんな形でも、親密なものであれば自分としても喜ばしいことなので、皆よりよい関係を築いてくれればと思う。
それからもぽつぽつ雑談などをしていたが、いきなりローカルリンクにメイからの呼び出しがかかり、珍しいと思いながら応答する。
『はいはい。おはようメイ』
『おはようございます堤さん。ユカリ姉さんはまだ寝ているようなので、先に堤さんへお伝えしておこうと思いましてご連絡しました。共有ネットワーク上にある、本日付のDNA解析結果タグが付いたファイルをご確認ください。そのうえでまた皆と相談したいことがあるので、都合のいいときに声をかけていただけますか?』
『ああ、わかった。ユカリが起きたら伝えとくね』
『はい。ではよろしくお願いします』
彼女がわざわざ口頭で伝えてくるということは、重要なことなのだろうけれど、急を要する話ではないようだ。朝食の用意ができるまでには、まだ時間もあるだろうけど、ミチルとの会話もひと区切りと言ったところだった。なので、回された報告に目を通してみると、そこには驚くべき事実が綴られており、軽いめまいのようなものに見舞われる。
『おい、ユカリ起きろ』
メイは、ユカリが寝ていることに気を使っていたようだが、報告内容を見た限りでは、ユカリを叩き起こした方がいいと思えた。
『む~。もうごはん? あらなあに? 面倒だから通信なの?』
『いやそういうわけじゃないけど。とりあえずちゃんと起きて今送ったものを見てくれ』
先ほどメイから上がってきた報告を提示して、内容の確認を促すと、隣の部屋からばたばたという足音が近づいてくる。そしてすぐに格子戸が開かれ、ユカリが飛び込んできた。
「とりあえずおはよう。一発で目が覚めたようだな」
「あ、おはようございますユカリ先生」
「あ、えう。お、おはようふたりとも。清々しい朝ね、うふふふ」
血相を変えて部屋へ飛び込んできたのに、ミチルの姿を見た途端、ユカリは急に態度を改め取って付けたように挨拶を返す。やや引きつりながら、なんとかすまし顔になったユカリは、自分の隣へ座ると、対面で不思議そうに笑うミチルに苦笑を返して、お茶を要求してきた。
「なんだよぅ。お茶くらい自分でいれろよぅ」
「晴一の方が近いし、リーチもあるんだからいいじゃない。私じゃホラ、届かないもの」
背筋を伸ばしたままわざとらしく腕を伸ばして、手が届かないアピールをしているユカリ。だが、茶櫃の茶菓子を見ると、思い切り身を乗り出してせんべいをもぎ取って行く。なんだってんだよもう。
「届いてるじゃねえか!」
「うふふ。軽い冗談よ」
自分の用意した茶を受け取って、ご満悦みたいな顔をしたユカリは、ミチルに対して表向き笑顔で振舞いながら、通信を開いて本題に入った。
『そんなことよりも。このDNA解析結果はどういうことなのかしらね』
『さぁね。俺に聞かれても全く分からんよ。一体全体この星はどうなっているんだか』
子供たちの意識喪失の原因となった、mDNA情報を詳しく解析するため、メイにはテルルの身近な人間たちから得たDNAサンプルの解析を依頼をしていたのだが。先ほど受け取ったその解析結果の一部から、とんでもないことが判明し、自分は目を疑った。それはにわかには信じがたいものだった。ミチルがいる手前平静を装ってはいるが、実際には結構混乱しており心中も穏やかではない。
『まずクレスト親娘のDNA情報だけれど、この……形質情報のところに付いてる注釈だとさ、俺にはあのふたりが同一人物だと言っているように見えるんだ。それとカート夫妻の方だけど、ふたりのDNA情報とミィルのDNA情報の比較じゃあ……高確率で三人が親子だと言っている気がするんだよね』
素人目で見た限りでも、メイの報告内容ではそう言っているようにしか思えない。けれど、その解釈に間違いがあってはいけないので、ユカリへ正しい判断を仰ぐ。
『私も混乱しているのだけど、その理解で間違いないわ。この報告が正しければだけれど。でも、メイがミスをするなんてありえないし』
『はぁ~そっかぁ。またミィルに言えない秘密ができちゃったなあ。まいったな、できれば知らない方が良かったよ』
『そうかもしれないけれど、これも重要な情報なんだから仕方がないわね』
両親殺害の件にしてもそうだが、星光教がどういう組織なのかなど、ミィルを含めて子供たちには言えないことが多い。変質体の件もだけれど、これも墓まで持っていくべき秘密の一つに数えられるものだろう。
『これは四人を見る目が変わってしまいそうで怖いわね』
『そこなんだよなあ、こういうの困るんだよ。えっ! この人たちが!? みたいな意識があるとさ。本人を目の前にしたとき落ち着かなくて』
自分とユカリは、ちらりと目線を交わしてため息をつく。じっと無言でお茶を飲んでいた自分たちが、唐突に意味深なため息などをつくものだから、ミチルは怪訝そうに首をかしげた。
「どうかしたんですか?」
「え? なあにミチル?」
「いえ、ふたりで急にため息をついていたので」
「そだね。俺らも疲れてるのかもしれない。ああそうだ、そろそろ他の子も起こして来るよ。もう朝ごはんできる頃だろうから」
時刻は八時ちょうどになるところだった。寝ていた子たちを起こした後は、普段より少し遅めの朝食をとり、皆の安全を考えて再び要塞惑星の方へ戻ることになる。昨夜の夕食には、DNA改善用のナノマシンが配合されていたため、もう体調不良を起こす心配もないだろう。牧場に待機していたランとサクラも社で合流し、件の報告内容に関して内緒の会議が開かれることになった。
◆ ◆ ◆ ◆
前回は、水を差された感じになってしまったので、改めて子供たちへゲームコーナーを勧めると、皆嬉々として駆け出して行った。あれだけの数の遊戯機器があれば、一日や二日程度では子供たちも飽きることはないはずだ。そして、子供たちとも仲良くなってくれればと思い、今回は皆の引率をヤシロへ任せてみることにした。
「追い出したようで気が引けるけど、皆ここにいてもつまらんだろうし。子供に受けがいい娯楽は、あそことテレビやらネット動画を見るくらいしかないからなあ。出店で食べてばかりというわけにもいかんし、遊園地の方も今日一杯はかかるようだし」
「今となっては私もゲームコーナーがあってよかったと思ってるわ。ちょっと納得いかない部分もあるけど」
「ふっふっふ。やっぱあって良かっただろう? ――さて、この内容についてだが」
メイの方を見ながら、本題について話を振ると、彼女は報告の内容と新たな事実について話しはじめる。
「では。実はカート夫妻やクレスト母娘の件以外にも、気になることがあるのです。昨日、観測子を用いて、イスクの全住民より生体サンプルを採取したところ、一部を除いた市民からは、例のmDNAに組み込まれた異物は検出されませんでした。しかしながら、町に駐留している星光騎士や、郵便局員、銀行員などの公共施設関係者からは、例外なく検出されています」
「今のところ教会関係者からの検出率は百パーセントなのね……」
「そう言うことになります。これが何を意味するのかは分かりませんが、順当に考えれば、やはり星光教が絡んでいる可能性が非常に高いかと」
どれもこれも星光教の影がちらつくものの、結局謎は深まるばかりで、解決につながるような手掛かりは掴めていない。今回ばかりは問題も大きく、再度変質体による襲撃が行われる可能性もあるため、いよいよプロメリアへ乗り込む必要が出てきたようだ。
危険な能力を持つ変質体が出現したことで、星光教の持つ戦力にも不安な点が出てきた。本当は、もう少し足元を固めてからことに当たりたかったのだが、あまり悠長なことも言っていられないだろう。ミィルの牧場や、子供たちの諸問題もほぼ解決しているし。この辺りが潮時のはずだ。
「そろそろ行ってみるか、プロメリア……」
「お? いよいよ行くの晴兄? 大暴れしてもいいんだよね?」
やけに嬉しそうなサクラは、炬燵に手をついて身を乗り出し、食い気味にそんなことを言う。
やくざ映画のカチコミでもあるまいし、無駄に息巻かれても困るので、サクラに座るよう窘めた。そこへ追い打ちをかけるように、チカとムツミがサクラの前に菓子類を大量に積み上げる。こうなると、サクラはそれに釘付けとなり、浮かせ気味だった尻を落ち着かせざるをえない。
「なによ。観光にでも行くみたいに。もっと緊張感を持ちなさい」
そんなつもりはなかったのだが。そう自分を窘めるユカリの言葉で、色々と片付いた後のことなどを考え始めてしまい、当初の議題は頭から飛んでいった。
「あ~皆で観光もいいな。港町だって言うし、きっと魚介を使った美味い料理とかもあるだろう」
「ということは、まだ見ぬお魚がてんこ盛りですね? いいですねえ、きになりますねえ」
「そうですね。私もこんな状況でなければ漁港に行ってみたいです。きっと懐かしい空気があるんだろうな~」
新たな食材との出会いの可能性に、アイは強い興味をひかれているらしく。もし訪れたときは、目にしたものを片っ端から仕入れてきてほしいと、無茶な要求をしている。片やヨリは、かつての故郷に思いを馳せて、懐かしい雰囲気に浸りたいと、ささやかな希望を口にしていた。
「アイの気持ちも分からないではないけれど、ヨリはもう少し欲があるといいんじゃないかしら?」
「全て解決すれば、皆でゆっくり観光にも行けますから。早く平和になるといいですわね」
「ぼくもテルルへ降りてみたいのですよ~。それに、メイちゃんもあっちが気になっているのですよね?」
留守番組の皆も、ずっとこちらに張り付いたままだし、テルルに興味があるようなので、リエやメイの希望も叶えてあげたいところだ。
「はい。リエ姉さんの言うとおりです。地球との比較検証などもしてみたいですし、研究対象として非常に興味があります。特に性風――」
「あー、メイの意気込みはよくわかったから。その辺にしておこうか?」
何をどう比べて研究しようと、自分は全く構わない。だが、また危うい単語が漏れ出ているようなので、これ以上勢いづいてしまう前に制止しておく。
「ミィルの処置も経過は順調そうだし、大きな問題はもうないんだよね?」
「「だいじょうぶい」」
未処置だったミィルの脳細胞にも、修復処置が施された。その予後をチカとムツミにたずねると、ふたりは両手でVサインを作り簡潔に答えてくれる。もう大丈夫らしい。
「よし、なら明日メリルさんと話をした後で、プロメリアへ行ってみよう。そんで一気に星光教本部へ乗り込んで、アンギス某へ話を聞いてやろうじゃないか」
「そう。わかったわ。なら乗り込むメンバーを決めましょう。私と晴一は当然行くとして――」
ユカリは当然行くものらしい。そこはまぁ間違いないのだが、恐らく今回も高戦力なメンバーで話がまとまるだろう。
「はい、私が行きます」
「そうそう。大体いつものこのメンバーで――ってまさかのヨリ!」
「ちょっとヨリ何を考えているの? プロメリアは星光教の――」
「ユカリ、ユカリ。お説教はちょい待とう。それでヨリ、いきなりどうしたの? まだ向こうは危ないと思うんだけど」
意外な人物からの立候補があり、場の空気はざわついたものに変わる。普段からあまり自分の希望も口にせず、いつも他の人のことばかり優先しているヨリが、今回は珍しく意思表明をしていた。
「あちらの情勢がまだ不安であるにもかかわらず、わがままを言っていることは重々承知してます。でも、ここから動けない理由があるわけでもない私が、皆が大変な目にあっているときに、ひとり安穏としているのは辛いんです。それに、私だって自分の身くらいは守れる自信もありますし、たまには私も同行させて欲しいんです」
そう言ったヨリは、熱意に満ちた視線を皆へ向けている。
彼女の言い分も分からないではないが、自分としては色々と心配だし。他の皆も異口同音で、ヨリの立候補に対して、否定的な意見を述べている。特にユカリやランはやきもきしていて、サクラの言葉も口調は軽かったが、無茶はしないでほしいという気持ちが強く伝わってくる。しかし、自分はヨリの気持ちも尊重してあげたかった。それに、彼女の恐るべき適応力には期待が持てるため、ひとつ条件を提案する。
「俺としても心配はあるし、ヨリの身に何かあったらものすごく悲しい。でも、だからと言って頭ごなしに駄目と言うのは正直酷い話だとも思う。そこで提案なんだけど、ヨリとサクラが手合わせをして、実力が認められたらOKって言うのはどうかな?」
「ええーっ!」
「晴一も何無茶なこと言ってるの! そんなことして、もしヨリに何かあったらどうするのよ」
「いいや、ユカリ。それは過保護と言うものだ。なによりもお前の妹であるサクラが、ヨリに怪我なんてさせるわけないだろう?」
『そだぞーユカリ姉。失礼だぞー。大体、身内に危害を及ぼさない設定は、ユカリ姉が付けたんじゃないか~ぶーぶー』
ユカリの言葉に反応したサクラが、頬を膨らませて文句を言っている。
もっとも頬が膨らんでいる原因は、口いっぱいに菓子を頬張っているためだ。それ故、喋れない彼女は通信を使用していた。多少ガサツな面はあるけれど、サクラも別に無法者と言うわけではない。第一に、思いやりのあるいい子な彼女が、ヨリに危害を加えることなどあるはずがない。
機能的な制限もあるが、自分を相手にしていても、サクラが本気で攻めて来たことなどは一度もない。仮想現実空間では、一度だけ本気に近い攻防をしたことはあるけれど、それでも大分手を抜いていたようだし。
「でも……」
「ユカリ。ここはヨリの答えを待つところだぞ。それで、どうするヨリ。やってみるかい?」
自分の出した条件に、ヨリはかなり考え込んでいたが、やがて意を決したように、首を縦に振った。
「やってみます!」
「よし。と言うわけだぞユカリ」
「もう。わかったわ。そこまで言うなら止めはしないわよ。ヨリは頑固だものね」
「えへへ。ありがとうユカリ、晴一さん。ではサクラ、お願いできますか?」
「はーい。ほかならぬヨリ姉の頼みだもんね。あ、お手柔らかにね~?」
こうして、ヨリの自己防衛技能試験が開始されることとなり、皆はひよこの間の庭先へ出ることになった。




