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参拾玖 ~ 難儀な相手 ~

 先ほど、また上空で閃光と破裂音が起こったが、今度は五回連続での射撃だったようだ。

 こちらへ到着してすぐに聞いたもの以外は、すべて南からの射撃となっているため、ランたちのいる北の敵は、こちらへの攻撃を行う余裕はなくなっているようだ。現に北の敵は、ランたちに肉薄されていて、小型変質体もほとんど残ってはおらず、新たにそれらを放出している様子もない。

 敵の打ち出す飛翔体に、鹵獲(ろかく)因子が搭載されていることは、戦術リンクによって共有されているため、ふたりと二体が自分たちと同じ(てつ)を踏むことはないだろう。だからと言って心配がないわけではない。増援された哨戒機による援護もあるので、戦力不足にはならないだろうけれど、もし皆になにかあればそれは辛いことだ。


「ここでぼやぼやしてるわけにもいかんか。さて南の敵を攻めるなら、一度拠点へ飛んでから偽装をして近づいた方がいいんじゃないかね。なめ子とくろ子もいるし、こっちには小型のやつもいないから北よりは攻略が楽だと思うけど。どうするね?」

「それでいいと思うわ。さっきリエに補助ユニットの作成を依頼したから、拠点の設備で生成して装備しましょう」

「何補助ユニットって? 強いの?」

「ふふ。それは作ってからのお楽しみ」


 そう言うと、ユカリは自分と護衛の二機との同期を開始して、拠点を目指し転送を行う。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 施設内に入ると、すぐに地下の生産エリアへ移動し、ユカリがラインの一部を利用して補助ユニットとやらを生成しはじめた。くろ子は、自分たちの(かたわ)らにいたが、なめこの姿が見えない。ユカリに聞くと、なめ子は大きすぎるため格納室に待機しているとのことだ。

 ものの数分で生成装置からは、ピラミッドのような四角錐の物体が四つ排出され、浮上コンベアの上に流れて来た。四つそれぞれにユカリが手を触れると、それらの側面に三角窓のような窪みが出現し、窓枠に当たる部分の内側には、明滅する赤い光の縁取りが現れる。金属質な鈍色(にびいろ)をした四角錐は、ゆるゆると自転しながら浮上すると、自分たちの頭上〇・五メートル付近に滞空し、随伴するようになった。


「これは……」

「外見を気にしたら負けよ晴一。まぁわざとなのだけれど……」

「おまえねえ。ゲームには興味なかったんじゃないのかよう」

「細かいことは気にするべきではないわ。因みに名前は左がゼプで右がキャスよ。それと、二体が底面で組み合わさると名前が変わるわ」

「うん、よーく知ってる」


 みなまで言うべからず。


 ユカリ曰く。このユニットの性能は確かなものなので、全幅の信頼をおいていいとまで言い切っている。なぜならば、ふたつが合わさる底面部以外は、時間軸固定構造体によって構成されているため、侵食型の攻撃や物理保護領域でさえも完全に無効化できるそうだ。社内にもちらほら使われている、この時間軸固定構造体というものは、要塞惑星の共存派が独自に開発したものであるため、戦争推進派や他勢力も保持していない技術らしい。ただ、生成には数千年という膨大な時間が必要になり、かつ歩留まりも一割程度しか得られないそうで、現在ストックされている物は、ここ数百年でようやく量が揃えられた物らしい。


「そんな貴重なものを俺ん家の扉に使ったりしていいの? 風呂場の畳とかにもなってるしさ。なんか使いどころおかしくない?」

「いいの。それだって数すくない私たちの欲求の範疇だもの。それに、ほとんどの興味は晴一に向いているんだから当然でしょ」


 恥ずかしげもなく、とは言えない程度に赤くなっているユカリは、恥ずかしそうに言っていた。


「言い切っちゃったよ。でもある意味かっこいいな。それにちょっと嬉しい。いや大いに嬉しい」


 素直ではないが、好意を示されているのだから嬉しくないわけはなく。大半の人間は、嫌われるよりは好かれる方が嬉しいに決まっている。だが彼女の言葉を聞いて、頬を染めているおじさんは気色が悪い。


「さぁ、無駄話してないでとっとと行くわよ。私たちに手を出したことを後悔させてやるんだから」

「あいよ。でも、これどうやって使うの? マニュアルは?」


 そう聞くと、ユカリは突然補助ユニットから光球を作り出し、石でも投げるようにこちらへ放ってきた。HUDの脅威判定によれば、陽電子プラズマを物理保護領域で球状に固定したものらしい。大した速度もないそれは、自分に向かってゆるゆると直進してきたが、彼女の意図を理解するため、避けるようなことはせずに棒立ちに構える。すると、右の補助ユニットが勝手に進路上へ立ちふさがり、頂点部を対象に向けて体当たりで消滅させた。


「防御についてはそんな感じよ。攻撃も哨戒機並みの射撃が可能だから、敵の攻撃も全部迎撃できるはずね。それから、マニュアルにも書いておいたけれど、使うときはセットの戦闘支援AIと連携してね」

「わかった。ほとんど自律制御されてるのか」


 ユカリの軽い説明が済んだところで、戦闘支援AIのソフトウエア更新ナノ素材と、補助ユニットのマニュアルが送信されて来る。更新を適用しつつ、マニュアルにざっと目を通している間に、ユカリから同期申請が着信し、承認を要求された。あれこれと忙しく承認を返し、再びマニュアルに意識を戻したとき転送が開始され、拠点の直上へ運ばれた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「ちょっとやだ、まだ心の準備が……」

『静かに。敵にはもう感知されているかもしれないのよ?』


 通信を開いたユカリがそう言ってわき腹を小突いてくる。


 転送直前に、設定上限値で偽装は掛けてある。なので、今すぐ発見されることはないと思うが、警戒は怠るべきではないだろう。探査機からの光学観測で見る限り、敵がこちらに気づいた様子はなく、相変わらず牧場へ向けた牽制射撃を散発的に行っていた。変質体は重力波検知能力を持たないのだろうか。


『まず上空から哨戒機二機で制圧射撃を行って、なめ子とくろ子で挟撃をかけつつ、私たちは死角から射撃を加えましょう。この戦力で連携して先制すれば、撃破は容易(ようい)なはずよ』

『わかった。とにかくやってみよう。もたもたしてると時間も無駄になるしな』


 偽装をかけた哨戒機とNKT(なめ子くろ子チーム)を先行させ、数秒遅れて自分たちも変質体へ接近する。敵との距離は三キロメートル程であるため、亜音速で移動をかければ、十数秒ほどで遭遇することになるはずだ。

 などと思っていると、先行していた哨戒機が射撃を開始し、やや遅れて挟撃に回ったなめ子とくろ子が、横合いからさらに射撃を行い追い打ちをかける。そこで自分たちも現場に到着し、先行した機体から重力波アクティブソナーの走査情報を受け取る。受信した座標をHUDに重ねると、陽炎のように揺らめく変質体の姿が透過表示された。

 こちらの変質体も、北に展開している勢力と同型機のようで、大きさもほぼ一致している。また走査した体内には、例の高質量体を内包した動力炉が存在していた。上空からは、哨戒機の制圧射撃が続いているが、変質体はそれをものともせず、なめ子とくろ子の攻撃に対してのみ反応し、飛翔体を迎撃していた。

 本格的な戦闘になったためか、変質体は偽装を解いて姿を現した。その見た目は饅頭のように丸みを帯びた胴体に、六本の足が生えた黒いクモヒトデのような外見をしていた。胴体から方々へ延び、触手のように蠢く足は、不気味な威圧感を一層増長させている。しかも、体表には小さな起毛のような突起がびっしりと生えているため、怖気(おぞけ)を感じて鳥肌が立った。

 脚部先端の対角距離は、最長で二十八メートル程度。太さは、付け根付近が九十センチほどで、先細りになっている。胴体部分は円形に近く、直径は四・二メートル。全高は二・六メートルほどあり、質量は約八・九トンあった。

 


「なんだあれきもちわるっ」

「あいつ物理保護使ってるじゃない! 気に入らないわね!」


 こちらも無用になった偽装を解除したとき、自分の感想へ被せるようにして、ユカリは驚嘆と恨み言を口にする。


 哨戒機の攻撃に意味がないと分かれば、必然的に自分たちが穴を埋めることになる。戦力は足りていると思っていただけに、いきなり二機が戦力不足と判明して、不安になってきた。だからといって、不貞腐れるわけにもいかない。早速補助ユニットを使用して、こちらも攻撃を開始する。

 変質体は、こちらの攻撃にも鋭敏に反応し、全ての飛翔体を的確に迎撃していた。高機動な四つの敵に対して、変質体は一歩もその場を動かずに、全身にある射出部から飛翔体を撃ち出し、絶え間なく浴びせられる攻撃をすべて無効化している。有利な状況で急襲をかけたつもりが、接敵して早々に、戦況は膠着状態(こうちゃくじょうたい)に陥ってしまった。

 現在の自分たちには、要塞惑星からのリンクが結ばれているため、物量などの不足は発生しないが、火力不足のせいで、間接射撃の阻止や足止め程度にしかなっていない。


「どうするユカリ。このままだとにっちもさっちもいかないぞ?」

「わかってるわよ! やっぱり攻撃機を要請した方が――」


 ユカリが言いかけたそのとき、戦闘支援AIが脅威検出と回避指示を告げ、賑やかになったHUDの指示に従って、ふたりと二機は空中へ緊急回避を行う。次の瞬間地面が盛り上がり、自分たちのいた場所には、細かい棘が生えた敵の足が突き出してきた。

 HUDに表示された脅威判定には、“侵食性追尾型衝角しんしょくせいついびがたしょうかく”と注釈がついており、先端は紫色の判定枠で囲まれている。この色は、即座に致命的な損害を受ける脅威に対して適用されるものらしく、よく見れば、撃ち出される飛翔体にも、時折同じ色が混ざっていた。こうなると、地上にいるのはかなり危険なため、自分たちも飛行状態へ移行し、地中からの刺突攻撃を避けるしかない。もうこれはなりふり構ってなどいられない相手だ。


「何なのよこいつ。以前戦ったやつとは桁違いにヤバいやつじゃない! こんなの聞いてないわよ!」

「落ち着けユカリ。ここで癇癪起こしてもしょうがないだろ。今はとにかく状況を見極めるんだ」

「それは分かってるけど! だぁ~もう面倒臭いわねっ」


 ほんの数分前までは、能力は五分の泥沼状態かと思っていたが、こうなると相手の方が若干有利になるだろう。こいつは、釘づけにされていたわけではなくて、あの攻撃を繰り出すために動かなかっただけらしい。

 まったく、六本の足を地面に埋め込んで地中から奇襲をかけるとは、いやらしい相手である。そのうえ、飛翔体の射出部は全身に及ぶため、容易(ようい)に接近戦に持ち込むこともできない。仮に射撃をすべて封じて接近戦に持ち込めたとしても、例の衝角による刺突攻撃が相当な脅威となるので、やはり手出しのしようがない。


「まいったな。まじで埒が明かない……」

「もっと簡単に済む相手だ思っていたけど、そうじゃなかったわね」

「やっぱり皆が戻るのを待った方が良かったのかなっと~っ!」


 補助ユニットと連携したユカリセットの戦闘支援AIが、的確な対応を行ってくれるので、なんとかここまで凌げている。しかし、対処方や作戦を考えつつ、射撃管制や迎撃を行って、変質体の攻撃を回避するのは正直しんどい。この装備やナノマシンがなければ、こんな悠長に会話をしながら、攻撃に対処するようなことはできないだろう。これもユカリ様様だ。


「こうなったら切り札を使うしかないわね。このために作った補助ユニットだし。晴一、援護をお願いできる?」

「切り札とな!」


 ユカリはそう言い、随伴させていた補助ユニットを結合させて、全長を四メートルほどへ引き延ばす。それから、両端を尖った槍のように変形させると、眼下の変質体目掛けて射出した。

 槍状のユニットは、一瞬で秒速十キロメートルほどまで加速し、大気プラズマを(まと)って変質体の胴体部へ吸い込まれるように命中した。ほぼ同時に衝撃波の破裂音が轟き、周囲の山々にこだまする。変質体が展開していた物理保護領域は、時間軸構固定造体によって難なく突破され、派手な火花を散らしながら全長の半分ほどまで、変質体の胴体部に突き刺さる。しかし、変質体は特にダメージを受けた様子はなく、補助ユニットをゆるゆると排出すると、こちらへ撃ち返してきた。一旦はクレーターのように凹んで穴の開いた体表部も、ほとんど修復されてしまった。


「なんで無傷なのよ頭にくるわねっ!!」


手前で減速した補助ユニットを回収したユカリは、忌々し気に変質体を睨み付け、またも悪態をつく。

 補助ユニットによる攻撃は、物理保護領域の突破もできたし、飛翔体にも撃墜されることなく命中した。だが、まったく効果がなかった。先の変質体同様、この個体も体構造が思考型の微小機械のようになっているため、動力源を破壊しない限り撃破は不可能だろう。何より、ユカリの投擲した補助ユニットが命中する際、変質体の中にある高質量体は、内部を移動し損傷を回避するような動きを見せていた。これでは、強力な追尾を行うなどして、確実に動力炉へ命中させる必要がありそうだ。

 その後も数回、援護を受けつつ、ユカリは追尾設定を施した補助ユニットを射出したが、動力炉には全て回避され、槍はむなしく排出されるだけだった。あまりにも効果がないため、一旦距離を取り、上空の哨戒機で防御陣を張って作戦を練り直す。


「むきぃっ! なんなのあいつ! いい加減に食らいなさいよ!!」

「落ち着けってば。癇癪はダメだって言ったばかりだろ」

「でも!」


 久しぶりにむきぃしてしまったユカリを(なだ)め、今ふと浮かんだ作戦を提案してみる。


「一本が駄目なら二本でいけるんじゃないかな……」

「何バカなことを言ってるの? 二本目を打ち込んだって簡単に避けられちゃうわよ! 私が打ち込んだ補助ユニットの速度は見たでしょ?」

「まぁそうなんだが、要は避ける暇がなければいいんだろ?」

「それはそうだけど、私の出せる射出速度じゃ、せいぜい秒速二十三キロメートルがいい所よ?」


 それは、せいぜいと言っていい速度ではないと思う。けれど問題はそこではないので、もっと視点を変えて考えるように(うなが)した。物体を移動させるのには、もっといい方法があるではないか。


「ユカリ。投げるのは一つでいいんだよ? 二本投げる必要はないんだ」

「なによ勿体付けるわね。二本て言ったのは……あ」


 どうやらユカリは自分の意図に気づいたようだ。しかし、この方法が実現できるかは、聞いてみるまで分からない。


「一本目をビーコンにして、二本目を動力炉の座標へ転送させることはできる?」

「できるわ! できるけど……それだと物質衝突でかなり被害が出てしまうわよ?」

「そこなんだよな。問題は、あの高質量体と補助ユニットが重なったとき、どれだけの規模で反応が起きるかだが。メイ聞いてた?」


 共有ネットワークの通信へ、参加しているであろうメイを呼び出すと、彼女はすぐに答えてくれた。


『はい聞いてました。補助ユニットと質量体が衝突した際の影響予測範囲は、シミュレーションを見る限り、質量体損壊時のエネルギー放射半径とほぼ同等になるようです。ですがその際、影響範囲の空間に存在するあらゆる物質とエネルギーは、爆発と同時に超空間側へ落ちることになります。ですので、速やかに退避しなければ、姉さんと(つつみ)さんは共にあちら側を漂流することになりますね』


 前回の変質体が放出した放射線の影響範囲は、半径約六・八キロメートルとなっていた。でもこの変質体のもつ質量体は、前回のウニの半分以下しかない。そのため、想定される影響範囲は、半径約二・二キロメートル程度にとどまるだろうと、メイは予測を出す。これは決して狭いとは言えない影響範囲だし、地形も大幅に変わってしまうはずなので、ユカリは苦い表情を見せていた。

 ともあれ、この敵を処理しなければ、子供たちの大事な居場所は破壊されてしまう。それに、付近一帯への脅威ともなるので、不本意な選択ではあるが、タイミングや方法を検討して作戦開始となった。


「じゃあ。私が補助ユニットを射出すると同時に、晴一のユニットの制御を渡してもらうわ。初弾が命中したら、すぐにもう片方のユニットを転送するから、そこで味方機共々同期転送で拠点内へ退避するわよ」

「わかった。援護は哨戒機へ切り替えればいいんだな?」

「ええそうよ。じゃあ、行くわね」


 飛翔体の迎撃を全て哨戒機へ切り替えて、自分たちは戦闘現場へ突撃をかる。その勢いに乗せるように、ユカリが補助ユニットを射出した。それを確認してから、随伴中の補助ユニットの一体化を行い、射出形態となったそれを空中に固定する。

 丁度そのタイミングで、ユカリの放った補助ユニットが変質体へ突き刺さる。胴体を貫通した補助ユニットは、分厚い岩盤を晒す地面へとめり込み、変質体はピンで固定された昆虫採集の標本のようになった。

 瞬間、自分の横に浮いていた補助ユニットが、一瞬だけキンと言う甲高い音を発した後、陽炎のようにぶれて消滅する。次にユニットが出現したとき、それは思惑通り、動力炉を貫く形で指定座標への転送を完了していた。同時に、その場にいた自分たちと四機は、拠点内へ転送される。やがて、拠点全体が地の底から響くような低周波と、強烈な地震に見舞われ、自分とユカチは変質体が消滅したことを理解した。

 高高度に滞空していた探査機からの光学映像には、一瞬巨大な立方体型の光が映し出されたが、すぐに映像は乱れてしまった。しかし、件のエネルギー放射が検出されることはなく、放射能汚染などの心配もないようだ。その代わりというように、変質体が破壊を受けた際には発生しない強烈な重力波が、三度連続で検出され、地下拠点の構造体を軽く軋ませた。


「現場に近すぎて正常な観測情報は得られなかったわね。でも今回は磁場も放射線も出ていないわ」

「だな。付け焼刃の作戦だったけど、なんとか上手くいってよかったよ。北の方も無事片付いたようだし」


 地図上にあった北側の小型勢力のマークは、全て掃討されている。そして、射撃を行っていた変質体の座標には、四つの光点が集結し、本体も撃破判定に変わっていた。しかし、太郎と花子のステータスも被撃破となっていて、最後の最後でやられてしまったようだ。


「ああ、太郎と花子が……」

「二体は修理すれば大丈夫よ。さ、反省会はもう少し後にしましょ。いまは戦闘結果の確認と牧場の修復作業が先ね」

「そだな。じゃあ戻ってみるかね」


 再度拠点の直上に出て、同じ道をたどって先の戦闘現場へ向かう。一キロメートルほど進んだところで、巨大な穴に遭遇したため足を止めた。そこには、四キロメートル四方ほどの穴がぽっかりと開いており、計測した底部までの深さは二千メートル以上ある。

 鋭利に切り抜かれた四角い穴の断面には、真っ白に霜が付着しており、凍結した土の部分などは、永久凍土のようにかちかちになっている。先ほどまで変質体が存在した座標は、地面が消失したことで空中になってしまい、中心点には空間の揺らぎがまだ若干残っていた。そんな中心点には、補助ユニットが滞空しており、あの衝突に巻き込まれながらも、四機のユニットたちは健在だった。

 いくら時間軸が存在しないからと言って、強制的な座標遷移のような現象にも影響を受けないというのは、いささかずるいのではないだろうか。


「そのための時間軸固定構造体なのよ。そうでなければ、ゲートの定常固定なんて実現できないでしょ」

「へぇ。そうでぃすか。仕組みがさっぱりわからない自分としては、そう言い切られたらそれまでだしな。でも、このユニットはなくなっちゃうと思ってたから無事で嬉しいよ。可愛げもあるし」

「でしょう! かわいいわよね? 流石は晴一ね。よくわかってるわ♪」


 シャープな線を持つメカメカしさと、CGのようなあからさまな質感。なにより懐かしさを感じるこのデザインは、かなり気に入っている。それに、くるくると回転する様も、コミカルで楽しいし。そういった感覚では、ユカリも似たようなものを持っているようで、自分の誉め言葉に反応して盛り上がっている。


「しっかしすさまじいなこりゃ。熱も持って行かれたってこと」

「相転移のせいね。ほんの一瞬だけど、この場にあったあらゆる存在は全て向こう側に落ちてゼロになったようよ。でも……予測していたこととはいえ、これじゃ攻撃機を投入したのと大差なかったかも」

「そっか。んまぁ結果はよろしくないかもしれないけど、なっちまったもんは仕方がないし、穴は埋めるしかないな。問題は土をどこから持ってくるかだけど。この際要塞惑星の土でもいいんじゃないかね。再生成して、元のと同じように成分調整すれば問題ないだろうし」

「うん。そうね。そうしましょ。リエに頼んでツールを送ってもらうわ」


 建造、修復、保守、廃棄まで。まるっと面倒を見てくれる縁の下の力持ち、リエちゃんの出番が最近増えている。それすなわち、仕事が順調な証拠でもあるわけだけれど、毎度尻ぬぐい的対応を割り振るのは、やや気が引けてしまう。リエ本人としては喜んでいるので、構わないのだろうけれど。


『ふあぁい。お呼びですかユカリねえ様ぁ?』

『あら寝てたのね。悪いのだけど、今送った組成情報を持つ物質と、体積で増殖する修復ツールを作ってもらえるかしら? それと、牧場の設備修復でもオーダーが行くと思うからよろしくね』

『は~い、わかりましたのですよ~。ツールはすぐに送りますね~』

『ええ、お願いね』


 ため息交じりのしょんぼりとした様子で、ユカリは通信を終える。


 要塞惑星には多数の地下施設が存在し、建設の際に出た残土や、岩石などの副産物がマテリアル化を受けて保管されている。そのため、こういった素材にも事欠くことはない。

 要塞建造の際、核になった惑星体積の八割ほどは、様々な設備と入れ替えられている。その中でも、最も大きな体積を占めているのが、中心核部分に設けられた粒子転換炉主機関の本体で、その体積は四割に届くほどだ。


「ツールは哨戒機から投下すればいいから、軽く見届けたら帰りましょう」

「了解。ミィルの家も直さなきゃいけないからな」


 足元に空いた巨大な穴を眺めて、アホ毛をへなへなにさせている彼女が不憫になり、頭を撫でながら返事を返す。


 ややあって、拠点の格納室から呼び寄せた哨戒機が、四つの白い球体を周囲に(まと)いながら閃光と共に出現した。哨戒機が持ってきた球体は、以前チャンバーの修理で使った修復材のようにも見えるが、今回の物は風の影響などで表面が波打っているので、あれらよりも粘度が低いらしい。

 哨戒機は、穴の四隅の上空を飛行して修復ツールを投下してゆく。落着したツールは、水のように地表へ浸み込むと、凍結面を砕きながらアルコール炎のような青い光を広げていった。投下作業を最後まで見届け、穴の底部が徐々に盛り上がってゆくのも確認できたため、ユカリが同期転送を開始しハティ牧場へ帰還した。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「いやぁまいったねえ。今回の変質体は厄介だったわ~」

「全くですわ! 小型変質体の数といい見た目の気色悪さといい、最低でしたわよ!」


 ハティ家に戻ると、リビングのあちこちを直しながら、ランがすごく嫌そうな顔をしていたので、戦闘記録映像を見せてもらうことにした。そこでは、ヒトデの一種である“テヅルモヅル”のような小型変質体が、高速で動き回り、射撃を交えつつ足を展開して飛びかかってくるという、ショッキングな光景が繰り広げられていた。

 小型とは言えども、その大きさは軽自動車程はあり、フラクタルなもじゃもじゃの足を(まと)う姿は、迫力満点だ。なにより数が多く、動きも素早いため、対処に時間がかかるだけの相手のようだが、足を開いて物理保護領域の境界面へ取りつく姿は、非常に気持ちの悪いものだった。さらに、胴体裏面にある口のような部分が周期的に開閉して、内部の歯状突起が露になるというホラーな展開を見せているため、ランが嫌がるのも無理はない。

 この小型変質体は、北で射撃を行っていた本体が放出した子機で、目標に飛びついて自爆を行うという、出鱈目な攻撃手段を持つ相手だ。これらは、自己分解爆散を行うことで、自身を侵食性の微粒子に変え、攻撃対象を雰囲気中に包み込んで分解をかけるらしい。しかし、小型変質体には領域侵徹能力がないため、物理保護領域を持つ相手に飛びかかったところで影響は皆無だ。


「どうでもいいけどさ。なんか海洋生物っぽいやつ多すぎない? クモヒトデもテヅルモヅルもヒトデだし。最初に遭遇した変質体もウニっぽかったし。相手は棘皮動物(きょくひどうぶつ)のくくりなのかね? まあ、言ったらウチの方は魚類が多いけど」

「私もよくわからないけど、これは創造主のセンスじゃないかと思っているわ。変質体の方は、恐らく元の形とはかけ離れたものに変質させられているのでしょうけど」

「見た目が変わっても結局海の生き物なんだね~。なんか変なこだわりでもあるのかな? ま、形はどうあれ、あたしはもっと手応えが欲しかったけどね」


 聞けば北の変質体は、外見こそ同一ではあったが、侵食型の攻撃能力は持たなかったという。南側の自分たちはババを引いたようだ。

 小型変質体は、ランの放つプラズマジェットで薙ぎ払われたり、太郎と花子の射撃や打撃によって、次々と撃破されていた。本体の方は、物理保護領域を展開して哨戒機の射撃を無効化し、飛翔体を対空砲のように撃ち出して反撃を行っていた。だが、両者とも決定打にはならず、やはり膠着状態(こうちゃくじょうたい)へ陥ったようだ。そこへ駆けつけたサクラが、物理保護領域を侵徹して変質体を殴りつけ、対象を一撃で半壊させる。しかし足の高速刺突と、侵徹型飛翔体を組み合わせた反撃に見舞われ、付かず離れずの攻防となったようだ。

 射撃自体は、哨戒機の援護で迎撃できていたのだが、足の誘導性が極端に高く、()なしや打撃を合わせてもすぐに軌道修正され、体をかすめてくるほどだったらしい。

 こちらの足にも侵食性はなかったが、侵徹能力はあるため、まともに食らえばいかにサクラと言えど、無事には済まなかっただろう。結局はサクラも、打撃と防御の応酬でなかなか攻撃に転じることができず、ランたちが駆けつけるまでは、初めの一撃以外まともにダメージを与えられなかったそうだ。

 最終的には、ランが近接での援護に加わり、射撃や足の刺突攻撃へプラズマ放射を合わせて蒸散させたため、攻撃手段を喪失した変質体は、全員の絶え間ない攻撃によって、動力炉を破壊された。そして、炉内の高質量体崩壊の際、エネルギー放射をまともに浴びた太郎と花子は、強磁場によって深刻なダメージを受け、現在は社の保守設備で修理を受けている。

 太郎と花子の能力も、決して低いわけではないのだが、今回の変質体がけた違いに危険な相手だったおかげで、それも霞んでしまいがちだ。

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