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明け方の夢は、紫  作者: 秋月小夜
6/14

ヒナ

 期末テストも終わった次の日の朝、紫雨が顔に怪我をしてた。

 左目の下あたりが青紫色になって、その上に小さな擦り傷もあって腫れてるし。


 どうしちゃったんだろう、心配になる。


「紫雨どうしたのそれ?腫れて痛そう」

「ああこれ、うちで戸棚の扉ガーンってもろに食らってさあ。顔の筋肉動かすと痛い」

 そう答えて、いつもの紫雨にしては笑顔もないしおとなしくしてる。


 担任にも「時任くん、どうしたその怪我は?」と訊かれていた。


「夜に家でぼさっとしてて、開いてた戸棚の扉に思い切りぶつかりました」

「試験のストレスから兄と喧嘩、じゃないのか」

「違いますよ」


 ホントかなあ?となぜか私は思った。


 なんかそのことに触れられたくなさそうっていうか、そういう感じがしたから。




 その日から何日かして、紫雨が家の近所を同級生の片岡雛子(かたおか ひなこ)と一緒に歩いてるのを見かけた。


 小柄で華奢で色が白い雛子(ヒナ)はアイドル級に可愛くて、パッチリとした両目のまつげは、いつもクルンと上を向いている。


 ヒナとは中学は別だったけど、恋愛体質っていうのか付き合ってる相手と別れたらリスカしたとか、しばらく学校に来なくなったとか、ヤンデレぽいっていう噂がある子だ。


『ヒナ髪かわいい、綺麗に巻いたねー。でもやりすぎかも、絶対に宮坂に呼ばれるって』

 そう友達に言われても、『うん。もう朝校門で見つかって呼ばれてるー』。


 ニコニコしてちょっと滑舌悪めのゆっくりした口調で答えて、悪びれない。


 メイクしてスカートをすごく短くして来たりしては、よく生活指導室に呼ばれている。

 話すと会話がちょっととりとめなくて、学校は時々無断欠席したりする。

 テストの時は、ほとんどの教科で途中から机に突っ伏して寝ていた。


 でも天然で悪気がないヒナは、女子の間ではちょっと心配な可愛いキャラクターみたいな存在。

 ちょいちょい天然ぶりが炸裂するヒナに向かって男子は『ヒナは残念だな』『お前はホント惜しいやつだな』とか言うけど、けっこう人気がある。



 私も家に帰る途中だから、少し離れた道を紫雨と並んで話しながら歩くヒナのツインテールが揺れているのと、色白で折れそうな首筋がずっと目にうつる。


 どうして急に仲良くなったんだろう?

 これまでそんな感じ全然なかったのに。

 すごくすごくショックだ。


 ヒナ、紫雨の家に行くのかな?

 優雨は部活でいないはずだし、多分二人きり、だよ。


 キューっと胸が苦しくなる。


 このままだと、もうじき紫雨の家に着く。

 私の家はその向こうだけど、この距離感とか後をつけてるみたいで嫌だな。


 邪魔するようだけど、このままじゃこっちが気まずいから声かけちゃおう。

 そして早く家に入ろう。

 これ以上、二人を見てられないもん!


「ヒナ、紫雨」少し歩調を早めて二人に声をかけた。

「あれ、なんで亜美がいるの?」

 私を見て不思議そうに言うヒナ。


「なんでって。うち紫雨の家の隣、そこなんだもん」と私は自分の家をさした。

「えー嘘ー、そうなの?あー、いいなあ。紫雨の家の隣なの」

 ヒナは目をキラキラさせて羨ましそうに言った。

 そして隣に立つ紫雨をクルンとしたまつ毛で見上げて

「紫雨のうち、ちょっとだけお邪魔したい。ねえ、ダメ?」と言った。


 ヒナ、ど直球。

 そうやって聞く感じも可愛すぎて、私には絶対真似できない。


 いつから、とかどうしてとか、もうどうでもいい。

 あーもう泣きたくなる。


 今ので爆心地なみの直撃だけど、傷が浅いうちにさっさとこの場を離れたい。

 じゃあね、と二人に言おうとしたら。


 ダークグリーンのヘッドフォンを首にかけた紫雨は、ちょっとあっけに取られた感じだった。


 あれ、なんか流れが違うのかな。


「お前、寄り道ばっかしてると帰り危ないからダメ。それにコメ研いで風呂洗えって、優雨に振られた俺限定タスクあるから。はい、じゃあねえー」

 ひらひらと手を振って紫雨はヒナに言った。


「えー、紫雨冷たいー。ケチだなあ、もう」

 唇を尖らせてヒナは言った。

 でも。

「二人とも、お疲れー。じゃあなー」。

 もう一度言うと紫雨は家に入ってしまった。


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