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11話 博麗大結界

アイスソードネタをしてしまいたいがために、色々精神ブラクラしました

でも開き直って頑張ります



後、何度も言いますがこれフィクションですから

名前とか登場人物とか被ってそうに見えて、全然違う人ですから

上野とか藤岡とか太田とか色々、これそういう小説じゃないから!

幻想郷なんてねーから!

「なんか行っちゃいましたね」



そう呟いたのは、やや老けた感じの男だった。

それなりにいいスーツなのだろうが『着ている』というよりも『着せられている』といった感じの冴えない男は、個室でテレビを凝視している人物に声をかけた。



「しかし何ですかねアレ、あの恥ずかしい告白。よくやるもんだ」


「・・・・・」



しかし全く持ってその言葉に反応を示さず、彼は既に飛び去った後の喧騒を映し出すテレビから目を離さなかった。

不審に思った男は、その人物の顔を覗おうとしたとき一人にして欲しい、と頼まれる。

男は眉を八の字に曲げていぶかしんだが、やがて諦めたようなため息を吐き出して部屋の外に出て行った。


バタン、という音を耳にして、この部屋がようやく彼一人のものになったと感じ、その人物はようやく羽を伸ばせるっと言った様に大きく背筋を伸ばす。

その男の表情には安堵という色が張り付いて、この状況を心から喜んでいるようにも見えた。


一頻り体の硬直した筋肉を動かしたあと帽子の位置取りを完璧に決めなおし、さてお茶でも飲もうかと席を立った彼の背後に、ある筈もない声がかかった。



「彼らがあなたに会いもせず帰ったのに安心した?大丈夫って言ったはずだけど、他ならぬあなたは私の発言を真に受けることはほぼないものね。けど彼の発言には流石の私も度肝を抜かれたわ。ある程度の事象は予測可能とは言え、あの解を導き出せるのは如何な私でも限度がある。いえ、解を求めるのは簡単ね。ただその式が、その過程があまりにもユニークだった、彼の場合は特に。ふふ、あの短期間にどれほどの心境の変化があったのか少々興味深い所はあるけど、今はその時ではない。そうよねぇ太田さん?」



優艶な、それでいて妖しげな声を耳にした男は、見るからに肩を落とした後、心底嫌そうな表情でその女性を振り返った。











あの後俺たちは幻想郷へいたる場所へ向かったのだが、しかし話を聞くによると結界の入り口は明日にならないと開かないとのこと。

そこで俺たちは白馬の近くにある民宿へと足を伸ばしたのだが・・・




ホワイトクリスマス

それは聖夜クリスマスにおいて雪が降り積もること事を指す。

多くの人間はその聖夜とやさしく揺らめく雪の神秘的な光景に心を震わせる。

それが好きな人間と一緒に眺めるとなると、寒さを忘れてその幸せをかみ締めるのだろう。


・・・と、まぁ一般的にはそういうことだ。

だが東北に行けば行くほど『ホワイトクリスマス』なんてものは死語と化していく。

斜めに流れる雪、人の高さを超える積雪、時に玄関すら開閉不能にする。


そう時はまさに『ホワイトアウトクリスマス』



「ひでぇ・・・」



外の惨状を眺めながら自然と口に出した台詞を一体誰が攻めようか。

雪に殺意が篭るとはこういうこと、間違いなく外は生きるものを殺しにきているとしか思えない自然の暴力。

窓の蝶番がガタガタと不振な音をたて、肝心の景色は白以外全く映し出そうとはしない。


一応それなりに近いのだが、それでもこの吹雪の中を歩くのは憂鬱だ。

軽くため息を洩らすと、暖房が効いているとは言え冷気が忍び込むこの部屋の誰かが声をかけてくる。



(さいかち)、包帯を換えるわ。こっちにいらっしゃい」



白く染まった窓から視線を外すと、八意永琳さんがなにやらカバンをごそごそと弄っている。

そこからスプレー状の何か、薬瓶、ガーゼや包帯を出して俺に再度手招きした。



「早く来なさい。まだ完全に治療したわけでもないから完治してない、炎症起こしても知らないわよ」



そう促され、一歩歩くたびに電流が流れるように痛む脇腹を押さえつつ八意さんの元へ足を動かす。

彼女の傍に座り上着を捲り上げると、八意さんは手際よく患部に張られた護符(?)を剥ぎ取りスプレーで傷口を湿らした。



「ぃぎ!」



思わず声を出してしまうほどの鋭い痛みに彼女は気にした様もなく、淀みなく作業を続けていった。

そんな彼女の顔をじっくりと凝視して思わず我に返った俺は、沸いて出てきた羞恥心を誤魔化すように口を開いた。



「いま、相当吹雪いてますけど、行くんですか?えーっと・・・あれ?あめふり・・・いや、あめふる?」


雨降宮嶺方諏訪神社あめふりのみやみねかたすわじんじゃ?」


「あ、そうそれです」



雨降宮嶺方諏訪神社あめふりのみやみねかたすわじんじゃ


正直マイナーな神社であり、やや寂れたところに存在する神社であるらしい。

健御名方命と八坂刀売命を奉納する神社なのだが・・・・・正直、なにそれ?

日本神話なんてアマテラスとツクヨミとスサノオしか知らん。

タケミナカタ?ヤサカトメ?何の神様ですか?


別にこの二神を悪く言ってるつもりはないんだけども、一般的な知識ってそんなもんである。

地方に根を下ろす神とかありすぎてよく分からない、八百万の名前は伊達ではなく、興味を持たないと一生関わりあうことなく人生を終えるなんてざらだろう。



そんな俺の前のめりな会話を、黙々と手を動かしながら聞いていた八意さんは思いついたように口を開いた。



「ならタカムスビやオモイカネも、あなたは知らないようね」


「?・・・それもなにかの神様ですか?」



そう答えた俺の質問に、八意さんは何でもないとばかりに首を振り、



「いいえ、それより雨降宮嶺方諏訪神社あめふりのみやみねかたすわじんじゃだけど、もちろん今日向かうわ。心配しなくても対策は万全よ」



そういって少し用があるからと言って窓から外へ出て行った、まるで何かを誤魔化すように。

それを見送り下を向くと既に傷口は包帯で固定されている、なんという早業。






「今日はまぁづ外ぉ出るはやめとおた方がええだえ」



そういうのはここの亭主であり板前でもある恰幅のいいおじさんである。

現在は普段着を着込んで素敵な髭を片腕でモサモサさせつつ渋い表情を浮かべていた。


恐らく人がいいのだろう。

昨日突然訪れた客に嫌な顔一つ見せずに迎えてくれた亭主である、思わず俺でなくても首を縦に振ってしまいたくなるが、こちとらも引けない用がある。



「すいません、好意だけは受け取ります」


「さよかぁ、ずでぇおめさんは・・・・・」


「ありがとうございます、お世話になりました」


「あい、おやすみなさい」



そういって俺は防寒の襟を寄せるようにして、白く染まる外へと向かっていく。

ほんの数分歩いて振り返ると、もう先ほど居た民宿は白のキャンパスに隠れ、完全に見えなくなっていた。


(正直、イマイチ何言ってるのかわからんかったな)


しかし妙に親しみやすさを覚える方言に名残惜しさにも似た感想を抱き、再び前を向くと八意さんが目の前にたっていた。



「うぉ!!」


「遅かったわね、何か不都合でもあったの?」


「いや、特にないですけども。それより脅かさないでくださいよ」


「あら?私は宣言どおり建物が見えなくなってから合流しましょう、と言ったはずだけど?」



そういいながらも妙に楽しそうに話す彼女に、思わず眉間に寄った皺を揉みほぐした。


いまや時の人物である八意永琳。

その彼女が俺と一緒に民宿に入ろうものなら一発でばれるだろう(あの奇抜な服装も含めて)。

それに対して俺は憎悪の対象として世間一般から見られてるようだが、特徴がないのが特徴は伊達ではなく、大胆に髪型を変えただけで誰も俺とは気付かない。

単純にジェルで髪をオールバックにして固めただけなんだが、案外気付かないもんだなぁ。

後は俺一人で宿をとり、八意さんは武空術で飛んで窓から侵入したのが先ほどの話の末端にあたる。


幻想郷の管理人との契約上、また派手にするのかと思いながらも半分諦めながらの提案だったが、流石に結界の穴の出所を悟られるのは不味いと判断したのか、八意さんは間髪入れずに頷いた。


本当はまた何か言われるかと思っていた。

というのは昨日以来八意さんは俺への扱いが漫然としているというかなんと言うかいじめっ子のソレになり、ニヤニヤしながら俺をからかって来る。

俺への惚れた弱みというものを嫌らしく突いてくるから、俺はオロオロするか閉口するしかない。


え?何?最初のころとは態度が違う?

ですよねー。

最初あった時は慈愛に満ち溢れて常に笑みを絶やさない観音様かと思いきや、どうしてこうなった?

いや違う、どうしてあんなことをした、俺。


所謂、「やって後悔」というものを身に染みて感じつつ項垂れていると



「この寒さは傷口に悪いわ、気温-5度だけど湿度5.68%、風速22m/s。体感温度は18.8度ってところかしら?」



そういって八意さんは俺の腕に触れると、同時に俺の状況が一変した。



「・・・・・・風が、やんだ?」



そう思わず言ってしまったが、相変わらず俺の周りは雪風が横薙ぎに吹いている。

ということは風がやんだというよりは、俺の周りの風を遮断したと考えるのがいいのか。

透明のガラスに守られているような不思議な状況に戸惑っていると



「整合結界の一種、空を飛ぼうと本気で考えるなら確実に覚えておかなければならない術式の一つ」



そういって綿羽のように柔らかな表情で微笑んだ。

八意さん、あなたは天使だ。






風がやむ、というのは馬鹿には出来ないらしい。

先ほどは防寒着の隙間から入る冷風に歯が合わなくなるほど震えていたが、今は心持ち肌寒いというぐらいにまで改善されていた。

遭難した時の雪山に、寂れた小屋を見付だけで皆がヒャッハーする理由が分かったような気がする。


そんな降り荒む雪の中、違和感ある快適な道中を進んでいく中ついに目的地へと到達した。



「ここかぁ」



雨降宮嶺方諏訪神社あめふりのみやみねかたすわじんじゃ


社の隣に立てられた石碑がその存在を顕著にさせていた。

というかソレしかないような気がする。


隣にはそれなりのスキー場が存在しており、この季節だと人が賑わいそうだがこの吹雪では仕方ないだろう。

とは言えそれなりに人が集まりそうな神社が何故幻想郷の入り口として扱われたのか、それは入ってすぐ理解した。



「なんもねぇー」



いや、あるにはある。これほど見事な杉はそうないだろう。

が、それだけである。


社を潜ったあとの道中ある倉庫は屋根が半分落ちかけているし、肝心の境内は厳粛とした古さというより染み付いたボロさが目立つ。

何より境内の微妙な広さが寂れるというものを余計に誇張させている。

桜でもあれば花見などの行事で人は呼べるが、探しても見当たらないのでそれもない。


正直、あまり神社は詳しい訳ではないがとてもじゃないがこの神社ために足を運べる、とはいえない残念ながら。

ここらの近くに住んでたら覗くかなぁくらい、もしくはスキーのついでに軽く冷やかしにいく程度。



その中を俺と八意さんは歩いていく。

相変わらず視界は白く染まるが、杉のおかげで先ほどよりは断然まし。


向かうは本堂




やはり安定して寂れている、というか微妙に小さい。


そこで俺は足を止め周囲を覗った。

聞いたはずではこの神社に『幻想郷の管理人』が居るとの事だが、さて。

どういう現れ方をするのか期待していると八意さんから声がかかった。



「何を止まっているの(さいかち)


「え?あの、ここで合流じゃありませんでしたっけ?」


「こんなところで合流できるわけないでしょう?もし万が一、一目についたらどうするの?」



呆れたよう呟き本堂の裏へと八意さんは歩を進めていく。

もしかして本堂の裏で合流か、と考えながら俺は慌てて彼女の背中を追いかけた。


本堂の裏についたもののそこには誰も居らず、何より八意さんの歩みも止まらない。

そしてついに境内の外へと出て行ってしまった。


もう何がなんだか分からず俺は引っ張られる形で八意さんの後をついていく。




そこは、境内とは打って変わって厳粛とした杉林が広がっている。

もっとも広さはさほどないようだが、それでも雪風にも負けず聳え立つは厳粛な空気を立ち込めていた。

八意さんはその杉林を不規則に縫うように歩いていく。

適当に歩いていると思えるのだが、何かしら意図的なものを覗かせていた。

たまに彼女の姿が杉に隠れるものの、足跡をたどり離れずに着いていき、





そして俺は立ち止まった。



「!?・・・・八意さん!それ以上は、駄目です!」



数歩先で彼女は振り返った。

俺はその腕を掴んで、すぐさま走って逃げたいが、それは出来ない。

出来ないというより、近づけない。



痛烈な違和感。

むせ返るような危機感。


空間が、狂気に満ちている。



「それ以上は、よくないものが、ある」



本能が、勘が、絶叫を上げている。

肌が粟立ち、腕が震える。

足が突然石化したかのように固まり、視界が歪む。


駄目、間違いなく。

これ以上は行ってはいけない。

ここから先は人の理から道を外した場所。

この先に待ち構えるのは生死に関わるような、もう戻って来れないような、そんな気がしてならなかった。




早く、この怖気の走る土地から逃げ出さなければ!


そんな俺の姿を見て、八意さんは目を細め口を開く。



「その反応は正しい。これこそ結界の本質、霊感のあるものは異変があると察知し近づかず、ないものは本能的に避け異変があることすら気付けない」



そういって、彼女はこちらを向かい入れるように腕を広げる。

降りしきる雪の中、圧倒的な存在感を放つ彼女が、普段より儚く見えた。

今にも消えてしまいそうな彼女をこの腕に収めたい。



「これが幻想郷を囲む結界『博麗大結界』」



だが、俺はその彼女に一歩も近づけない。

いや、体が近づくことを否定する。


そうして理解する。


これが博麗大結界、か






常識と非常識を隔てる結界と、以前八意さんに聞いたことがある。


だけど、これはあまりにも



「あまりにも凶悪過ぎやしませんか?」



ここから先、足が一歩も動かない。

まるで切り立った崖の頂に立ってる気分になってくる。

しかし八意さんは俺の答えに首を振った。



「いいえ、それでこそ博麗大結界よ。常識と非常識を隔てる壁ですもの、当然でしょう?例えば、私たちは生身で宇宙空間に立つことは当たり前でも、地上の民はどうかしらね?あなた、宇宙空間に生身で飛び込めるかしら?」


「・・・・それは――」


「ええ、無理でしょう。それが常識と非常識の壁、というものよ。生きる意志のあるものは決して超えられない、生存本能に訴えかける見えざる壁」



確かに、それなら誰だって行こうとすら思わない。

いや本能的に避けるだろう。

旅行のパンフレットを見て思わず紛争地帯に手を出す奴はまずいない。彼らは無意識のうちにその選択肢を除外しているのだろう。

見えてる地雷に自ら踏み抜きに行く馬鹿なんていやしない。いたらそいつは自殺志願者か、何かキメてるに違いない。


そこで俺はとあることに気付いた。

そうだ、いる。そんな馬鹿は、思った以上に世の中にいることを。



「ちょっと待ってください!生きる意志があるものは結界を超えられないのはわかりました。じゃあもし、生きる意志のないものがそこに迷い込んだら・・・」



その俺の質問に彼女は満足そうに頷いた。



「ご明察。逆に生きる意志のないもの、存在理由の希薄になったものは抵抗なく結界を超えることが出来る。彼らは死という非常識を容認してしまったから、それが所謂『幻想入り(かみかくし)』の本質よ」


「・・・・・そいつらはどうなるんですか」


「魑魅魍魎が跋扈する異郷よ。結界に紛れ込んだ人間は無事ではすまない。半日もすれば魂までも貪られる、骨が残っていればいいわね」


「つまり、博麗大結界ってのは中の妖魔を守り、網に掛かった餌を効率よくとるいわばアリ地獄のようなシステムなんですね」


「そうね」



八意さんの答えに思わず苦虫を潰したように、眉に皺を寄せ渋い表情をしてしまった。

俺自身人間だ、その人間がまるで餌のように扱われていることに嫌悪の感情が先立ってしまう。


突然結界内に紛れ込んだ人間は、どんな気持ちで迫ってくる化け物達を眺めていたのだろうか?

頭から爪の先に至るまで貪り食い尽くされ、最後には魂さえも嬲られる結末に納得したのだろうか?


それを考えるとたとえ自殺志願者とはいえ釈然としない気持ちになった。



「不服そうね、確かに人間の視点から見れば確かに不愉快かもしれない。けれど妖魔とて存在するには人を襲うしかない。自殺願望のあるものしか襲わないだけ良心的じゃないかしら」



そんな俺の心情を知ってか知らずか、八意さんは話を続けながら進むことの出来ない俺に近づいてくる。



「結局は視点の違いだけ、そしてあなたは『こちら側』の者になる。そして幻想郷の『常識』に染まる以上、この程度で目くじら立ててたら長生き出来ないわよ?」



そういって俺の目前30cm前に手をさし伸ばした。



「さぁこれが最後。この先を進むか、退くか。あなたが決めなさい」



ふと、遠い昔に思えてる6日前。

俺の世界観の全てを瓦解させた彼女と初めて会った日の事を。

あの時答えられなかった問いを、俺は今再び投げかけられている。


母親が小さな子を正しく教え導く手のように

嘆きの亡霊が黄泉へと引き摺る手のように


彼女の手はその両方の可能性を抱擁して、俺に選択肢を迫っていた。




彼女との邂逅を思い馳せる。


憧憬と尊敬が、俺の心を染めていく。

魂まで染みこんだそれは、俺の価値観全てを覆した。

だが、離れていく日常であろうとも、彼女の笑みをみると全てを失ってもいいと感じた。



俺は彼女から瞳を離さず、手を握り返し足を一歩進ませた。


だから、もう何も失うものはない。




それを八意さんは微笑んで受け入れた。



「ついて着なさい、後もう少し。手を離さないように」



彼女の手に引かれ、俺は杉林を縫っていく。

積雪した雪を掻き分けて、狂気の感じる空間を縫って、まるで綱渡りのような心細さで進んでいく。


その心細さを誤魔化すように彼女の握る手に力を込める。

八意さんもそれに答えるように握り返した。



果たして、杉林を抜けた先にあったのは。






「え?」



まるで一緒だった。



「あ、れ?」



というか、なんというか



「戻ってる?」



そう、俺たちは再び雨降宮嶺方諏訪神社あめふりのみやみねかたすわじんじゃに戻ってきていた。


結局八意さんはあの杉林をぐるぐる回っていただけだったのだ。

雪のカーテンが掛かっており、周囲の確認が出来なかったとはいえ、戻ってくるとは。


奇妙な落胆が俺を襲った。

幻想郷に入ったら景色が一変するものかと、そう思っていたからだ。

でもこれじゃただ散歩コースを歩いただけじゃないか。


そんな考えを抱き、気落ちした様に境内へ入り、あらゆる毛という毛が逆立った。



「・・・・・!?」



神社を見て取った、間抜けにも阿呆面さらして。

だが俺の行動を非難する奴はいないだろう。

いるのなら俺と同じ状況に置かれて、尚且つ平素でいられる奴だけにしてくれ。


そう考えてしまうほど、異質だった。



境内には寂れとは程遠いものが充満していた。

それが何か分かるほど俺は器用でもなんでもなかった。

ただ同じ感覚は知っている。


初めて八意さんの物理的干渉が出来るほど高密度な霊力。

産毛すら逆立ち、思わず背筋を伸ばしてしまう異質な空間に、俺は開いた口が塞がらなかった。



「幻想郷へようこそ」



そういう八意さんは、俺の表情を見て満足げな笑みを浮かべているのだった。


でも、あったらいいな幻想郷


なんであの時逃げたんだろ

まぁ好奇心は猫をも殺すっていうからね、しゃーんめぇ

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