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異世界酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい


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3/10

3杯目:魔界の酒と予想外の力

リリアに案内されて食堂へと向かう途中、アルは城の内部を興味深そうに見回していた。石造りの廊下には松明が灯り、壁には魔人族らしき肖像画が飾られている。


「結構立派な城だな。リリア、君の家族は城で働いてるの?」


「え、ええ......そんなところです」


リリアは少し言葉を濁した。魔王の娘であることは、まだ言えない。


食堂に到着すると、既にテーブルには料理が並んでいた。見たこともない野菜や、巨大な肉の塊、色とりどりの果物——そして、透明な液体が入った瓶がいくつか置かれていた。


「わあ、すごい......異世界の料理だ」


アルの目が輝く。そして、酒の瓶を見つけると、さらに顔が明るくなった。


「おっ、これが魔界の酒?」


「はい。魔界で一般的な蒸留酒です。結構強いと聞いていますが......」


「強い酒、最高じゃん。いただきます!」


アルは早速グラスに注ぎ、一口飲んだ。


「——うま!これ、めちゃくちゃうまいぞ!」


アルコール度数は高いが、まろやかで喉越しが良い。現代の酒とはまた違った風味が、アルの舌を喜ばせる。


「気に入っていただけて良かったです」


リリアは嬉しそうに微笑み、自分は甘い果実ジュースを飲み始めた。その角がほんのり赤く染まっている。


アルはどんどん酒を飲み、料理を平らげていく。リリアはそんな彼を微笑ましく見守っていた。


「アル、お酒がお好きなんですね」


「まあね。酒があれば大抵のことは楽しくなるし、つらいことも忘れられる。人生、楽しんだもん勝ちでしょ」


そう言いながら、アルはさらにグラスを傾ける。すると——


アルの体から、ほんのりと光が漏れ始めた。


「あれ?なんか......体が軽い?」


アルは自分の手を見つめる。だが、特に変化は感じられない。気のせいかな、と首を傾げた。


リリアは目を見開いていた。今、確かにアルの体が光った。あれは——魔力?人族なのに?


「アル、今......」


リリアが何か言おうとした瞬間——


ガシャーン!


突然、食堂の窓ガラスが割れ、何かが飛び込んできた。


「きゃあ!」


リリアが悲鳴を上げる。飛び込んできたのは、狼のような姿をした魔物だった。体長は2メートル近くあり、鋭い牙と爪を持っている。


「な、なんだこいつ!」


アルは慌てて立ち上がる。魔物はアルとリリアを睨みつけ、低く唸り声を上げた。


「ダークウルフ......!なぜこんなところに!」


リリアは驚愕する。この魔物は本来、城の近くには現れない。まるで誰かが意図的に放ったかのように——。


(保守派の貴族たち......まさか!)


リリアの脳裏に嫌な予感が走る。アルを排除するために、魔物を放ったのだろうか。


「リリア、下がって!」


アルはリリアを庇うように前に出た。だが、武器もなければ戦闘訓練も受けていない。できることなど——


ダークウルフが飛びかかってきた。


「うおっ!」


アルは咄嗟に横に飛び、テーブルの上にあった空の酒瓶を掴んだ。そして——


バキン!


狼の頭に酒瓶を叩きつけた。だが、効果はほとんどない。ダークウルフは怒り狂い、再び襲いかかる。


「くそっ、やっぱ無理か——」


その瞬間、アルの体が再び光り輝いた。今度は先ほどよりも強く、眩いほどに。


「——え?」


アルの体が、信じられないほど軽くなった。視界がクリアになり、ダークウルフの動きがスローモーションのように見える。


(何これ!?体が......めちゃくちゃ動く!)


アルは本能的に動いた。ダークウルフの攻撃を紙一重で避け、その懐に潜り込む。そして——


ドゴォ!


拳を狼の顎に叩き込んだ。ダークウルフは吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。


「......え?今、俺が?」


アルは自分の拳を見つめる。信じられない。ただの大学生が、魔物を一撃で倒した?


「アル!すごいです!」


リリアが駆け寄ってくる。その角は真っ赤に染まっていた。


「いや、俺も何が起きたのかわからなくて......」


そう言いながら、アルはふらりとよろめいた。


「あれ?なんか......急に力が抜けた......」


そして、そのまま床に倒れ込んだ。


「アル!?」


リリアが慌てて駆け寄る。アルは気絶していた——いや、単純に酔いつぶれているだけのようだ。


「はあ......びっくりしました」


リリアは胸を撫で下ろす。そして、倒れたダークウルフと、気絶したアルを交互に見つめた。


(あれは......魔力の増幅?それとも別の何か?人族なのに、あんな力を......)


リリアは考え込む。だが、一つだけ確かなことがあった。


このアルという青年は、ただの人族ではない——。



* * *



玉座の間、魔王ゼクセル・クマガワは報告を聞き、眉をひそめた。


「ダークウルフが城内に侵入した、だと?」


「はい。誰かが意図的に放ったものと思われます。姫様の客人を狙ったのかと」


「それで、その人族は?」


「......一撃で倒したとのことです」


魔王の目が見開かれた。


「何?」


「目撃者によると、その人族の男——アルという者が、素手でダークウルフを一撃で倒したと」


「人族が?ありえん。ダークウルフは魔界でも中級の魔物だぞ」


「しかし、事実です。さらに、彼の体が光り輝いていたという証言もあります」


魔王は黙り込んだ。人族が魔物を一撃で倒す?体が光る?


「......面白い。その男、ただの人族ではないな」


「いかがなさいますか?」


「引き続き監視は続けろ。だが、危害は加えるな。リリアが気に入っているようだし、様子を見よう」


「御意」


騎士が退出した後、魔王は窓の外を見つめた。


「アルとやら......お前は一体、何者なのだ」



* * *



アルが目を覚ましたのは、数時間後だった。


「うー......また頭痛い......」


見覚えのある天井。客室のベッドだ。


「あ、起きましたか」


リリアが心配そうに覗き込んでくる。


「リリア......俺、どうしたんだっけ?」


「覚えていないんですか?ダークウルフという魔物を一撃で倒したんですよ」


「え?マジ?」


アルは記憶を辿る。確かに、狼みたいなのがいて、殴ったような——でも、一撃?


「俺が?ウソでしょ」


「本当です。とても......かっこよかったです」


リリアの角がほんのり赤くなる。


「いや、でも俺、普通の大学生だし......あ!」


アルは何かに気づいた。


「酒......酒を飲んだ後だった!」


「お酒?」


「もしかして、あの魔界の酒に何か特別な効果が?」


リリアは首を傾げる。


「いえ、普通の蒸留酒です。特別な効果はないはずですが......」


アルは考え込んだ。現代で飲んでいた時は何も起きなかった。でも、こっちに来てから酒を飲んだら——


「まさか......異世界補正的なやつ?」


「異世界補正?」


「いや、こっちの話」


アルは頭を抱えた。どうやら、自分には何か特別な力があるらしい。しかも、酒を飲むと発動する——。


「とりあえず、今度酒飲む時は気をつけよう......」


そう呟くアルの言葉を、リリアは不思議そうに聞いていた。


こうして、アルの特殊能力の片鱗が明らかになった。だが、それは始まりに過ぎなかった。

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