(再執筆版)2杯目 魔王城の朝と、初めての魔法
目が覚めると、見慣れない天井があった。
いや、天井というより、石造りのアーチ状の屋根だ。松明の明かりが揺れて、壁に影を落としている。
ここは……どこだ?
俺——アル(21歳)は、ゆっくりと体を起こした。
あれ……俺、洞窟で寝たはずなのに……。
体は痛くない。むしろ、すごく快適なベッドだ。
「……夢? いや、でも……」
その時、扉が静かに開いた。
「あ……アルさん、起きられましたか……?」
そこに立っていたのは、昨日出会った少女——リリアだった。
白いドレスに深紅の瞳。そして、頭には小さな角が生えている。
「リリア……! ここは……?」
「申し訳ありません……あの後、アルさんが深く眠ってしまわれたので……」
リリアは申し訳なさそうに俯いた。
「転移魔法で、ここ……魔王城へお連れしました」
「魔王城……?」
一瞬、耳を疑った。
「はい……父の、城です……」
「父って……まさか」
「……魔王ゼクセル・クマガワです」
リリアは小さく頷いた。
魔王の娘。
それが、彼女の正体だった。
「……そっか。だから、転移魔法とか使えるんだな」
「はい……勝手なことをして、本当にごめんなさい……」
「いや、いいって。おかげで快適に寝られたし」
俺は笑った。
「それに、お前は俺を助けようとしてくれたんだろ? ありがとな」
「アルさん……」
リリアは驚いたように目を見開き、そして、嬉しそうに微笑んだ。
リリアの案内で、城の食堂へ向かった。
廊下を歩きながら、リリアが丁寧に説明してくれる。
「あの……アルさん、この世界のこと、ご存知ですか……?」
「いや、全然。昨日いきなり川に落ちて、気づいたらここだったから」
「そうですよね……では、少しお話しさせてください」
リリアは小さく息を吸い込んで、話し始めた。
「この世界には、三つの種族が暮らしています」
「三つ?」
「はい。まず、人族。北の大陸に住んでいます。次に、魔族……私たち魔人族も含まれます。南の大陸に住んでいます。そして、亜人族。エルフ、ドワーフ、獣人など、様々な種族がいて、中央の森や山に住んでいます」
「なるほど……」
「ですが……三つの種族は、あまり仲が良くありません」
リリアの声が少し沈む。
「人族と魔族は、過去に戦争をしました。今は休戦していますが……対立は続いています。亜人族は中立を保っていますが、時々、両方から差別されることもあります」
「……複雑なんだな」
「はい……父は、三つの種族が共に暮らせる世界を目指していますが……なかなか難しくて……」
リリアは申し訳なさそうに俯いた。
「でも、父は諦めていません。だから……アルさんにも、協力していただけたらと……」
「俺が?」
「はい。昨日は……何も起こりませんでしたが……」
リリアは真剣な表情で続けた。
「もしかしたら、何か、特別な力が目覚めるかもしれません」
「特別な力、か……」
「はい。この世界に転移してきた方には、時々、不思議な力が宿ることがあるんです」
「へえ、そうなんだ、どうやって確かめればいいの?」
「それは、私にもわかりません。アルさんなにか感じたりしてないですか?」
リリアは期待を込めた目で、俺を見つめた。
「んー、特にはないかなぁ。あっでも酒飲みたいかも」
俺は自分の欲望には忠実な男なのだ。
リリアは少し困り顔をしつつも、お酒が何か関係あるのかもということですね。わかりましたといい準備にあたってくれた。なんとも純粋な子なんだろうアーメン。
◇
食堂は広く、長いテーブルが並んでいた。
リリアが案内してくれた席に座ると、すぐに料理が運ばれてきた。
「これ、魔界の料理です。お口に合うかわかりませんが……どうぞ」
「いただきます」
見た目は少し黒っぽいが、味は意外と美味い。肉は柔らかく、スパイスが効いている。
「うまい! これ、何の肉?」
「ラビットールという魔物の肉です。この辺りでよく獲れるんです」
「へえ、魔物か。でも、普通に美味いな」
「よかった……気に入っていただけて」
リリアは少しだけ笑顔を見せた。
食事を進めていると、リリアが小さな瓶を取り出した。
「あの……アルさん、こちらがお酒です」
「おっ、酒か!」
「では……これ、この世界の酒ですがよかったら、どうぞ」
リリアが注いでくれたのは、深い紫色の液体だった。
「……紫?」
「はい。ダークベリーという果実で作られた酒です。この世界では定番の一杯なんです」
香りを嗅ぐと、甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。ベリー系の香りに、ほのかにスパイスの香りが混じっている。
「いい香りだな」
「ありがとうございます……では、どうぞ」
一口飲むと——。
「……うまい!」
甘さと酸味が絶妙に調和していて、後味にスパイスの余韻が残る。アルコール度数は高めだが、飲みやすい。
「これ、マジでうまいな!」
「本当ですか……? よかった……」
リリアは嬉しそうに微笑んだ。
俺は調子に乗って、もう一杯、もう一杯と飲み続けた。
三杯目を飲み終えた時だった。
突然、体が熱くなった。
「……ん? これ……!」
「アルさん……? 大丈夫ですか……?」
「ああ、なんか……昨日とは違う。体が……すごく熱い……!」
その瞬間——。
ゴオオオオオオオオッ!
突風が巻き起こった。
「え……!?」
テーブルの上の皿が飛び、料理が宙を舞う。リリアの髪が激しく揺れる。
「きゃあっ……!」
「うおっ、何だこれ!?」
風は俺を中心に渦を巻いていた。まるで、俺が風を生み出しているみたいだ。
「アルさん……これ……魔法です……!」
「魔法……!?」
その時、頭の中に声が響いた。
『酔拳魔法発動——風魔法 Lv3。持続時間:10分』
「……酔拳魔法?」
「やっぱり……! 酒を飲んで、魔法が……!」
リリアが驚愕と期待の入り混じった表情を浮かべた。
風はどんどん強くなり、食堂中のものを巻き上げていく。
「ちょ、ちょっと待て! 止まれ! 止まれってば!」
だが、風は止まらない。
「10分経たたないと、とまんないのか……!?」
アルは必死になんとかしようとしているが止め方もわからず
そして——10分後。
突然、風がピタリと止まった。
「……終わった?」
「は、はい……終わりました……」
がしかし、食堂は滅茶苦茶だった。皿は割れ、料理は床に散乱し、テーブルは倒れている。
「……やっちまった」
「す、すごいです……! アルさん、本当に魔法を……!」
リリアは目を輝かせていた。
「酒を飲んで魔法が発動する……これは、本当に特別な力です……!」
「酒で魔法、か……」
俺は自分の手を見つめた。
「面白いな」
その時、遠くの廊下から足音が聞こえた。
「リリア様……! 大丈夫ですか!?」
使用人たちが慌てて駆けつけてくる。
食堂の惨状を見て、一瞬固まった。
「あ……大丈夫です……! ちょっと、魔法の練習をしていただけで……」
リリアは慌てて説明した。
「この食堂は……」
「後で片付けます……! 本当に、申し訳ありません……」
リリアは深々と頭を下げた。
俺も一緒に頭を下げる。
「すみません……」
使用人たちは困惑しながらも、片付けを始めた。
「アルさん、部屋に戻りましょう……」
「ああ、そうだな」
リリアに案内されて、部屋に戻った。
「今日は、ゆっくり休んでください」
リリアは少し緊張した表情で言った。
「明日……父にお会いいただきます」
「魔王に?」
「はい。きっと、アルさんの力について、お話ししたいことがあると思います」
「わかった」
アルは頷いた。
「あの……怒られたりは、しませんから……」
「ああ、大丈夫。気にすんな」
俺は笑った。
「それでは……おやすみなさい、アルさん」
「おやすみ、リリア」
リリアが部屋を出ていく。
俺はベッドに倒れ込んだ。
「……魔法、か。まさか本当に使えるようになるとはな」
不思議な気分だった。
だが、悪くない。
「明日、魔王に会うのか……」
少し緊張するが、まあ何とかなるだろう。
「なんとかなる、なんとかなる」
俺はそう呟いて、深い眠りに落ちた。
その頃——。
城の高い塔の一室。
窓から食堂の方を見下ろす人物がいた。
魔王ゼクセル・クマガワ。
「……酒を飲んで魔法を発動する、か」
彼は静かに呟いた。
「リリアの読み通りだ。あの青年には、特別な力が宿っている」
魔王の瞳が、期待に輝いた。
「人族と魔族の対立を超える鍵……もしかすると、あの青年が——」
彼は腕を組み、深く考え込んだ。
「明日、直接話を聞こう」
魔王は満足そうに微笑んだ。
「リリア。お前が連れてきた青年は、この世界を変えるかもしれない」
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