22杯目 謎のエルフ少女
「この子、かなり衰弱しているわ……」
マリアが少女の容態を確認している。
俺たちは倒れた少女を屋敷の客室に運び込んだ。
ベッドに横たわる少女は、呼吸が浅く、顔色も悪い。
「栄養失調と、脱水症状ね。それに……」
マリアの表情が険しくなった。
「何かの魔法で追跡されているわ」
「追跡!?」
俺は驚いた。
「ええ。微弱だけど、魔力の痕跡がある。おそらく、誰かがこの子を探している」
「大変じゃないか!」
「今すぐどうこうなるわけじゃないわ。でも、警戒は必要ね」
マリアは少女に治癒魔法をかけた。
柔らかな光が少女を包む。
「これで、少し楽になるはず」
少女の顔は幾分か先程より穏やかになっていった。
「ところで、アル」
マーカスが小声で言った。
「ん?」
「お前の屋敷、いつの間にか避難シェルターになってないか?」
「……言われてみれば」
確かに、ルーナ姫も勝手に住み着いてるし、今度はエルフの少女まで……。
「次は誰が来るんだろうな」
「縁起でもないこと言うな!」
――――
「俺たちは何をすればいい?」
マーカスが聞いた。
「今夜は見張りが必要ね。交代で屋敷の周りを警備しましょう」
「分かった。俺が最初に見張るよ」
ゲルドが志願した。
「じゃあ、俺が次だ」
マーカスも続く。
「私も手伝います」
リリアが言った。
「私もよ」
ルーナ姫も負けていない。
「あの、二人とも、見張りって結構大変だぞ?」
俺が心配して言うと――。
「アルを守るためなら!」
「「……」」
リリアとルーナ姫が同時に言って、お互いを睨み合った。
「また始まった……」
マーカスが頭を抱える。
「まあ、いつものことだな」
ゲルドは慣れた様子だ。
---
数時間後。
「う……ん……」
少女が目を覚ました。
「気がついた!?」
俺は慌てて駆け寄った。
「こ、ここは……?」
少女は不安そうに辺りを見回す。
「大丈夫、安全な場所だ。君は倒れていたんだ」
「……そう、でしたか」
少女はほっとした表情を見せた。
その時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「少女が目覚めたと聞いて!」
ルーナ姫が飛び込んできた。
「私もです!」
リリアも続く。
「ちょ、二人とも、静かに!」
俺が慌てるが、時すでに遅し。
少女はびっくりして、ベッドから転げ落ちそうになった。
「わわわっ!」
「あ、ごめんなさい!」
ルーナ姫が慌てて支える。
「大丈夫ですか!?」
リリアも駆け寄る。
「は、はい……」
少女は困惑している。
(こいつら、勢いが良すぎるんだよ……)
「俺はアル。君の名前は?」
「……リーサです。リーサ・シルフィール」
「リーサか。よろしくな」
俺は笑顔を向けた。
エルフは現代っぽい名前ではないんだな……。
「私はリリア!アルの……その、護衛です!」
リリアが名乗る。
「私はルーナ。アルの……大切な友人よ」
ルーナ姫がリリアを押しのけながら名乗る。
「護衛?」
「友人?」
二人が同時にお互いを見る。
「あの、落ち着いて……」
リーサが困惑している。
「ああ、ごめんごめん。この二人、いつもこんな感じなんだ」
俺は苦笑した。
---
「リーサ、何があったのか教えてくれる?」
主な看病をしていたマリアが優しく聞いた。
「私……エルフの里から、逃げてきたんです」
「逃げてきた?」
「はい……里が、襲われたんです」
リーサの声が震える。
「襲われた!?誰に!?」
「分かりません……でも、黒い影のような存在が、里を襲って……」
リーサは涙を流し始めた。
「みんな……みんな……」
「大丈夫だ、リーサ」
俺はリーサの肩に手を置いた。
その瞬間――。
「アル、女の子に触るのは慎重に!」
リリアが割って入る。
「そ、そうよ!デリカシーがないわ!」
ルーナ姫も同意する。
「え、いや、別に変な意味じゃ……」
「「ダメです/ダメよ!」」
二人の声が揃った。
「……お二人、仲良しなんですね」
リーサがぽつりと言った。
「「仲良くない!」」
二人が同時に否定した。
「どう見ても息ぴったりだな……」
マーカスが笑っている。
---
「ここは安全だ。ゆっくり休んでくれ」
「でも……私を追ってきます……」
「心配するな。俺たちがいればなんとかなるさ」
俺は断言した。
「私が全力で守ります!」
リリアが拳を握る。
「私も守るわ!」
ルーナ姫もずっと負けていない。
「あの……お二人、ありがとうございます」
リーサは感謝をのべたものの、不安はぬぐえないようだ小さな手が少し震えている。
マリアがそれとなく手を添えながら微笑みかけた。
「まだ、回復しきってないからゆっくり寝ておきなさい」
リーサは、小さくはいとつぶやいて眠りについた。
---
「エルフの里が襲われた……」
マーカスが深刻な顔をしている。
「エルフの里は、どの種族よりも魔力や魔法に精通しているから魔法の結界で守られているはずよ。それを突破できるなんて……」
マリアも心配そうだ。
「黒い影……まさか、あの魔化獣を作った連中の可能性がありますね」
ゲルドが呟いた。
「可能性はあるな」
俺も同意する。
「とにかく、今はリーサを守ることが先決だ」
「ああ」
みんなが頷いた。
---
その夜。
俺は見張りの順番で、屋敷の周りを巡回していた。
静かな夜だ。
星空が綺麗だ。
そう思った瞬間――。
ザワッ。
空気が変わった。
「……誰だ」
俺は警戒する。
「ほう……気づくとは」
闇の中から、声が聞こえた。
「エルフの娘はここにいるな?」
黒いローブを着た人物が現れた。
顔は見えない。
「誰だか知らないが、リーサには指一本触れさせない」
俺は身構えた。
「ふふ……面白い。」
黒ローブの人物が魔法を放つ。
黒い魔力から岩石のようなものが俺に向かって飛んでくる!
「チッ!」
俺は慌てて酒瓶を取り出した。
だが、今日持ってきたのは……。
「あ、混成酒だった!」
混成酒——複数の酒を混ぜたもの。効果はランダムで、当たり外れが激しい。
でも、今は選んでる暇がない!
俺は一気に飲み干した。
グワッ!
身体に力が……入らない!?
「え、マジで!?」
【発動スキル:ぐにゃぐにゃボディ】
——身体が柔らかくなるだけの外れスキル。
「これ、完全に外れじゃねーか!」
俺の身体がグニャグニャと柔らかくなった。
まるでゴム人間だ。
「何をしている?」
黒ローブが不思議そうに聞く。
「いや、ちょっと待って……!」
俺は慌てるが、身体が思うように動かない。
岩石のようなも黒い物体が俺に迫ってくる
「うわああああ!」
俺は反射的に身を縮めた。
すると——。
ボヨーン!
身体がゴムだからかあまり岩石にあたっても痛くなくはじき返した。
「……は?」
「なん……だと……?」
黒ローブも困惑している。
「お、おお!これ、意外と使えるじゃん!」
俺は調子に乗った。
「酔拳・ぐにゃぐにゃパンチ!」
俺は拳を繰り出す。
ビヨーンビヨーン!
腕が伸びて、黒ローブに向かう。
だが——。
「……遅い」
黒ローブは簡単に避けた。
「あ、そっか」
そして、俺の腕は伸びすぎて、木に絡まった。
「あれ?戻らない……?」
グルグルグル。
俺の腕が木に巻き付いている。
「何をしているんだ、貴様は……」
黒ローブが呆れた声を出す。
「ちょ、ちょっと待って!今ほどくから!」
俺は必死に腕をほどこうとするが、どんどん絡まっていく。
「……くだらん。まぁいいエルフは預けといてやる様子を見に来ただけだからな」
「え、ちょっと待って!まだ戦って……って、あれ?もう逃げるの!?」
「大体貴様と戦っても時間の無駄だ、面白くもない」
黒ローブは呆れた様子で消えた。
「あ、待てー!」
俺は追いかけようとしたが、腕が木に絡まったまま動けない。
「……くそ、逃げられた」
じゃなくて、
「……くそ、腕が外れない」
これが今の最大の問題だった。
---
「アル!大丈夫!?」
マーカスたちが駆けつけてきた。
「あ、ああ、大丈夫……じゃなくて、大丈夫じゃない!」
「どうした!?怪我は!?」
「怪我じゃなくて……腕が、木に……」
みんなが俺を見る。
俺の両腕は、グニャグニャに伸びて木に巻き付いている。
「「「……え?」」」
全員が固まった。
「ちょ、笑うな!混成酒で外れスキル引いちゃったんだよ!」
「ぷっ……はっははは!」
マーカスが爆笑した。
「笑うな!」
「ご、ごめん……でも、これ……あはは!」
「マーカス!今は笑ってる場合じゃないでしょ!」
リリアが怒るが、その顔も笑いを堪えている。
「ま、まあ、とにかくアルを助けないと……ふふ」
マリアも笑いを堪えながら魔法で腕をほどいてくれた。
ビヨーン。
腕が戻る。
「痛たたた……」
「リーサは!?」
「無事だ。敵は……逃げた」
「逃げた?」
「いや、正確には呆れて帰った」
「でも、これで終わりじゃないな」
「ああ。奴はまた来る。次こそは、ちゃんとした酒を飲んで戦う」
俺は真面目に言ったが、みんなまだ笑いを堪えている。
「……もう笑っていいぞ」
「あははははは!」
全員が爆笑した。
(くそ、次は絶対に混成酒を飲まない……)
俺は心に誓った。
---
翌朝。
リーサが目を覚ました。
「おはよう、リーサ」
俺は笑顔で迎えた。
「おはようございます……あの、昨夜、何かありましたか?」
「ん?何もないよ」
俺は嘘をついた。
リーサを不安にさせたくなかった。
「本当に?アルさん、目にクマできてますけど……それに、腕に変な跡が……」
「え、マジで!?」
俺は慌てて鏡を見る。
確かに、うっすらとクマができている。
そして腕には、木に巻き付いた跡がくっきりと……。
「徹夜で見張りしてたからな……」
マーカスがぼそっと言った。
「腕は……筋トレしすぎた」
「筋トレで木の跡がつくんですか……?」
リーサが不思議そうに聞く。
「つ、つくんだよ!特殊な筋トレだからな!」
背後でリリアとルーナ姫が笑いを堪えている。
「……そう、ですか」
リーサは完全に疑っているようだが、それ以上は聞かなかった。
優しい子だ。
「朝食、食べるか?」
「はい……お願いします」
リーサは小さく笑った。
---
食堂では、みんなが集まっていた。
「リーサ、調子はどう?」
マリアが優しく聞く。
「はい、だいぶ良くなりました。ありがとうございます」
「それは良かった」
「リーサさん、これ食べて」
リリアがスープを差し出した。
「私もパン焼いたわ!」
ルーナ姫もパンを差し出す。
---
食事の後。
「リーサ、これからどうするつもりだ?」
俺は聞いた。
「……分かりません。里に戻ることもできませんし……」
リーサは悲しそうだ。
「じゃあ、ここにいればいい」
「え……?」
「この屋敷、部屋は余ってるからな。リーサが行くところが決まるまで、ここにいればいい」
「で、でも……」
「いいじゃない。私たちも賛成よ」
マリアが微笑む。
「私も賛成です」
リリアも頷く。
「私もよ」
ルーナ姫も同意した。
「ほら、アルの屋敷はみんなのシェルターだからな」
マーカスが笑う。
「シェルター言うな!」
俺がツッコむ。
「でも、事実だろ?ルーナ姫も居着いてるし」
「居着いてるって言い方!」
ルーナ姫が顔を赤くする。
「そ、そうよ!私は……アルと一緒にいたいから……」
「姫様、それ完全に居着いてる理由ですよ」
リリアが冷静にツッコんだ。
「むー!」
「……この屋敷、賑やかなんですね」
リーサがくすっと笑った。
「みんな……」
リーサの目に涙が溜まる。
「ありがとうございます……!」
リーサは深く頭を下げた。
---
「よし、じゃあ決まりだな」
俺は笑った。
「ようこそ、リーサ。これからよろしくな」
「はい!よろしくお願いします!」
リーサは初めて、本当の笑顔を見せた。
「これで屋敷の住人が……何人になったっけ?」
「俺、リリア、ルーナ姫、リーサ……四人か」
「完全にシェアハウスじゃないか!」
俺は頭を抱えた。
---
その後、リーサは屋敷の一室に落ち着いた。
「この部屋、使っていいわよ」
ルーナ姫が案内する。
「ありがとうございます。とても綺麗な部屋ですね」
「何か必要なものがあったら、言ってね」
リリアも優しく言った。
「はい……本当に、ありがとうございます」
---
夕方。
俺は庭でリーサと話していた。
「アルさん、どうして私を助けてくれたんですか?」
リーサが聞いた。
「ん?困ってる人を助けるのは当たり前だろ?」
俺は当然のように答えた。
「でも……私、何の役にも立てません……」
「そんなこと気にするな。それに、リーサは立派に生き延びたじゃないか」
「生き延びた……ですか?」
「ああ。なにがあったかは知らないが、ここまで逃げてきたんだろ?それだけでも十分すごいよ」
俺は本心から言った。
「……ありがとうございます」
リーサは涙ぐんだ。
「それに、これから先、リーサができることはたくさんあるさ」
「本当……ですか?」
「ああ。焦る必要はない。ゆっくり考えればいい」
俺は笑顔を向けた。
リーサも、少し笑った。
---
その夜。
俺たちは再び、警備体制を敷いた。
ゲルドとマリアは現在調べている呪いとの関係性があるのかもしれないと調査をするため王都に戻った。
「今夜も来るかもしれないな」
マーカスが言った。
「ああ。油断はできない」
「ああ」
みんなが頷いた。
---
しかし、その夜は何も起こらなかった。
---
数日後。
リーサは少しずつ屋敷の生活に慣れてきた。
「リーサ、料理の手伝いしてくれる?」
リリアが声をかける。
「はい!喜んで!」
リーサは嬉しそうだ。
「あ、待って!リーサ、掃除も一緒にしましょう」
ルーナ姫も誘う。
「え、でも料理を……」
「掃除の方が大事よ!」
「いえ、料理の方が!」
二人がリーサの両腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと……!」
リーサが困惑している。
「二人とも、リーサを引っ張り合うな!」
俺が慌てて止めに入る。
「じゃあ、午前中は料理、午後は掃除でどうですか?」
リーサが提案した。
「「それでいいわ/いいです!」」
二人が同時に答えた。
「……息ぴったりですね」
リーサがまた笑う。
「「だから違う!」」
---
「リーサ、随分と元気になったな」
俺はマリアに言った。
「ええ。やっぱり、安心できる場所があるって大事なのね」
「それに、リリアとルーナの漫才も効いてるかもな」
「漫才って……でも、確かにそうかもね」
マリアがくすっと笑った。
「あの二人、本人たちは真剣なんだけどな」
「それがまた面白いのよ」
---
ある日の午後。
リーサが俺のところに来た。
「アルさん、少しお時間よろしいですか?」
「ん?どうした?」
「あの……私、やっぱり里のことが気になって……」
リーサは不安そうだ。
「そうか……」
「里に、何が起こったのか知りたいんです。それに、もし生存者がいたら……」
「分かった。じゃあ、みんなで里に行ってみるか」
「え……本当ですか!?」
「ああ。リーサ一人じゃ危ないからな。みんなで行こう」
「ありがとうございます……!」
リーサは感激した。
---
その夜、俺たちは作戦会議を開いた。
「エルフの里に行くのか」
マーカスが言った。
「ああ。リーサの故郷だ。何があったのか確かめたい」
「私も行きます!」
リリアが即答した。
「私も行くわ!と言いたいところだけど王都を離れるわけにはいかないわ。残念だけどリーサの事任せたわ」
いつもなら率先していきそうなルーナが国の事を考えて動いている。さすがは姫様ってところか。
「私は同行するわ、ゲルド呪いの調査は引き続き進めておいてね」
ゲルドはなにかいいたげな表情をしていたが、静かにうなずいた。
「俺も王都を離れるわけにはいかない。ついていってやれずすまないが武運を祈る。まぁアルなら大丈夫だろう」
マーカスが笑った。
「じゃあ、決まりだな俺とリリアとマリアそしてリーサの4人でエルフの里を見に行く。もちろん危険と感じたらすぐ撤退だ」
---
「あ、それと……」
俺は真面目な顔で言った。
「今度こそ、混成酒は持っていかない」
「当たり前です!」
リリアが即答した。
「昨日みたいに木に絡まられたら、誰が助けるんですか!」
「あれは事故だったんだって……」
マリアがくすっと笑う。
「でも、敵が呆れて逃げるなんて、ある意味すごいわよ」
「褒めてないでしょ、それ!」
こうして、俺たちはエルフの里へ向かう準備を始めた。
リーサの故郷で、一体何が待っているのか——
---
次回予告:「エルフの里へ」
リーサの故郷、エルフの里。
そこで俺たちが目にするものとは——
黒い影の正体が、ついに明らかに!?
そして、アルは今度こそ混成酒を飲まない……はず。
※毎日更新予定です。お楽しみに!




