14杯目 王都への道
ダークエッジを出発してから、もう三日が経っていた。
「予定より遅れてるな」
マーカスが地図を見ながら呟く。
「まあ、色々あったからね」
俺は馬車の窓から外を眺めた。
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一日目。
最初の街で、俺たちは盗賊団に襲われた。
「金を出せ!」
「やれやれ」
マーカスが剣を抜こうとした瞬間、俺は酒を一口飲んだ。
「うおおお!」
体が光り、盗賊たちに突進する。
「うわあああ!」
盗賊たちは一瞬で吹っ飛んだ。
「アルさん、強い!」
リリアが目を輝かせる。
「でも…」
次の瞬間、俺は地面に倒れ込んだ。
「寝るの早っ!」
マリアが呆れている。
結局、盗賊たちは逃げ去り、俺は30分後に目を覚ました。
「活躍したのか、してないのか…」
マーカスが苦笑いしていた。
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二日目。
ある村で、巨大な魔物が暴れていた。
「助けてくれ!」
「任せて!」
俺は蒸留酒を飲み、魔物に立ち向かう。
「おらあああ!」
拳が魔物に直撃——したと思ったら、魔物は何ともなかった。
「硬っ!」
そして、俺は気絶した。
結局、マーカスとマリアが魔物を倒した。
「アル殿、今回は完全に足手まといでしたね」
「起きてから言ってくださいよ…」
俺が目覚めた時、マーカスがニヤニヤしていた。
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三日目の昼。
「ちょっと汗流してくるわ」
川辺で一人、俺は服を脱いで水浴びを始めた。
「ふー、気持ちいい」
水は冷たくて心地よかった。
その時——
ザバァァァン!
突然、巨大な魚が川から飛び出してきた。
「うわぁぁぁ!?」
俺は驚いて腰を抜かした。というか、全裸のまま水の中で固まった。
デカい。いや、デカすぎる。体長は優に三メートルはある。
「やべえ、食われる!?」
巨大魚が口を大きく開けて近づいてくる。
咄嗟に、俺は腰につけていたカクテルの入った瓶を掴んだ。
「くそ、こうなったら——!」
ゴクゴクゴク。
一気に飲み干す。
すると——
「ギョギョギョ!」
「え…?今、何か聞こえた?」
「ギョギョギョ!ここはワシの縄張りじゃ!」
巨大魚の声が、はっきりと聞こえる。
「お、おお…?しゃべってる?いや、俺が理解できてる?」
「ワシの川で勝手に水浴びするとは何事じゃ!」
「いや、そのー、ごめん。悪気はなかったんだ」
全裸で魚と交渉する俺。シュールすぎる。
「ふむ…まあ、正直に謝るなら許してやろう」
「ありがとう、魚の旦那」
その時——
「アルさん!今、大きな音が——」
バサバサバサ!
リリアが茂みをかき分けて駆けつけてきた。
そして——
「きゃああああああ!?」
リリアの顔が真っ赤になった。
当然だ。俺は全裸だ。
「ちょ、ちょっと待って!これは!」
「すみません!見てません!何も見てません!」
リリアは両手で顔を覆いながらも、指の間から思わずチラチラと——
「ギョギョギョ。若い娘さんじゃのう」
巨大魚が笑っている。
「笑うな!」
「見てません見てません!」
リリアが真っ赤な顔のまま走って逃げていった。
俺と巨大魚は、しばらく顔を見合わせた。
「…なんか、すまん」
「ギョギョギョ。若いのう」
巨大魚はそう言うと、ゆっくりと川に戻っていった。
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「アル殿、何があったんですか?」
馬車に戻ると、マーカスが尋ねてきた。
「いや、ちょっと川の主と話をね…」
「川の主?」
「そう。巨大な魚」
「魚と会話を…?」
「カクテル飲んだら、なぜか話せるようになった」
「…アル殿の能力は、本当に予測不可能ですね」
リリアは俺の顔を見ると、真っ赤になって視線をそらした。
「リリア、さっきはごめんな」
「い、いえ!私こそ!勝手に見てしまって!」
「見てないって言ってたじゃん」
「あ…」
リリアの顔がさらに赤くなった。
マリアがクスクスと笑っている。
「リリア、顔真っ赤よ?」
「マリア様!」
「ふふ、可愛いわね」
俺は頭を掻いた。
「まあ、魚とは仲良くなれたからいいや」
「そこですか!?」
リリアとマリアの声が重なった。
こうして、三日目も無事に(?)終わった。
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そして、今。
俺たちは王都に近い森の中を進んでいた。
「もうすぐ王都ですね」
リリアが言った。
「ああ、あと半日もあれば着く」
マーカスが答える。
その時——
「すみません!ちょっと待ってください!」
若い男の声が聞こえた。
「止まれ」
マーカスが御者に指示を出す。
馬車が止まり、俺たちは外を見た。
一人の若い青年が、息を切らしながら走ってくる。
20代前半くらいだろうか。商人風の服装をしている。
「どうした?」
マーカスが警戒しながら尋ねる。
「あの、私は商人のスーと申します!」
青年——スーが深々と頭を下げた。
「商人?こんな森の中で何をしている?」
「実は…魔物に襲われてしまいまして…」
スーは困ったような表情を浮かべた。
「通行証も、お金も、全部奪われてしまったんです」
「それは気の毒だが、我々も急いでいる」
マーカスが冷たく言った。
「怪しい」
マリアも警戒している。
「でも…」
スーは懐から小さな瓶を取り出した。
「せめて、この酒だけは守り抜きました!絶対に飲もうと思っていた、幻の蒸留酒なんです」
その瞬間、俺の耳がピクリと動いた。
「幻の蒸留酒?」
「はい!北の国でしか作られていない、貴重な——」
「乗せてあげよう」
俺は即答した。
「アル殿!」
マーカスが驚く。
「だって、困ってるんでしょ?それに、その酒、ちょっと気になるし」
「結局そっちですか!」
リリアが呆れている。
「ありがとうございます!兄貴!」
スーが涙を流して喜んだ。
「兄貴?」
「恩人ですから!」
スーは馬車に乗り込んできた。
「それで、その酒なんだけど——」
「アル殿、今は我慢してください」
マーカスが俺を制した。
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馬車の中で、スーは自分の話をした。
「実は、王都に重要な商談があって向かっていたんです」
「商談?」
「はい。でも、通行証がないと王都に入れなくて…」
スーは本当に困っている様子だった。
「なるほど」
俺は同情した。
「じゃあ、俺たちと一緒に入ればいい。マーカスは騎士団長だし、通してもらえるでしょ」
「本当ですか!?」
スーの顔が明るくなった。
「まあ、王都に着いたら別れることになるけどね」
「それで十分です!本当にありがとうございます!」
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夕方、俺たちは王都の門に到着した。
巨大な城壁に囲まれた、立派な都市だ。
「すごい…」
リリアが感嘆の声を上げる。
「これが人族の王都か」
マリアも興味深そうに見ている。
「マーカス・オダ騎士団長!お帰りなさいませ!」
門番の兵士たちが敬礼する。
「ああ。それと、こちらの方々は魔王からの使者だ」
「は、はい!どうぞお通りください!」
兵士たちは緊張した面持ちで道を開けた。
「それでは、兄貴!本当にありがとうございました!」
スーが馬車から降りていく。
「おう、気をつけてな」
「必ず恩返しします!」
スーは手を振りながら、人混みの中に消えていった。
「さて…」
マーカスが空を見上げた。
「もう日が暮れかけている。今から城に行っても、謁見は明日になるだろう」
「じゃあ、今夜は宿に泊まるの?」
「そうだな。私は城に戻って、明日の準備をする。皆さんは宿でゆっくり休んでください」
「分かりました」
リリアが頷いた。
「あ、リリアと私は角を隠しておいた方がいいわね」
マリアが魔法で自分とリリアの角を透明にした。
「これで大丈夫です」
「念のためですね。騒ぎになると面倒ですから」
マーカスが宿屋を手配してくれた。
「それでは、明日の朝、迎えに来ます」
「了解。おやすみ」
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宿に荷物を置いた後、俺は一人で外に出た。
「さて、いい飲み屋を探すか」
王都の夜は賑やかだ。
酒場、レストラン、商店…色々な店が軒を連ねている。
でも、よく見ると——
「すみません、何か恵んでいただけませんか…」
路地の隅に、ぼろぼろの服を着た老人が座っていた。
物乞いだ。
そして、少し先にも、子供を抱えた女性が同じように座り込んでいる。
「思ったより、国の情勢悪いのかな」
華やかな王都の裏側に、貧困が広がっているようだ。
魔王城とは違う、人族の抱える問題が見えた気がした。
「おっ、あそこ良さそう」
考え込んでいると、『赤い竜亭』という看板を掲げた酒場を見つけた。
扉を開けると、活気ある雰囲気が広がっていた。
「いらっしゃい!」
恰幅のいい店主が笑顔で迎えてくれる。
「一人か?カウンターでいいかい?」
「ああ、お願い」
俺はカウンター席に座った。
「何にする?」
「おすすめは?」
「今日は王都産のエールがいいよ」
「じゃあ、それで」
店主が注いでくれたエールは、フルーティーで飲みやすかった。
「うまい!」
「だろう?」
店主と楽しく会話しながら飲んでいると——
「ふざけないで!」
若い女性の声が響いた。
振り向くと、赤い髪にそばかすのある女の子が、中年の男と口論していた。
「王様の悪口を言うなんて、許せない!」
「悪口じゃねえよ、事実だろ!」
中年の男が酔っ払った様子で言い返す。
「あの姫なんて、顔だけじゃねえか!」
「それ以上言ったら、本気で怒るわよ!」
赤髪の女の子が睨みつける。強気な目だ。
「おいおい、喧嘩はやめてくれよ」
店主が困った顔で仲裁に入る。
「はぁ…」
俺は立ち上がった。
「ちょっと、お二人さん」
「あ?」
中年男が俺を見る。
「喧嘩するくらいなら、一緒に飲もうぜ」
「はぁ?お前誰だよ」
「ただの酒好き。ほら、こういう時は——」
俺は外を見た。
さっきの物乞いの老人が、店の外を通り過ぎていく。
「おじいさん!」
俺は店の外に飛び出した。
「え?」
老人が驚いて振り返る。
「一緒に飲まない?おごるからさ」
「え…でも、私なんかが…」
「いいからいいから。一人で飲むより楽しいでしょ」
俺は老人の手を引いて店に戻った。
「店主、席増やして!」
「おい、待て!俺はそんな——」
中年男が文句を言いかけたが、俺は構わず老人を座らせた。
「さあ、みんなで飲もう!」
「あの、私なんかが店の中に入っても…」
老人が恐縮している。
「大丈夫大丈夫。酒は誰と飲んでも美味いもんだ」
俺は老人にエールを注文した。
「お、おう…」
中年男が戸惑っている。
「ほら、あんたも座りなよ。さっきは姫のこと悪く言って悪かったって謝れば?」
「え…あ、ああ…」
中年男は気まずそうに頭を下げた。
「すまねえ…俺も酔ってて…」
「いいって。みんなで飲んだ方が楽しいし」
俺は笑った。
店主も苦笑いしながら、席を用意してくれる。
「おう、まあ賑やかなのは嫌いじゃないよ」
カウンターには、俺、老人、中年男、そして——
「……」
赤髪の女の子が、じっと俺を見ていた。
「あんたも一緒にどう?せっかくだし」
「別に…」
女の子はそっぽを向いた。
ツンとした態度だ。
「まあまあ、そう言わずに」
俺は女の子の隣に座った。
「何なのよ、あなた」
女の子が睨んでくる。
「アル。ただの旅人」
「旅人?」
「そ。で、あんたは?」
「……エマ」
赤髪の女の子——エマがぶっきらぼうに答えた。
「エマか。いい名前だね」
「別に…普通よ」
エマは顔をそらす。
でも、耳が少し赤くなっている。
(この人…さっき喧嘩してた男の人とも、物乞いのおじいさんとも、分け隔てなく接してる…)
エマは横目で俺を観察していた。
(変な人…でも…)
「姫様のこと、好きなの?」
俺が尋ねると、エマはピクリと反応した。
「……ええ、尊敬してる」
「へえ。どんな人なの?」
「美しくて、強くて、自信に満ち溢れた方よ」
エマは少し誇らしげに言った。
「姫様ご自身も、自分の美しさに絶対の自信を持ってらっしゃるの」
「自信家なんだ」
「そうよ!でも、それは本当に美しいからよ!」
エマは熱くなって続けた。
「顔だけじゃないわ!心も、行動も、全てが!」
「へえ…」
俺はエマをじっと見た。
「あんた、姫様と知り合いなの?」
「え?」
エマがピクリと反応した。
「だって、そこまで詳しく言えるってことは、実際に会ったことあるんじゃない?」
「そ、それは…」
エマは少し慌てた様子を見せた。
「城で働いてる人とか?」
「べ、別に!ただ噂で聞いただけよ!」
エマは顔を赤くして否定する。
「へえ、噂だけでそこまで熱く語れるんだ」
俺は疑わしげな目で見た。
「う…だって、姫様は有名だから…色々と…」
エマはしどろもどろになっている。
可愛いな、と思いつつ、俺は追及するのをやめた。
「まあ、いいけど」
俺はエールを飲んだ。
「それより、さっきはちょっと熱くなりすぎたんじゃない?」
「……そうかもしれないけど」
エマは少し落ち着いた。
「でも、誤解されてるのが許せないの」
「気持ちは分かるけど、いちいち怒ってたら疲れるぞ?」
「う…それは…」
エマは言葉に詰まった。
「まあ、姫様も、あんたみたいに自分のことを想ってくれる人がいて幸せだね」
「え…」
エマの顔がなぜか少し暗なったような気がしたが、気のせいだろう
俺は笑った。
その時、中年男と老人が楽しそうに話しているのが見えた。
「ほら、仲良くなってるじゃん」
「……そうね」
エマも少し笑顔になった。
「あなた…変わってるわね」
「よく言われる」
「でも…悪い人じゃなさそう」
エマはそう言って、少しだけ微笑んだ。
(面白い人…こんな人、初めて会ったかも)
エマ——いや、ルーナ姫の心に、小さな波紋が広がった。
でも、俺は気づかなかった。
このエマが、実は——
---
その頃、王都の城では。
「姫様、またお忍びですか?」
初老の執事——セバスチャンが困った顔をしている。
彼はルーナ姫が幼い頃から仕えている、最も信頼されている付き人だ。
「大丈夫よ。すぐ戻るから」
「しかし、姫様…万が一のことがあれば…」
「心配性ね、セバスチャン。もう何度も外出してるのに」
ルーナ姫は微笑んだ。
「それに、民の声を直接聞くのも大切でしょう?」
「それは…そうですが…」
セバスチャンは心配そうに眉をひそめた。
空になったベッドに、人形が置かれていた。
そして、城の外では——
「ふふ、楽しかった」
そばかすをつけた赤髪の少女——ルーナ姫が、夜空を見上げて微笑んでいた。
「あの人、私がかわいいって気づかなかったわね」
ルーナは鏡を取り出して、自分の顔を確認する。
そばかすを消すと、そこには息を呑むような美少女がいた。
艶やかな赤髪が月光に照らされて輝いている。
「まあ、そばかすがあっても私はかわいいけど」
自信たっぷりに微笑むルーナ。
「変わった人だったわ。面白い…」
ルーナは少し頬を染めた。
でもすぐに首を振る。
「べ、別に!ただ興味があっただけよ!」
誰もいないのに、ツンデレな反応をするルーナ。
「明日、城で会ったらどんな顔するかしら。楽しみね」
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次回予告:「王城の調停者」
※毎日更新予定です。お楽しみに!
最後までお読みいただきありがとうございます!
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まだまだアルの酔いどれ旅は始まったばかりですが、お酒でも飲みながらゆっくり楽しんでいただけたらうれしいです。
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