1/2
プロローグ
雪は、音を消す。風に削られた斜面も、折れた枝も、古い足跡も、夜のうちに白く覆ってしまう。三枝孝志が最後に山へ入った日も雪だった。正確には、降り始めたのは午後からだった。午前中、空はまだ高く、雲の切れ間には青さえ残っていた。だから誰も、それが事故につながるとは思っていなかった。孝志自身もそうだったのかもしれない。彼はその日の朝、報告書を作成していた。斜面の角度。土壌の状態。伐採区域。
「当該斜面は湧水が認められ、降雨時には表層土の不安定化が懸念される。造成工事に先立ち追加の地質調査、及び、排水計画の再検討を推奨する」
孝志三枝は遺体で見つかった。事故として処理され、裁判では会社側の責任は認められなかった。やがて新聞記事も消え、人々の記憶からも薄れていった。山だけが残った。何も言わず、何も忘れずに……。
そして二年後、その事故とは何の関係もないはずの山に七人が集まった。




