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悪役令嬢の微笑 ~悪役令嬢はもう良いのに、悪役令嬢が追い掛けてきます~  作者: 冬星明


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9/10

第四話 悪役令嬢、鮮血の雪原でナイトティーを楽しむ(2)

挿絵(By みてみん)

AIイラスト

 私がお茶を楽しんでいる間もポン太はグチグチと嫌味をずっと言い続けていた。ポン太はカルシウムが足りないのだろうか。


“俺様は上位精霊だからカルシウムなんて必要ない”

<物の例えよ。私だってこの辺りを浄化して、優雅なテラスでも作ってからしようと考えていたわ>

“そうすればよかったじゃないか”

<魔法陣を書いているあたりから頭痛がしたの>

“状態異常無効のご主人様に頭痛なんて・・・・・・魔法回復薬の過剰摂取か”

<たぶん、そう。悪役令嬢は伯爵領に魔物の大軍が襲ってきたときに、“スターライト・メテオシャワー・ディストラクション”〔破壊の流星雨〕って凄い大魔法を連発して、魔力が枯渇すると魔法薬で全回復させて、何度も繰り返していたから大丈夫って思った>

“伯爵領へ魔物の大軍は魔王登場の直後、ド終盤じゃないか。十七歳の悪役令嬢と七歳のご主人様とではサイズが違う。基本スペックも足りていないだろう”

<反省している>

“魔法を酷使すれば頭痛が酷くなり、いずれは魔法が使えず、体力が尽きてバッドエンドだ。割とヤバい状況だったんじゃないか”

<戦闘中に頭痛があったら、すぐに終わらせた。最悪はないよ。今の時点の限界がわかってよかったと思う>

“失敗を気にしないというか、ポジティブだな”

<前世の私はポジティブじゃなかったけど、悪役令嬢に出会って変わった。悪役令嬢も最悪の環境でも諦めなかった。私も負けられないよ>

“まぁ、やれるんじゃない。中身は同じだし”

<だから、今日はこれでおしまい。残りは明日からだね>

“残り?”

<ここを桃源郷(とうげんきょう)にしようと思うの>

“桃源郷?”

<読んで字のごとく、桃の果実園よ。魔力溜まりがダンジョンになるなら成長も早いって思わない>

“この一帯が邪気に染まったらの話だがな。魔力溜まりはダンジョンじゃない。でも、成長が早くなる可能性はあるな”

<でしょう。他にも甜菜や北の香辛料の種も試す>

“何の為に”

<たくさんの種類の種を買ったけど、畑に蒔くほどの量はないのよ>

“ここで種の数を増やすのか”

<うん、明日から忙しいわよ。頭痛も治まったから帰るぞ>


 私はティーセットを片付けた。

 戦闘後に一度生活魔法“クリーン”〔清浄〕を掛けて汚れと臭いを消したが、もう一度掛け直す。それから転移魔法で部屋へ戻り、メニューの装備欄から装備五『寝着』を押した。

 戦闘中でも装備を一瞬で換装できる便利機能だ。

 装備欄に寝着を登録するのはもったいないが、疲れて帰ってきたときに、着替えもできず寝落ちして、最高級の装備品を見られる危険は考慮した。

 朝にはまだ早いので私はベッドに寝転んだ。


 翌朝、姉のけたたましい怒鳴り声で目を覚ます。日も明けない内に起き出し、着替えを終えた姉がまだ寝ている私を起こそうと怒鳴るのだ。


「イルター、いつまで寝ているの」

「おはよう、ねぇねぇ」

「おはようじゃない。もうロルヤーも着替え終わったわ。早くしなさい」

「は~い」


 私は寝着を脱いで枕元に置いた衣装に着替えるのだが、姉が急に顔を近づけてきた。私の髪に触れ、さらに顔を近づけて鼻をクンクンとする。


「何で?」

「何?」

「ロルヤー、イルターを嗅いでみなさい」


 弟のロルヤーが姉と私に近づいて嗅いだ。


「レルーイ姉上はいい香りがします。イルター姉上は爽やかな香りがします」

「私がいい香り?」

「はい、僕はレルーイ姉上とイルター姉上の匂いが大好きです」

「正直に汗臭いっていいなさい」

「いい匂いです。イルター姉上はいつものいい匂いがしませんが、爽やかです」

「髪はさらさらだし、匂いもしない。ちょっとこっち来なさい」


 姉が私を連れて部屋を出ると、暖炉のある応接間を抜け、ロンデル窓の近くまで連れていった。そして、姉がやっぱりと声を上げて私の髪を撫でた。


「昨日も少し思ったけど、どうしてイルターの髪に艶があるの」

「お母さんも私の髪は艶があっていいねって言ってくれているよ」

「それは沐浴をした後の話でしょう。油を塗っていないのに、どうしてこんなに艶があるのよ。おかしいわ」


 し、しまった。

 冬場は川で沐浴ができず、濡れた布で髪を拭く。髪に付いた埃を完全に落とせず、油を塗って髪の艶を保つ。高い油を普段使いできる訳もなく、冬の髪はどうしてもボサボサになってしまう。

 でも、私の生活魔法“クリーン”はそんな汚れを落としてくれる。

 油を塗ったようなピカピカにならないが、本来の髪の艶が蘇る・・・・・・じっと私を見る姉、これは隠せない。


「お父さんとお母さんに内緒ね」

「何か知らないけど言いなさい」

『この世界に清浄を』


 私がそう唱えると、姉と弟の体がわずかに光って、体や服に付いた汚れが消えていく。別に無詠唱でも問題なかったが、なんとなく詠唱があった方がいい感じがしたので唱えてみた。

 姉と弟は綺麗になった服を確かめ、姉は髪をさわって匂いを嗅ぐ。


「イルター、これ何?」

「トラウトの傷を治した魔法があったでしょう。その応用みたいなもので体の汚れが落ちるの」

「凄い。凄い。冬場の汗くささから解放される」

「僕はレルーイ姉上とイルター姉上の臭いが大好きですから気になりません」

「駄目よ。綺麗にしましょう」

「ねぇねぇ。お風呂があれば、魔法が使えなくとも綺麗になるよ」

「お風呂?」

「冬の川は冷たいでしょう。だから、体が入るくらいの大きな桶にお湯を入れて入るの。そうすれば、魔法がなくても好きなときに綺麗になれるよ」

「いいわね。作りましょう、お風呂」

「だから、お父さんとお母さんには内緒ね」

「う~ん、どうかな。お父さんには内緒にできるけど、イルターと私の髪を見れば、聞いてくると思うよ」


 あぁ、そうか。

 騎士団との遠征中に誰も気付かなかったから大丈夫と思っていたけど、母の目は騙せない。姉と一緒に台所に向かい、こちらから正直に言って母に清浄の魔法を掛けた。髪が綺麗になった母は上機嫌になった。

 食事が終わるとクィリッィエに呼び出され、父とクィリッィエが前を歩き、私の後ろに姉と弟が付いてくる。


「ねぇねぇ、私は仕事の手伝いだよ」

「うん、知っている。でも、面白そうなことをするのでしょう」

「僕もイルター姉上の凄いところを見たいです」

「面白くないよ」

「面白くなくても怒らないから」

「はい」


 クィリッィエに連れられて大きくない畑にやってきた。兵士と村人も集まっており、小麦の袋と小枝をたくさん用意していた。クィリッィエが私の前に跪いた。


「イルターお嬢様、昨日のように雪かきと土おこしを畑一面に施せますか」

「それくらいは問題ない」

「では、お願いします」

「別にいいけど、また雪が降ったらどうするの?」

「大丈夫です。ちゃんと考えております」


 クィリッィエが大丈夫というので昨日と同じ、“ファイアー・ウォール”〔火の壁〕で雪を溶かし、 “サンド・ウォール”〔土の壁〕で土をほぐした。父、兵、村人が大きな歓声を上げた。我が領の畑は小さく、領民が一年食べる分も育たない。同じ作業を三回繰り返すだけで終わってしまう。


「よし、麦の種を均等に植えてゆけ。そして、種の上に枝を三角の櫓に組んで、種の上に雪が覆い尽くさないようにしろ」


 おぉ、そういう手があったか。

 種蒔きが二ヵ月も早くなったと父は大喜び、父が私を褒めると、弟のロルヤーが目を輝かせて私を見上げた。私は腰に手を当て姉に自慢した。


「ねぇねぇ、凄いでしょう」

「はいはい、凄い、凄い」

「全然、心がこもってない。凄いって思っていない」

「凄いっていうより呆れた。魔法って便利なのね。私もできないかしら」

「教えてもいいけど、できるかはわかんないよ」

「えっ、教えてくれるの」

「イルター姉上、僕も教えて下さい」

「いいよ。ねぇねぇは適当に教えるけど、ロルヤーは一生懸命に教える」

「ありがとうございます」


 可愛い弟をぎゅっと抱きしめた。

 悪役令嬢の弟は同じ年だったから子分って感じだったけど、可愛い弟はずっと抱きしめていたい。

 姉は気軽に話せる友達っぽいところがいいな。

 でも、今日から麦の種を蒔くなんて聞いていないよ。

 知っていたら、女神様が作ったチートな小麦の種を交換しておいたのに・・・・・・仕方ない。適当なところに植えて、こっちの方がたくさんの実を付けているから来年はこっちの種を蒔こうとか言って変更させよう。


「イルターお嬢様、男衆の指図はおおよそ終わりました」

「ロクデナシ草に取りかかりましょう」

「いいよ。女の人を集めて」

「承知しました」


 今日は葛粉の作り方を教えよう。

 明日から村人の家造り、それから姉と約束したお風呂を造り、水道、下水と基礎基盤を整えて、それが終わったら本格的に大規模な農園を作る。

 よ~し、頑張って村を発展させるぞ。

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