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悪役令嬢の微笑 ~悪役令嬢はもう良いのに、悪役令嬢が追い掛けてきます~  作者: 冬星明


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閑話〔第六話〕 悪役令嬢、特級神官の話を聞く

挿絵(By みてみん)

 貴族も神官も自分のテリトリーで勝手なことをする者を許さない。

 レプス領主の父を村人が恐れるのは、貴族が身勝手な者を許さないと知っているからだ。

 領主の娘のわがままな振る舞いも嫌な顔をせずに従ったのも父が恐ろしいからだ。

 貴族や神官への根回しは悪役令嬢の世界と同じと思えた。

 私は教会の大聖堂にある通用口のドアノッカーを鳴らした。

すると、下級神官が顔を出して要件を聞く。

 一度、通用口が閉まり、しばらくすると、大きな扉が開いた。

 下級神官が「どうぞ、お入り下さい」と手を差し出す。

 私は大聖堂の中へ入った。まず、床に大理石が敷かれた輝く大ホールがあり、その奥に聖堂があった。聖堂の扉が開かれており、そこから薄い緑の神官服を着た方が出てきた。

 小麦色の神官服は下級神官、真っ黒が中級、薄い青が上級となり、薄い緑は特級である。

 私は慌てて頭を下げて挨拶の名乗りを上げた。


「はじめまして、Ⅴ級冒険者のマリアと申します。お願いに参りました」

「難民らに炊き出しをしたいと聞き及んでいる。私は特級神官のカリユ・ワガマイだ」

「この出会いに感謝を。どうかお受け取り下さい」


 私は腰のポーチから金貨十枚が入った小袋を差し出した。

 下級神官が受け取り、カリユ特級神官に届けると、中身を軽く確認すると下級神官に預ける。


「マリア殿は優秀な冒険者のようだ」

「まだまだ駆け出しでございます」

「これからも良き友であることを願う。炊き出しの件は了解した。石畳がある教会の聖域も外での炊き出しを許可する」

「ありがとうございます」

「それともう一つ。マリア殿に頼みたい。其方の言葉として、彼らに怪我が治り次第、冒険者ギルドに行き、冒険者登録を終えよと伝えて欲しい」

「冒険者になれと」

「うむ。他領の者であっても現地の領主が受け入れた場合、何人(なんぴと)でも冒険者に登録できる。冒険者になれば、借地や借家を借りて住むことができる。難民のままでは仕事も家も手に入らない。早急に改善させたい」

「カリユ様が直接言われた方がよろしいのでは」

「この王国は教会を快く思っておらん。あまり出しゃばるのはよくない」

「王国と教会は仲が悪かったのですか」

「悪くはない。だが、国王は教皇を認めていない。認めているのは神々の教えのみ」


 仲が悪い訳ではないが、教皇を認めていない?

 そんな話は初めてだ。

 私は心の中で首を傾げると、カリユは察したように話しはじめた。


「これは洗礼を受けたのちに神官になった者に教える事実だ。神々が住む聖域に入ることが許されるのは聖人と聖女のみ。その聖人と聖女を支えるのが教皇と王であり、教皇は法を治め、王は民を治めた。その昔、教皇と王が争い、どちらが聖人と聖女を支えるかで争った。その結論は教皇が聖人や聖女を支えると決まった。然れど、それに反発した王族が国の外で新たな国を興した。このラトリア王家もその末裔であり、我らは王の過ちを正し、教皇を認める国にしなければならないと」

「変革するのですか?」

「そんな事は致しません。王都の司教様も考えておらぬでしょう。ですが、聖国の教皇がすべて神官に通達しているので伝えぬという訳にはいかないのです」

「教皇様の意思に逆らってよろしいのですか」

「教会は王家や貴族の献金で成り立っております。王国と争っては本分が果たせません」

「教会の本分ですか?」

「神々は魔物の討伐を神官に命じました。それが法を守るという意味です」

「あっ、法とは秩序のことでしたか」

「その通り。王は民を統治しますが、神官は魔物の討伐が本分なのです。その為に冒険者ギルドと舞踏館と修道院を設立しました。冒険者ギルドは神官を補佐する者を育てる為に、舞踏館は神々に仕える聖人や聖女を見つける為に、修道院は素質ある子を学ばせる為に」

「冒険者ギルドは教会が設立したのですか」

「その通りです。他のギルドは町や村の単位で作られますが、冒険者ギルドのみは教会の傘下にあり、冒険者は魔物を討伐する先兵として、神々に仕える者なのです。ですから、平民であろうと、農奴であろうと関係なく、登録された時点で領主の範囲を外れ、神々に仕える者として独立できるのです」

「それが冒険者ギルドに登録しろと言われた理由ですか」

「この王国も聖国が建国したときに定めた国法を元に王国法を定めています。王国法を守らない貴族も多いですが、王国法に冒険者の身分を保障すると書かれております。冒険者の行為は自己責任ですが、教会の権益を犯す貴族に対して容赦致しません」


 カリユ特級神官が言わんとすることがわかってきた。

 難民はどこかから流れてきた他領の民だ。

 だが、他領の貴族が軍隊を出して取り戻すのは、難民の住む領主が許さない。逆に貴族の権利を翳して冒険者になった者を引き渡せと言ってくれば、冒険者は教会の先兵であり、それを勝手に奪うことになる。教会の領分を犯されるのを容認する訳がない。

 他領の貴族は身分を持たない者を使って力尽くで、冒険者となった元領民を取り戻すしかないが、獣人は腕っ節が強い。


「舞踏館は身寄りない子供を預かる施設であり、下々に隠れた聖人や聖女を探す施設なのです。踊りの才を持つ者が巫子や巫女になれます」

「聞いたことがありません」

「そうでしょう。教皇を認める国では、どんな小さな村にも教会が設置され、冒険者ギルド、舞踏館、修道院の役割を果たしますが、この王国ではそれを認めていません。舞踏館は貴族や裕福な者から教会の献金を集める施設となっています。修道院も同様であり、没落した貴族と裕福な者の子供の救済場とされています」

「本来の目的と違う使い方をされているのですね」

「残念ながらそうなります。ですが、どんな小さな村にも教会を作ることを許すと、下々まで教徒が増えて、司教の権力が強まります。それを嫌っているのです」

「難しいのですね」

「我々にはどうしようもありません」


 カリユ特級神官は肩を揺すった。

 私にはカリユ特級神官が王国や教会の思惑など知るかと突き放しているように聞こえた。


「カリユ様は難民を親身に気遣っているように見えますが、何か理由があるのでしょうか」

「強いて言うならば、私も平民の出です。魔力を多く持っていましたので、実務の神官として冒険者パーティーに貸し出され、冒険者と共に長く暮らしてきました」

「冒険者の神官様は貸し出しでしたか」

「神官が魔物討伐の依頼を出す場合もありますが、普通は貸し出しが多いですね。教会の貴重な資源となっています。私も先日までマサクレ城塞町の教会長をやっていましたので、魔族の侵攻時は回復役として同行しておりました。特級神官に昇進しましたが、何かあれば、私は派遣されるでしょう。司祭様や助祭様では、私ほどの魔力量を保有しておりませんから」


 私は察した。

 よくある事であり、この世界の教会にも権力派と実務派がおり、権力派は王族や大貴族との外交を担当し、実務派は内政を担当する。そして、この世界の実務派は魔物討伐が仕事らしい。

 すると、王国も魔物駆除が問題なので回復役を多く抱える神官の協力は欠かせない。

 王国と教会の仲が悪くないというのも頷けた。


「マリア殿には、すべてを知って頂きたいと思う・・・・・・何某かの雰囲気をお持ちです」

「私は平民でございます」

「平民で結構です。ですが、マリア殿は何某かをなされる気が致します」

「そんなことはございません」


 私はそう言い切ると大聖堂を後にした。

 

<ポン太、カリユさんに鑑定眼とか持ってなかったよね?>

“なかったな”

<どうして私が何かをするなんて思ったのかな>

“そりゃ、ご主人様がポンコツだからだろう”

<どこがポンコツなのよ>

“どこの平民が綺麗な服を着て、貴族令嬢の挨拶をさらりとこなすんだよ”


 あっ、私は思わず失敗を知った。

 教会に賄賂を渡す手順をクィリッィエから聞いていた。

 出会って咄嗟に貴族令嬢の作法で挨拶をしていたことを思い出した。


<ポン太、先に教えてよ>

“知るかよ”

<アドバイザーでしょう>

“挨拶を終えた後に教えてどうなるんだ。それこそ、無意味だろう”

<それはそうだけど・・・・・・>


 ポン太も私が挨拶をした瞬間に気付いた。

 が、後の祭りだ。

 挨拶を終えた後に教えても意味がないので黙っていた。

 あ~~~、失敗した。

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