第535話 旧市街地
カミールの案内で人だかりの出来ていた正門を避け、城壁沿いをある程度進んだ位置で浮遊させていた氷の足場を留める。
「この辺りはどうだ?」
「大丈夫だと思います! 位置的にこの裏は旧市街地のはずなので、人通りも少なくて見つかる可能性が低いはずです」
「旧市街市??」
「ボルデは城塞の増設に合わせて発展してきた都市なので年代ごとに栄えた地区が違うんです。城壁の向こうにあるのは、城塞がまだ建設途中だった頃に居住区として利用されていた場所なんです」
ボルデでの滞在が思いの外延びた事もあり、カミールも色々と調べていたようだ。月明かりだけを頼りに手元の手帳に記された都市の地図を見ながら解説を続ける。
「元々城塞と城壁が建った後の区画整理や設備の増設の邪魔にならない場所として選定されたので、半ば放置されていると言うか……」
「都市設計に組み込まれていない区域があるのはあまり良くないんじゃないか? そのまま再開発されずに放置されたら良くて貧民窟になるか、最悪の場合犯罪の温床になりかねないと思うが……」
「ボルデに滞在中、都市の隅々まで同僚達が偵察で回ってますけど……デミトリさんの言った通り旧市街地はあまり良い噂を聞かないですね」
「そうか……」
色々と疑問が頭の中に浮かび上がってきたが無理やり思考に蓋をする。
カミールに質問攻めをしても何も解決しない。それに領主であるケイレブ殿の人柄を考慮すると、意味も無く貧民窟を放置しているとは考えにくい。
放置しているのには何か理由があるか……理由が無かったとしても単純に今までは幽炎対策や財政状況の改善等、ヴィラロボス辺境伯領が抱える他の問題の方が優先度が高かったため手が回らなかっただけというのも容易に想像できる。
「それじゃあ行くぞ」
「はい!」
――――――――
「……めちゃくちゃ人が居ないか?」
「しー……! 気付かれますよ……!」
城壁を超えてボルデに入り、着地するまで人の気配がせずに安堵出来たのも束の間。
カミールの案内で街の中心へと通ずる通りにでた辺りで、決して少なくはない数の外出中の住民達に出くわしてしまい、慌てて路地裏に身を隠す事になってしまった。
「予想以上に人が居ますね……隙を見て移動するしかなさそうです」
「カミール、俺も反射的に隠れてしまったが城壁を超えた所は見られていないんだし、隠れる必要は無いんじゃないか?」
「旧市街地にわざわざ訪れる住民はほとんど居ません。無暗に出て行ってしまったら確実に警戒されますよ?」
カミールは少し慎重になり過ぎているような気がしないでもないが、用心するに越した事はないのかもしれない。
通りを歩いている住民達は少し先にある広場で開かれている集会に向かっている様子だが、彼の言う通り突然旧市街地では見慣れない俺達が姿を現したら注目を浴びる可能性が高いのは否めない。
「ちょっと大回りになっちゃいますけど、このまま裏路地を経由して二つ先の通りから帰りましょう」
「分かった。先導は頼んでもいいだろうか?」
「はい!」
元気よく返事をした後、カミールが慌てて両手で口を塞いだ。
集会に向かっている住民達も普通に話しているので、下手な事さえ言わなければそこまで気にする必要も無いだろうに……。




