第484話 三流以下
「レオに色々と指導して貰って、俺なりに自分の力がどこまで通用するのか計ろうとしている最中ではあるんだが……」
「あの稽古も見てましてけど……デミトリさんの為にはっきり言いますよ? 白金級の冒険者と伝承で語り継がれるような存在の勇者と手合わせが出来てる時点で、一般的には超人の類ですよ?」
「ちょうじん?」
「凄い人って意味です」
リカルドに傑物と呼ばれたり、カミールに超人と呼ばれたり……客観的な評価をおかしいと一蹴するつもりはないが、どうしても他者からの評価が俺自身の考えと一致しないのがもどかしい。
「カミールは俺がアムールの武闘技大会に参加した時の戦いを見ていたのか?」
「会場の観客に混ざって、もしもの時に備えて他の王家の影と一緒に見てましたよ?」
「見てくれていたのであれば話が早い。俺はほとんどの試合で死にかけただろう?」
「死」という単語を聞いた直後アイリスの身体が強張り、物凄い速さで空いていた手を掴まれる。
「しんだらだめだよ……!」
「不安にさせて悪かった。昔の事だから今はもう大丈夫だ」
「……かなり自己評価が低いと思いますけど、二回戦以降は確かに辛勝が続いてましたね」
「戦いにおいて、俺は苦戦の果てに命辛々生き延びた経験をした数の方がはるかに多い。ガナディア王国に居た頃より、ヴィーダ王国に亡命してからは少しましになったが……」
結果的に勝利を収めているのが事実だとしても、命を掛けてギリギリの所でもぎ取った勝利ばかりだ。
それこそリカルドに手段は関係ないと叱咤されたワイバーンの討伐も、本当に毒に頼らなければ成し遂げられなかった可能性が高い。
「今まで対峙して来た異能を持った刺客達も、運が良かっただけで一歩間違えれば即死していてもおかしくない相手ばかりだった。むしろ時を止めたり、攻撃を全て反射したり、石化能力まで持った敵を相手にして今まで死ななかった事の方が奇跡だ」
「それは……」
どれだけ力を付けても、相性の悪い相手や不意打ちを喰らえば呆気なく死んでしまう危険な存在がこの世界には多すぎる。
「強い弱い」の一言で実力を評価し辛いのは、そう言った経験の積み重ねが原因かもしれない……。
「……俺は心のどこかで、いつ死んでもおかしくないと思っているのかもしれないな」
「!!」
「アイリス、大丈夫だ」
「でも……」
「理不尽な力が存在する事を認めた上で……大切なものを奪われるつもりは無いからな」
勝手に転生させられた事を知り、それからこの身に降りかかる不幸にずっと抗って来た自負はある。
自分で奇跡に近いと言ってしまったが、どんなに絶望的な状況でも抵抗を続けた事でなんとかここまで生き延びる事が出来た。
仲間を得て背負う物が増えた今、守りたいものも相応に増えたが……今更諦めるつもりは無い。むしろ、理不尽に抗う覚悟は昔よりも強い。
「でみとりはつよいよ? わたしとおねえちゃんにかったもん」
「ぐ……ありがとう、アイリス」
励ますようにこちらの手を握って来たアイリスに微笑みかけながら身体強化を発動する。少し発動が遅れていたら指の骨が折れていたかもしれないな……。
まだコボルドだった時に少しだけ手合わせしたが、進化の影響なのか分からないが明らかに膂力が増している今のアイリスと戦ったら、正直どちらが勝つか分からない。
「なんとなくですけどデミトリさんの考えは分かりました。それにしても難しいですね……なまじデミトリさんの考え方が自分に似てるので、否定し辛いと言うか……」
「話を膨らませてしまった俺が悪いが、この話はもう良いんじゃないか? 人の強さを評価する機会なんて限られているし、これ以上掘り下げても仕方がないだろう」
「普通はそうですけど――」
何かを言い掛けたカミールが言葉を止め、彼の視線を辿るとアイリスがちらちらと後方を伺っていた。
「どうかしたのか?」
「ずっとついてきてるのは、なかま?」
常時展開している霧の魔法に不審な影が現れてからずっと警戒していたが、アイリスも気付いていたのか。
「どうなんだカミール、あの二人組は王家の影の人間か?」
「ずっと自分はそんなに強くないって話をしてたのに、当たり前みたいに僕が警戒してた追手に気付かないでくださいよ! 二人を心配させない為に、気付いてたのに隠してた僕の立つ瀬がないじゃないですか……!」
追手に気付かれないぎりぎりの小声で怒鳴るという器用な芸当を披露したカミールを落ち着かせてから、軽く作戦を伝えてから三人で大通りから外れた小道に入った。
俺達の姿を見失って慌てて歩行速度を上げた追跡者達が追いつく前に、氷で作った足場にアイリスとカミールを乗せてそのまま民家の屋根上へと避難する。
「消えた……?」
「気付かれたみたいだな。あれが幽氷の悪鬼改め、滅死の魔術士か」
……目的は不明だが俺の事を追っていたのか。
「あのふたりはつよい?」
「カミールはどう思う?」
「強いかどうかはともかく、尾行としては三流以下って事しか現時点ではわかりませんね。僕に尾行が気付かれてる時点でその道の人間ではなさそうですし、標的を見失う失態を犯してるのにすぐに油断して追跡対象について口走ってるのも論外です。個人で動いてるか、誰かに雇われてたとしても捨て駒か組織の末端でしょう」
「すてごま……まったん……?」
そこまで辛辣な評価をするとは思っていなかったのでカミールの発言に一瞬思考が止まってしまう。
「捨て駒は使い捨ての人材の事で――」
「カミール、その単語の説明はアイリスにはまだちょっと早いかもしれない」
「そうですか?」
「まったんは?」
「末端は――」
「二人共、気付かれるかもしれないから声を抑えてくれ……! 一旦この場を離れよう」




