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八百万の精霊使い  作者: 好風
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終章 前借りのツケ

 多くの損害を払うも、幸いにして学院生及び先生達からは死者は出なかった。

 また、他の封印領域でも辛勝ながらも人間側の勝利の一報が届いた翌日、学院内ではささやかながらも全校生徒あげての、戦勝パーティーが行われていた。

 パーティー会場とされる講堂にてファイはフィルを探して彷徨っていた。

「ファイ、どうしたの? あんたも主役なんだからどっしり構えてなさいよ」

 ケーキ片手に、ピアが声を掛けてくる。

「あっ、その、フィル君見てないかな? パーティーが始まる前にいなくなって、学院長が挨拶をして欲しいって言ってきてるんだけど」

 戦争における最大の功労者がフィルであることは、参戦していた生徒及び学院で戦場の映像を見ていた全ての生徒の知るところであった。

 だからこそ、立役者としての挨拶を望んでいた。

「フィル? そう言えば見てないわね。モノク、知ってる?」

「いや、俺も見てないな」

 肉の塊にかぶりついていたモノクが首を傾げる。

「有名人になったんだから、誰かに捕まってるんじゃないのか?」

「そうね。女子達にも人気が出てるみたいだし……校舎裏で告白とかされていたりしてね」

「ほぇ? え、え、え、そんなのダメだよ」

 顔を真っ赤にしては否定する。

「ファイにとっては、なぁにがダメなのかしらね?」

 あまりに解りやすいファイに、ピアがからかうように言ってくる。

「だ、だって、フィル君は私の勇者なんだから」

「あら? 八百万の精霊使いはみんなの勇者様でしょ」

「うぅ……」

 への字に口を閉ざしては低く唸るファイ。そんな彼女に、やってきたラティが助け船を出す。

「フィルさんでしたら男子寮の方へと駆けていくのを見ましたよ」

「ほんと!? ありがと、ラティ。私、行ってみるね」

 パタパタと駆け出していった。

「本当にもう。焼けちゃうくらいにいじらしいじゃないですか」

 嘆息混じりに呟くラティの横顔は少し寂しげだ。

「あんた、もしかして……」

「ピアさん。ケーキ食べましょ、ケーキ。あっちに凄いケーキがありましたよ」

 何でもないように軽く微笑むラティだった。


 寮へと続く回廊を足早に駆けていくファイだったが、その足が止まった。

 彼女の向ける視線の先には、ネガポジデジの一家がいる。

「ネガ先生? それにポジさんにデジちゃんも。パーティー始まってますよ」

「おっ、ファイか。俺達はパーティーには出ないからいいんだよ」

「出ないって?」

 小首を傾げる。

 大人なネガポジが何らかの理由で参加しないのも解るけど、小さなデジならばパーティーには多大な興味があるように思える。

「私達は今日付けで学院を離れることになってるの」

「お家に帰るのですの」

「学院を辞めるんですか!?」

 寝耳に水な話だった。

 仮に、重大な理由があって辞職するとしても、パーティーの翌日だって問題無いはずだ。

「どうして辞めるんですか?」

「どうしてって、俺達の仕事が終わったからな」

「仕事って、生徒を投げ出していくんですか?」

 まだ学期の途中だ。先生としての職務を全うするならば、最低でも今学期はいなければならない。

「いや、俺達の仕事は別だ」

 首を横に振るネガ。

「ネガ先生の仕事って?」

「昨日の戦争って言うか、あの災厄を乗り切ることよ」

「え?」

 ポジの言葉に戸惑う。

「戦争を乗り切るって……どう言うことなんです? 先生達は前から戦争が起こることを知っていたんですか?」

「知ってた。それも十二年前からな」

「十二年前に知っていたって……」

 話の真意が解らず、よけいに頭がこんがらかる。

「こう言うことだ」

 ネガは被っていた石仮面に手を掛け、それを外す。

 そこに現れたのは傷一つ無い至って普通の顔。ただ、その瞳をファイは知っていた。

「フィル……君?」

 思わず零れた言葉にハッとする。

「フィル君のお兄さん? あっ、でも、フィル君の家にはお姉さんと妹ちゃん達しかいなかったはずだし……」

 あれやこれやと考えるファイに、ネガは肩を竦めた。

「俺は未来から来たフィルだよ」

「うそ……。未来から来るなんて不可能じゃ」

 目の前の現実が信じられないファイだ。

「未来を司る時の精霊が未来から精霊達を召還できるように、過去の精霊と契約すれば時流を遡行するのも可能なんだ」

 時間の精霊は三種いる。この時代のフィルは未来のみと契約しているが、ネガは残り二種の精霊とも契約していたのだ。

「そう言うことで、この時代での俺達の役目は終わったから帰るんだよ。前もって元の時代に戻るタイミングは決められていてさ、勿体ないけど、戦勝パーティーには出られないんだ」

「ポジさんとデジちゃんは、フィル君の未来の奥さんとお子さん? それって……」

 自分の失恋を意味することであり、ネガの暴露話よりも重くのし掛かってくる現実だ。

 そんなファイに対し、ポジが楽しげに微笑む。

「ファイちゃん、顔を上げなさい」

 掛けていたメガネを外すポジ。その瞳の色は自然ではあり得ない金色をしていた。

「その瞳の色って……まさか?」

「そっ。私はあなたよ。精霊憑依のしすぎで瞳の色が金色で固着しちゃったから、普段は魔導具のメガネを使って誤魔化していたの」

「じゃあ、デジちゃんは私の娘?」

「はいですの。小さなママ」

 にっこりと笑っては抱きついてくるデジ。

「小さなママ。小さなパパをお願いですの」

「お、お願いって――ってフィル君!?」

 ぶっ飛んだ展開について行けず、停止しかけた思考が娘の一言で呼び起こされる。

「フィ、フィル君は知ってるんですか? このこと――」

 真実を知った幼なじみがどう自分に対応してくれるのか知りたくなってくる。

「あいつなら正体を明かす前に旅立ったからな」

「旅立ったって?」

 キョトンと聞き返す。

「精霊契約の旅だ。あいつはこれから、昨日召還した全ての精霊と契約する必要があるんだよ。だから、学院でのんびり戦勝パーティーなんて出てられない」

「およそ八百万もの精霊との契約……ですか」

 あの地にいた精霊使い達の感覚によって推測した結果、あの場に出現した精霊はおよそ八百万。確かに、今すぐ行動に移さなければ間に合わない数だ。

 旅の理由に納得したファイは、興味を目の前にいる大人な幼なじみに向けた。

「ネガ先生はどうやって集めたんです? ネガ先生は契約し終えてるんですよね?」

 それが解れば、フィルの助けになると考える。

「それは秘密だ」

 教える気のないネガ。

「何故です?」

「俺の時は師匠に教えて貰わずに集めたからな。あいつだけに教えるのは納得いかないだろ。まぁ、あいつも俺なら集められるさ」

 ぱふっとファイの頭に手を置き、ぐしゃりと撫でる。

 幾つかの不満があるが、そう言われてしまえば何の反論も出来なくなる。

「おっと、忘れていた」

 思いだしたように話を進める。

「一つだけ、あいつに伝えておいてくれないか?」

「何をです?」

 何かアドバイスでもあるのかと期待するが、少し違っていた。

「あまり、未来の精霊を借りるなってな。あいつが借りている間、未来のフィルの元からは精霊がいなくなるんだよ」

「いなくなるんですか?」

 てっきり、そんなことは無いものだと思っていた。

「過去の俺が召還している間だけの時間分、未来の俺から精霊が離れるんだ。平時ならば問題無いけど、戦闘中に召還されるとマジでやばい。実際それで何回か死にかけたこともあるしな」

「未踏領域で使えなくなった時は焦ったもんね」

「…………」

 いつか、自分も同じ出来事を体験すると考えれば、何も言えなくなる。

「実際今の俺も、いつの時代の俺かは解らないけど、精霊のほとんどを持っていかれてるからな。今使役している精霊は、この石仮面に宿っている一〇八体の精霊だけだ」

 握っている石仮面を指し示す。

 それらは、過去からの召還に応じないようにと、精霊石に移しているのだと続けた。

 そうでもしないと、一方的に精霊が連れ去られるのだ。

「おっと、そろそろ元の時代へのゲートが開けるな」

 一家を取り囲むように光の輪が輝きだし、三人の姿が光り始める。

「ポジ、デジ、お前達は言っておくことはないか?」

「そうね。ファイちゃん」

 ネガに問われ、思いだしたように若い自分へと呼び掛けるポジ。

「何ですか?」

 光の粒子へと溶け込みつつポジは最後のアドバイスを口にした。

「これからライバルが色々と出てくると思うから頑張ってね。特に、氷姫と……ラティちゃんにも気を付けた方がいいかしら? 今回の雄姿で自分の気持ちに気付いちゃったみたいだし。あとはエルフの姫さんとかもそうね」

「ライバルって、何の?」

 氷姫とは面識もあるし、戦友でもある。だが、それでライバル視している相手ではない。

 ラティにしても、親友であってライバルではない。

 それにエルフの姫と言うのが解らない。

「あら、決まってるじゃない。恋のライバルよ」

「え?」

 ファイの頬が強張る。

 予想外な話だった。

「恋のライバルって、私とフィル君は結ばれるんじゃないんですか?」

「未来は確定してないからな。俺達とは違った未来を辿る可能性もあるんだ。事実、幾つかのズレがあったしな」

 身代わりの護符の消費量など、ネガポジ夫妻が体験してきた過去とは、細部が色々と食い違っていたのだ。

 このままでは、自分達と同じ未来へと辿り着けるとは言い切れない。

 ただ、

「大丈夫ですの。デジはお姉ちゃんとお兄ちゃんを信じてますの。デジのパパとママになってくれることを」

 デジ一人は信じてやまなかった。

「それじゃあ、またですの。デジはパパとママとの再会を楽しみにしてるですの」

 そう言い残し、彼女の姿は両親と共にこの時間から消え去っていった。

 独り残されたファイは拳を握りしめ、その想いに応えようと固く誓うのだった。

「頑張るよ、デジちゃん。私とフィル君の幸せのために」

 今この場にいないフィルへと想いを馳せながら。


 そして件のフィルは、

「だぁぁぁぁ! 二十歳までに数百万もの精霊と契約って何なんだよ」

 半泣き状態で叫び、あてどもなく走っていた。

 未来の自分から借りてきた精霊と同数の精霊と契約すべく、彼は焦りまくっていたのだ。

「本当に、借りてきたのは二十歳の時の精霊なんだな?」

「うむ。あれは確かに四年後の未来だ、主殿」

 幾度となく繰り返した質問の答えに、落胆する。

 あり得なさすぎたのだ。

「どうして、たった四年で八百万もの精霊と契約が可能なんだよ!? 神霊だって何体かいたぞ!! 大体、八百万は無茶苦茶多いって意味だから、一万ぐらいで十分だろ! 未来の俺は何考えてそんなに集めたんだ!?」

 口を衝いて出てくるは泣き言じみた悲鳴だけだ。精霊使いとしてその高みに到達する手段が解らず、気持ちだけが逸る。

 八百万の精霊使いこと――前借りの精霊使いフィル。その人生に課せられたツケを支払うべく、今はまだ見ぬ精霊を求め突っ走るしかない。

 八百万まで残す精霊は七百九十九万九千九百九十九体。

 彼の物語は今始まったばかりだった。

 以上で、終わりです。

 ここまで読まれた方、まずはありがとうございました。感想なんかありましたら、書いていただけると嬉しいです。

 ネガポジ夫妻の正体にはどれくらいで気づきましたか? こう言う二面性の話が好きで挑戦した話です――って書いたのは凄い昔なんだけど。


 KDPで販売している本は他にもありますが、さすがにKDP開始初期段階から売ってる本ばかりのためか、最近はほとんど読まれなくなってきた(まともに売れてるのは別名での18禁ぐらい)ので、今後はなろう等で公開しようかと企んでいます。

 そう言うことで、拙作のkindle本で読みたいのはありますか?

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