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プロローグ

青い鳥と哀しみの業火が始まりました。良ければ、お付き合いください。

 俺は魔法使いになりたいと思ったこともないし、なろうと思ったこともない。だが、こうして、俺が魔法使いとなったのは“契約”の為だ。

 俺にとって、全てが偽りで塗り固めている世界だ。それでも、俺は守らなければならばならない場所がある。そこだけは俺がどうなろうと、守り抜かなければならない。

 そう、この身がどうなろうとも……。

「………君がここに来るなんて、珍しい。何かあったのかい?」

 白い髪をした青年は俺を見る。魔法学校時代からの友人だ。彼が奇人変人であることは認めるが、それでも、偽りの世界の中で、友好関係を持ってもいいと思えた人物である。

「用がないと、来てはいけないのか?」

「君なら、大歓迎さ。黒犬に聞かせてあげたいものだ。彼は私がわざわざお見舞いしに行くと、寝たふりとかするんだ。もう少し素直に私の気持ちを受け取ればいいものを」

 黒犬と言うのは一か月の間だけだったが、宮廷魔法使いとしてやってきた青年だ。最年少記録でライセンスを取得した巷で有名な魔法使いだ。平民ながら、いろいろな偉業を成し遂げたり、宮廷魔法使いと言う身分が保障されているのに、短期間で辞めた為か、平民の希望の星と言われているそうだ。偽りで塗り固められた世界の中では珍しい人種だと思う。どんなことがあっても、前を向いて歩こうとしているその姿は好感を持てるが、同時に、嫉妬も抱く。

 彼は黒犬の行動に憤慨しているようだが、黒犬の気持ちも分からなくもない。彼は彼で、青い鳥の奇行に悩まされているのに、これ以上問題を増やしたくはないのだろう。

 青い鳥。名前は勿論、素性も良く分かっていない少女。黒犬と一緒にやってきて、最強の魔法使いの黒龍が作ったシステムを壊していった人物。奇跡に愛された人間と言うのはあの少女のことを言うのかもしれない。

 どうやら、あの少女は王都に来ると、あいつらと一緒に遊んでくれるらしい。

 黒犬と青い鳥。あの二人は嫌いではない。どちらかと言うと、好感を持てる部類である。彼らは人を惹き寄せるような魅力を持っているのではないかと思う。

「………そうか。それより、睡眠薬を処方して欲しいんだ」

「睡眠薬?何に使うんだい?」

 彼は不思議そうに尋ねてくる。

「最近、眠れないんだ」

 嘘ではない。最近、中々寝付けない。だが、使用用途は違う。

「そうかい。城での生活は大変みたいだからね。少し待っていてくれたまえ」

 彼はそう言って、調剤室に姿を消す。

 もし彼が俺のしたことを知ったら、どうするだろうか?罵るだろうか?それとも、恨むだろうか?

 彼に恨まれることをしようとしているのは事実だ。そして、俺はもう彼の前に姿を現すつもりはない。いや、彼の前に姿を現す資格など無くなるだろう。

 これから、俺は幸せを呼ぶ鳥を殺しにいくのだから……。


***

「………黒龍さん、これはどう言うことですか?」

 俺はこの一連の元凶である白フードの男・黒龍さんを見る。

「そうです。どうして、私達がここに誘拐されたのか、事情を話してくれないと、困ります」

 青い鳥も憤慨した様子を見せる。傍若無人な青い鳥でも許容できない事態だったらしい。

「………黒龍、お前はろくに事情も話さず連れてきたのか?」

 俺達の目の前に座っている緑髪の青年は溜息を洩らす。彼はエイル三世陛下。ここは王宮で、数か月前に、俺達はここで彼と面会した。だが、俺達がエイル三世陛下と思っていた人物は彼の双子の妹であるイヴァラント姫であり、当の本人は仮面を被り、仮面の騎士として彼女に仕えていた。

 だが、俺達がこの城に蔓延っていたシステムをぶち壊した為、彼女が偽りの王をする必要もなくなり、彼が仮面を外して、実質的の王になった、はずだが、この人はじっとしていることが嫌のようで、今でも仮面をかぶって“翡翠の騎士”をして、他の宮廷騎士達の訓練を施しているらしい。その間はイヴァラント姫が代理として、王に成り変わっているらしいが。

「何で、俺が一々ご丁寧に事情を話さなければならねえ?俺が来いと言ったら、どんな理由があろうと来るべきだ」

 いつもながら、感嘆に値するほどの自分勝手さぶりである。それは青い鳥にも言えることだが。

「それは誘拐といいます。私はスノウの肉球を堪能していました。その至福の一時を邪魔するのは万死に値します」

 こいつはそう憤るが、暇だからこそ、我が家のマスコット兼ペットであるウサギとブタの合いの子のような姿を持つスノウとじゃれていたのだろう。なので、そこまで言う必要はない。ただ、あいつのことだから、黒龍さんと馬が合わないから、そう言っているのに過ぎない。おそらく、この場合は同族嫌悪とでも言うのだろう。

「………誰かハクとイヴを呼んできてくれ」

 彼がそう言うと、黒龍さんの動きが止まる。

「何故、あいつらが来ることになる?」

「そうでもしないと、お前と青い鳥は喧嘩しっぱなしで、話を始められない。早く、ハクとイヴを」

「分かった、分かった。大人しくしているから、姫とハクだけは呼ぶな」

「最初からそうしろ」

 彼は興味なさそうに言う。どうやら、彼は最強の魔法使いの制御の仕方を身に付けたようである。流石、ずる賢い大臣たちと対等にやり合っているだけのことがある。

「青い鳥、黒犬、突然呼び出して済まない。本当は事情を話して、ここに来てもらう予定だったが、この男ときたら、面倒臭いからと言って、半ば強制的に連れて来たんだろ」

「………黒犬の母親には許可を取ったが?」

「黒犬の母上が許可しても、本人達が納得していない時点で、それは誘拐だ。この男のことはどうでもいい。お前達に頼みたいことがあって、わざわざここに来てもらったわけだ」

「………俺達に頼みたいことですか?」

 俺達は短期間ではあるが、ここで働いていた身だ。だが、今の俺達はただの村人(俺の場合はニートと言うかもしれない)だ。そんな俺達に何の用だろうか?

「そうだ。お前達は西の方で軍とそこの住民で結成されている反乱軍との紛争が勃発していることは知っているな?」

 最近、西の方で、反乱軍と名乗る人達と軍が衝突していると言う噂は俺の村にも届いている。紛争が起きているのは西なので、俺には関係ない話だとは思っていたが。

「軍が説得をしようとしているのだが、彼らは聞く耳を持ってくれない。このままでは被害が拡大する一方だ。だから、平民の星の黒犬なら、話を聞いてくれるのではないかと思ってな」

 どうやら、彼は俺に紛争地に行かせたいらしい。誰がすき好んで、そんな所に行きたいか。

「俺一人で行けと言われても困ります」

 できることなら、断りたい。だが、そう簡単に引き下がる相手ではなかった。

「そうか。お前は自分一人良ければ、西の人達がどうなってもいいのか?酷い奴だな。黒犬は彼らに幸せになって欲しいとは思わないのか?」

「そうです。貴方は西の人達が助けを求めています。幸せを願っています。それこそ、私達の出番です」

 “幸せ”と言う単語にいち早く反応した青い鳥さんがエイル三世陛下の味方に付く。まさか、彼はこうなるようにと、わざわざ青い鳥まで連れてきたのか。

「流石、青い鳥。分かっている。出来ることなら、俺が行きたいところだが、俺は王だ。行くことはできない。俺の代わりに、西の民を助けてはくれないか?」

「そう言うことなら、私達に任せて下さい。大船に乗った気でいて下さい。軍と反乱軍を仲直りさせてきます」

 私達って、俺も行くことが決定ですか?俺を置いて、話を進めないでください。

「お前なら、そう言ってくれると思った。期待している」

 彼は満足そうに言う。決まってしまったことは仕方がない。潔く諦めよう。

「俺たち二人で、交渉しにいくんですか?」

 俺は勿論、青い鳥に交渉役が務まるとは思えない。それに、反乱軍と交渉決裂した場合、俺たち二人で逃げだせるとも思えない。

「そこら辺は大丈夫だ。翡翠の騎士を同行させよう」

 彼はそう言う。翡翠の騎士とは素性不明の国随一の剣士だ。彼がいれば、心強い。だが、彼の正体はエイル三世陛下本人だ。国王が直々に行って、何かあったら、どうするんだ?

「一週間後、北の国の王との会談がある。翡翠の騎士はお留守番に決まっているだろ」

 黒龍さんはそう釘を刺す。もし何もなければいいのか?

「お前らの同行者は俺が手配した。出てこい」

 黒龍さんがそう言うと、宮廷魔法使いの黒いローブに身を包んだ真っ赤な髪が印象な紅蓮さん(城内で一番の苦労人)が姿を現す。

「お呼びでしょうか?」

「これから、こいつらの護衛及び交渉人として、同行しろ。もし任務失敗した際はこいつらを守りながら、撤退しろ」

「御意。心得ました」

 紅蓮さんはそう応える。

「西の方は行ったことがないので、楽しみです」

 そんな中、青い鳥はそんなことを言ってくる。

「楽しみにしているのはいいが、一応、任務だからな。そこだけは忘れてくれるなよ」

「分かっています」

 こうして、俺と青い鳥、そして、紅蓮さんの三人の西への遠征旅行が始まる。だが、この旅行が大波乱の展開になってしまうのはいつものお決まりなのかもしれない。人知れず、青い鳥が不幸を振りまき始めようとする。

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