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魔女の愛弟子  作者: 井川林檎
第八部 ラプンツェル
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終章 まほろばの魔女

旅は続く。

大魔女候補を探し続けるペル。

変わりゆく彼女の前に、次は何が現われるのか。

終章 まほろばの魔女


 驚いたことに、この世界はどうやら丸い。

 それに気づいたのはいつだっただろう。

 青い、清浄なる気体に覆われた巨大な球体が、この世界らしかった。

 その青を写し取った果てしない水。

 その水を海という。


 海を越えて別の陸を見つけた時、胸が躍ったものだ。新たな世界が広がっている。

 ここにこそ次期大魔女がいるのに違いないと思い、そしてその予感は当たっていたようだった。

 非常に新鮮で、活力に満ちた魔法使いの気配を多く感じるのである。まったく未開発の魔女たちであるが、彼らを教え導いたならば、大魔女の資格を与えることができるようになるのに違いない。


 わたしが大魔女の母になり、教え、導き、その生きざまを見守る立場となる。

 

 そしてもう一つ。

 

 下腹に宿ったものは、勢いづいたように成長を始めており、わたしの体は新たな変化を迎えていた。

 日に日に丸く大きくなる下腹は、その時が近づいていることを示している。


 ……。


 

 この子が生まれ、見事に成長した時、世界を背負うこととなる。

 わたしから離れ、清浄な空間に身を置き祈りの生を全うすることになるのだ。

 そしてわたしは、一人になる。

 孤独を温もりにかえ、代々の大魔女を見守り続けてゆくのだろう。


 


 あの、華奢で優雅な黒猫である。

 彼は旅の友としては上等の部類だとは思うが、煮魚ではないと口にしなかったり、ミルクの類を嫌う等、厄介なところがあった。一度、ウイスキーを試しに飲ませてみると、当然のような顔をして一瓶を飲みきってしまった。

 それも、上等のウイスキーではないといけないのだ。

 

 ……。


 妊婦に酒は毒だよと店主に気遣われながらもウイスキーを買い、わたしは宿に戻る。

 町は夕暮れ時を迎え、繁華街には色とりどりの灯りがつき始めていた。

 どこかからか、柔らかなギターの調べが聴こえてくる……。


 「どこなの」


 と、宿の部屋のどこかにいるはずである黒猫を呼びながら、わたしは買ってきたものをベッドに置く。

 魚は宿のおかみに渡して煮てもらう算段をつけていた。

 呼んでも姿を現さない黒猫は放っておいて、わたしは階下に下り、おかみに生の魚を渡す。

 煮魚を頼んでから、急で狭い階段をゆっくりと上がる。このところ、階段の上り下りが厄介だ。下腹部が大きいために足元が見えづらいのである。


 わたしは自室に入り、相変わらず猫が姿を現さないのを知って、ちょっと溜息をついた。

 まさか部屋から出て行ってはいないと思うのだが――窓は閉まっているし。

 ベッドに座って紙袋を開き、買ってきた品を取り出した。

 いくつかの食品の中に、上等のウイスキーの小瓶がある。

 くれゆく日の光が薄いカーテンをひいただけの窓から溢れ込んでおり、部屋は穏やかな赤に染まっていた。

 

 「出ておいで」


 呼びかけながらウイスキーの小瓶の栓を抜き、猫用の皿にあけようとした時、その小瓶を取り上げる手が現われた。


 唖然として、わたしは顔を上げる。

 白手袋の手が栓を抜いた小瓶を持っており、優雅な動きでそれを口に運んだ。

 


 わたしは立ちあがり、驚きのあまり両手を口に当てた。

 手から零れ落ちた猫用の皿は床に当たって派手な音を立て、ころころと車輪のように回り、部屋の隅で止まって倒れた。





 やがて、夜がくる。

 よく晴れた満天の星空が、宿の上には広がるだろう。

 旅は続く。

 旅は続くのだ。

長い物語でした。

最後まで見届けて頂いて、ありがとうございます。

トラメとの別れから始まったペルの旅、どんどん色が変わってゆきました。


温もりを知らないこどもが成長し、様々なものを見て、感じ考えることを知り、慈しみを知って生きてゆく過程を魔法で色付けし、描いてみました。


お気づきになられたかもしれませんが、世界のいる場所はペル達が生きる現実世界と切り離されているわけではなく、同じ地球のどこかにあるので、生まれてくる子供がやがて「世界」を受け継いだ時、お別れして生涯会えなくなる、というわけではないのでした。


ペルは、西のさいはての結界を破り外に飛び出したことで、魔法のくびきを切ることができています。


もう孤独ではない、ということを知った時、ペルはまた柔らかな変化を起こすのでしょう。


読んでいただいてありがとうございました。

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