念願の王女様を手に入れたぞ☆―シャロン王女はテンションが高い―
ヤニが……ヤニが吸いたい。そりゃあ、あたしゃ王女だもの。ついでに鬼の実務屋やら言われてんですからね。人前でプカプカやってたりはしないともさ。人前じゃそりゃあ、綺麗なお姫様とかやってみせますよ。そりゃあ、何度だってな?
人形姫のあの無感情&無表情は呪いのせいとかいう話はあるし、欲しいか否かで言われたらいつ化け物になるかもしれねえ呪いなんざいらん。いらんのだが......今だけはそれだけワンポイントで落ちてねえもんかね?
あたし、シャロン・マーレイユ・リンディアは今年25歳になるこの国の第2王女だったりする。200年前の全自動人型魔王怪異撲殺マシーンと人形姫大活躍のおかげで、平和になるのと同時にお目出たい連中が多くなったお国の屋台骨を支える任を担った王女だ。
ただ、現在その胃の壁は色んな意味でギリギリしまくっている。元リンディア王城現ライヘンバッハの塔攻略を指揮するダンテ兄貴と愉快な仲間たちが、まさか此処まで深刻に突破に手間取るとは思っていなかった。塔攻略の様子を見ようと赴いたとき、兄貴の副官の傭兵野郎......ああ、キースとか言ったか。
あれが、号泣する騎士団員と何を話していたか......?
「わかんないんですよぉ!! ぼくぁ! 確かにイシターにロッドを渡したんですよぉ!? 直後に何ですかあれ!? ―残念!それはイシターならぬ石田彰さんだ!裏切りそうな役に定評のある名優さんだぞ♡―って! イシターも石田も濁音のあるなしの違いだけでしょぉぉ!! もう嫌だぁぁぁ! ゆーざっぷとか聞きたくない見たくないうわぁぁぁ!」
「記録係ぃぃ! 記録係を呼んでくるっすぅぅ! お前の犠牲は決して無駄にしねえっすよ! おいら達全員で最上階にいるおじさんを必ずぶっ殺すまで! おいら達は突撃を続けるしかねえんすよぉぉぉ!?」
石田彰さん......異世界人の名前か? 名優さん......そこはかとなく気になったが、商業地区に出ている道化劇場だったり、水運エリアを乗っ取っている死霊舟の群れの討伐やらに比べたら、まだ十分余裕があるだろうと、こん時ぁ思った。
当初の予定では一月範囲もあれば、王城を奪還し残る戦力で7つの魔王怪異を討伐した後、残った不穏分子を片付けて……後は、切れ散らかしてる人形姫達と交渉しつつ、今回の元凶の一端であるアロンのヤツ......まあ、失脚は免れないだろうが……を締め上げるくらいのもんだと……思っていたのに。
だからこそ、王城の方にも予算を相当に工面したはずだったのに。あのおじさんとやらが設置したワンコイン入れんと城内に入れないとかいうカラクリ用にも予算をつけてやったのに……!
突破者が現れない……! 現場から流れてくるのは......
『ドアがドアが2つあるなんて初めてのケースだ! ダンテ王子! 助けて助けて下さい! どっちか選ぶんなら、もう俺じゃなくて責任者であるアンタが選んでくれ!』
『じ、自分が選ぶのか!? 此処まで来るのにかかったコンティニューは既に何回を超えた……!? 此処で……此処で自分が……!?』
『時間制限がある事も忘れないでほしいっす! 恨んだり......ぶっちゃけ舌打ちとか露骨な溜息とか、あーあとか言う気満載っすけど、恨む事だけは......恨む事......恨みます』
『やはり恨まれるのか!?』
......などという、死闘は死闘なのかもしれないが、実際仕事サボって競馬なノリで遊んでんじゃなかろうかという疑惑が湧くような声だった。ダンテ兄貴は人前で孕み袋だの連呼して、その醜聞をおじさんに利用されまくるトンチキじゃねえし。
公私混同ガッチリした上、仕事で手を抜いた所を見た事がねえ。唯一の難点はさっさとあたしを支持して、あたしを女王へ押し上げる事やらに日和りやがった事くらいなもんで、他は信用してた。だからこれも大した話じゃねえと思っていたんだ。
で……! 次に届いたのが……!
『どうせ皆スカンピンだ......。えはははぁ! どうせみんな此処でおじさんのそそり立つ棒の前に、泣き崩れるしかぁぁぁねえんだぁぁぁ!』
『おい、あの変態に魂を掘られたか! しっかりしろ......! 他国との戦いを思い出せ......!』
『ダンテ王子......策は......策はないんすか! もうあらゆる手段を試したっす! もうこれは外側から一か八か登りましょう! 堕ちたら堕ちたで風魔術使いに助けてもらいやしょう!?』
『......やむを得んか……! 皆の命を自分に......』
『あのぉ……』
『黙ってろマイク騎士見習い! 今ココで話す許可は貴様には……』
『いや待て。自分が許す。何か......何か気づいた事はあるのか? 今はまさに全軍崩壊の危機だ。思いついた事があるなら何でも話してほしい……!』
『......座標......なんじゃないでしょうか。今まであらゆるトラップが僕らに襲い掛かりました。でも、そのうちで……ほら、ウォークラリー......。僕の故郷で春のお祭りにあるんですけど、あるポイントを指定の条件で通る事がゴールの......試してない……ように』
『全員! 集合! 再びあの階層まで登り参加者全員で100通り試すぞ! 全てはおじさんをぶち殺す為に!』
『『おじさんをぶち殺すために!』』
......全員目にクマが出来ていて、でもなぜかウキウキした顔で体に闘志を漲らせているヤツもいた。この時点で、「あれ?実は実際遊んでんじゃね?』という疑惑がちょっと生まれた。でもまあ、魔王怪異との戦いでも同じような理不尽が出る事はある。
それにこの意気軒高ぶりならば、予定よりは1週間ちょいのズレだかはあっても、塔の攻略は叶う……叶うもんだと、まだこの時は信じていた。
そして……ついに、第四次予算が底を尽いた......! もう、ええっちゅうんじゃい!なんだかんだと言いながら、今回の遠征討伐用に用意した資金が、次々におじさんのポケットマネーへと姿を変えていく......!ついでに、他のエリアの魔王怪異との戦いはシリアス度を増していき、なんか民間で結成された攻略組なる存在の方が、王国軍よりも余程英雄っぽい感じに扱われていく......!
こりゃあ、マズイ......! マズすぎる......! 実際ダンテの兄貴の持ち所を魔王怪異の方へ振って民間攻略組の連中を「そそり立つおじさんの塔」の攻略へ割り振る事も考えた。あはは、だって、そうだろう......!
この塔の攻略は死ぬほどヒデエ目に遭う事はあっても、吸い込まれるのはコインだけなんだぜぇ!?だったら、英雄的な仕事の方をダンテ兄貴にやらせて、他は民間の連中にやってもらうのも1つの手ってもんよぉ!
それで魔王怪異掃討した後は、ダンテ兄貴を民間含めた攻略組の総指揮官やら何やらに仕立てりゃあ面目もバッチリよぉ……とか思った矢先......! 邪魔が入った……! あの孕み袋アロンのお仲間&他所の派閥からの横槍......!
『国の一大事に事を収めるのは、あくまで王族であるべきですよ。おじさんをもしも罷り間違って民間の人間が討伐でもした日には、それこそ我らの面目丸つぶれじゃありませんか♡』
会議の後、あたしは書類を地面に叩きつけ、メイドのマリアが超ドン引きしていた。そんなん後でどうとでも裏工作して真相いじりゃいいだけの話だろうに! 実際、人形姫の母親ん時もそれやったから話が面倒くさくなったんだろうとかも思わんでもないがね!?
状況がコロコロ変わる以上、こっちもさっさと方針変えなきゃ少なくともあの、おじさんとやらとは戦えねえぞと散々地面を地団駄した。しかし……しかし、ド畜生......!
思いのほか......思いのほか、ダンテ兄貴に塔攻略続行させるという意見は強かったのだ。ただでさえ、話がこじれている今、これ以上身内同士で揉めるわけにもいかねえ。マリアが血圧とか気にしてくれたが、あたしは柱に頭を散々打ち付けた後に、ようやく落ち着いた。
そこで......策を考える事にしたってわけさ。ぶっちゃけ、ダンテ兄貴の現場を煽る事を思いついたのだ。いやなに、予算が深刻である事なんかもあるわけだが、此処は敢えて入塔料の提供をストップしつつ、後は自前でやれやという事で圧力をかける。
ダンテ兄貴達も、どうも様子を見る限り死傷者が出ていない代わりに、なんだこう博打に嵌った甲斐性なしの様な精神に追い込まれてるだけの様だ。だから兄貴はすぐにあたしの真意に気づく。
『おい兄貴、そろそろバカ騒ぎは終いにしろ。魔王怪異の方に携わってもらう為にアンタ達にも一肌脱いでもらうぜ?』
......こういう可愛い妹からの暗黙の打診なのだとな。塔に火を放つ云々も……まあ、他に方法が無い場合は、塔に幽閉されてるアロンと愉快な仲間たちも同時に焼いちまう事になるからやりはしないが……やりはしないが、気が変わらない事も保証しないが。
まさか王族殺しを本気でやるつもりとは取るまい。兄貴ならきっと、「それだけ派手な動きがこれから起きるからな」という事できっと伝わるはずだぁ! さーてさてさて! まずはダンテ兄貴に現場に残ってもらいたがっている鈍亀の頭を鋭く蹴り上げてやるとっすか......
「誰だ!?」
あたしは王都はずれにある、あたしの別邸のあたしの部屋の中に突然降って湧いた気配に対して、腰から護身用の剣を抜いて構えた。この剣はあたしの魔術である風と相性が大変に良い。これを持っているとあたしの感覚は何処までも研ぎ澄まされ、「風が自分から使われたがってあたしの元へ次々と集まってくる」のだ。
あたしはダンテ兄貴みたいな筋肉ではないし、騎士団の連中なんかと比べたら5秒と持たないモヤシだろう。それは否定しない。そりゃあ餅は餅屋だ。プロがいるならそっちに全部任せりゃいいんだ。あたしゃ頭で仕事をする人間なんだから。
でも、決して剣闘が嫌いとも言ってねえぞ? こんな性格だし、後暗い事なんか山とある身だ。殺されない為の戦闘術も相応にやれる。後は初手と次手でも収めつつ、外の連中にどでかい声をかけてやれば、数の暴力で侵入者の1人や2人、なます斬りって寸法よぉ!
しかし……コイツ、全く気配がしなかった。女......か? チョコンとした帽子と袴......に高下駄......?何者なんだ……? 顔は驚くほどにヒロイン顔だった。一挙手一投足に恐ろしいほどの色気がある。ただ、同時に感じる。コイツ......魔物の類か......?
やがて、魔物女はクックックと笑いながら、天使のように拍手をした。
「素晴らしい☆ 素晴らしいよ☆ シャロン王女。でも今回の状況を突破するためには少しだけ弱いかなぁ♡ 君はダンテさんをすごく信頼しているようだし、確かに君が出張れば邪魔する連中のお口にチャックをするくらいは簡単だよう......?
でもね……? 既に趣味とロマンあふれる塔に此処まで入り浸ってしまったダンテさんは、間違いなく君の思った様には動いてくれないと思うな♡ 僕はねえ……今回の状況を突破するためには、今回の趣向を用意したおじさんのロマンをもう1つくすぐる手段を用意しないとダメだと思う……!」
「単純に……ダンテ兄貴とホウレンソウしろって話じゃねえのは......愚問だよな?」
「自分で分かってる事を改めて聞いちゃうかなぁ? 愚問だねえ♪ 僕は僕だけのジョンマクレーンとその楽しいお友達&自らを「やがて改造喪女になる改造処女」と言い放つ狂人にその玩具と......愉快な人達が更に愉快な状況になるための、狂言回しに過ぎないよぉ♡
ほら、探偵は冒頭と最後に登場して話を始めつつ、最後にお見送りするのがお仕事なんだもの。まあ、前置きはこれくらいで。はい☆ これ......♡」
そういって魔物女は机の上に、ポンとティアラを1つ置いた。何か......赤い良く分からん宝石が1つついている。まさか魔王怪異の類じゃあるまいな。その媒体だったら目も当てられないが。
「これは......? 呪具の類とするなら渡す相手を間違えてるぞ......?」
「呪具というよりは、君たちのいう勇者が現役バリバリだった頃に使っていた魔法の道具だよぉ♡古伝曰く、「SAN値を身軽さに変えるティアラ」という話だったかなぁ☆ 断言するけど、これを使って塔へ赴けばおじさんは、きっと君に興味津々になる。
後はそのタイミングを狙って、君が信じるダンテさんとか嗾けてみれば......おじさんの裏をかける可能性は随分上がるんじゃないかなあ……? まあ、どうするかは君に任せるけど……おすすめの道具だよ」
「素直に使うとでも......ん、な......消えている......!?」
魔物女はいつの間にか姿を消していて、目の前には勇者時代の遺物とされるティアラが1つ。あたしは考えた。散々に考えた末、素直に使う事はしなかった。まずは裏を取りたい。そこでマリアを呼び、勇者時代の遺物と遺跡に詳しい魔術師を呼び、罪人を使った実験まで決行した。
そこで分かった事は......このティアラを使った人間は、いずれも凄まじい身軽さを身に着け、その威力に驚嘆し、誰も彼もが大絶賛をするという事だ。罠がある可能性は......いや、罠は必ずあるだろう。しかし、その点については、ダンテ兄貴にフォローしてもらえばいいだけの話だ。
あたしは、久しぶりに腹の底から愉快になって笑った。
「まあ……たまには現場仕事も良い物かな!? いっちょ伝説作ってやろうじゃねえか!(←ティアラをかぶる)」
(数時間後)
「み・ん・なー☆ シャロンが来たぞー♡ みんなはシャロンの事好きぃぃぃ? あたしはみんなの事、大好きだっぞー♪ 見て見てお兄ちゃぁぁぁん☆ シャロンの今の姿......! あったしー☆ 14歳になっちゃったー☆」
「「「「Σ(゜Д゜;)(←騎士団の皆さん)」」」
「ちょwwwww 王女......! シャロン様!? ええと、年がら年中あった目のクマが消えつつ、ついでに理性も彼方に消え果てちゃって......! なんすか! おいら達、アンタの入塔料封印に抗議を......」
「キースきゅーん! みんなが払うべきなのはー☆ おじさんへのお金じゃなくてー♪ あたしと夢の時間を過ごすために必要なチケット入った音楽板だと思うのーっ☆
きゃっ! でねーお兄ちゃん! これからあたしーそんなワンマンライブの夢を叶える為に、これから塔へ入っておじさんをプンスコしてくるねー! お兄ちゃんもーきっと、シャロンを守ってね!(投げキッス☆)」
「テンションが……テンションがえらい具合に! これは仕事のし過ぎで、実はおいら達以上にシャロン様の頭があんぽんたんになって……ダンテ王子......? 王子が白目剥いてるぅぅ! ああ、もう面倒くさいなぁ! おい王子抱えてシャロン様改めてシャロンちゃんの後を追うぞぉぉぉ!」
(※「SAN値を身軽さに変える」……身軽さがお気楽さとも訳せるのではないかという事で色々判明したのは、突入してから暫くした後の事である。シャロンさんは結構善戦し、どうも噂によれば、おじさんと相対した……らしいのだが。後におじさんから発せられたコメントで大体の結果は判明した。)
『えーマイクテス。念願のお姫様を手に入れたぞぉぉぉぉ☆(お仲間と一緒に勝利のスタンディングオベーションしているっぽい音)』
『今、攻略組はこのおじさんの塔60階に関して、詳細を知っているチート能力持ちを募集しているっす! もう後は火をかけるしかガチでねえっぽいんすよぉぉぉ!(ノД`)・゜・。』




