シックスパックが私を狂わせたからですよ♡
目を覚ましたらライダーだった。すごくすごくライダーだった。ハイクオリティであるのと同時に溢れんばかりの昭和臭。しかも家ではなく学校の理科室だった。え、あんまり詳しくないんだけどこういう手術って手術室でやるものなんじゃないの?
何で学校の理科室? ええと……どうにも意味が分からない。ただ唯一救いがあるとすれば魚人とかじゃなくて良かった......! そんなラブクラフトな展開になって死ぬまで現世を彷徨うみたいなオチは絶対に精神が持たない。インスマス関連の話等、俺のトラウマ史に残るほどだ。そのなんだ、俺は自分で言うのも何なんだが、結構神経が細いんだ。
体育会出身者がどいつもこいつも、鋼のメンタル強者等と思わないでほしい。オールマイトみたいなもので、誰も彼もがプレッシャーと戦いつつ笑顔を浮かべているとか、そんな悲しい事情があるのだ。そんな風に錯乱している俺、深山秋穂に対し鈴の音の様な少女の声が聞こえてきた。
「……目が覚めましたか先輩……?こんなに私を焦らすなんて。私は……もうどうにかなってしまいそうです」
両手両足が固定されている中で、必死に首を動かすと俺の直ぐ隣には自分より1つ年下。ショートカットに丸眼鏡、小さな背丈で子供みたいだがとても頭が良い自慢の後輩、佐枝紀子が天使の様にほほ笑んでいた。
「さ、佐枝後輩......!? な、何故君がこんな所に……! ついでになんで俺はライダーに改造されているんだ!? それともまさか俺はこれから頭だけ残されつつ、君が目の前で悪の組織に改造されていく薄い本の様な状況を見せつけられてしまうというのか!? 「くっくっく、どうだ自分の無力さを嘆くがいい!」とかで絶望でギリギリしちゃう感じのか!
ちょっと待ってほしい! そういう虐げられ系なシチュエーション&猟奇系は俺のストライクゾーンじゃない! ちょっと文句言ってやるんでこの拘束を外してくれないか! もうちょっと愛のあるシチュエーションを所望する!」
これだけは絶対に譲れない矜持だった。いや、なんというか彼女は人体改造のスペシャリストと聞いているし、ぶっちゃけ頭の良い&機転も効く。薄い本展開の1つや2つ、必ず「その時不思議な事が起こった!」で何となく突破してくれると俺は確信している。
だが、それはそれこれはこれだ。万に一つという事もある。先輩は後輩を守るものだという事は煉獄さんも語っていた事である以上、俺も彼の遺志を継ぎイザという状況に備えなければならない! そんな風に俺が焦燥感に燃えていると佐枝後輩は切なげに瞳を潤ませながら、俺の顎に指を這わせてきた......!
あふん♡ やめろ......!やめるんだ佐枝後輩......! ちょっとときめいてしまっただろう!? 新しい扉が開いてしまったらどうしてくれる! あ、本当に止めちゃうんですか! もうちょっと待ってくれても良いんですよ!?
「先輩ってば……私をメインな薄い本を頭の中で繰り広げてしまったというんですね? 本当にイケナイ人。ですけど……違うんです。メインターゲットはあくまで先輩。世界でただ1人の貴方だけなんです……! 私はその為だけに貴方を此処にお連れしました。
気分を害してしまっているかもしれないと申し訳なく思う部分もあって、内心少し怯えてもいましたのに。でも、今の一言で迷い晴れました……! 愛が……愛があるシチュエーションを所望だなんて……! これはきっと両想い!
見方によれば両想いどころの騒ぎではなく、2人はあっちっちな関係と言える......! ええ、大丈夫ですよ? 私は……貴方だけの後輩は間違いなく愛があるシチュエーションを貴方にこれから提供してさしあげます!」
なんだ……と!? 薄い本のメインターゲットは佐枝後輩ではなく俺だと.....っ!? 現状をまとめるに体はライダーでハイクオリティで拘束済み......! ついでに佐枝後輩は拉致られたわけではない。ダメだ分からない! しかも会話から推測するに下手人は佐枝後輩の様だが……!?
彼女は俺にどんなイケナイ事を施そうとしているんだ!? ブルーベリー色のツナギを着た良い男とか出てこられてしまってスゴイ事をされてしまってもアレだが……いやまて、メインは俺でサブは彼女という事なのか……!? 攻めはライダーなのか後輩か、はたまたその逆なのか! 佐枝後輩は一体どこへ俺を誘ってしまうというのか!?
俺はそんなドキドキ感をひた隠しにしつつ、迫りくる大人の階段を登る期待で張り裂けんばかりの気持ちを抑えながら、佐枝後輩に恐る恐る声をかけてみた。
「その......あっちっちの関係をkwsk言ってもらっても良いだろうか……!?」
嗚呼、なんという事だ自身が守るべき後輩に、あっちっちをkwsk語らせてしまうなんて! しかし俺にだって心の準備は必要なのだ! さあ、教えてほしい。君は……頭の良い君ならではの趣向で俺を魅了してくれ佐枝紀子ぉぉ!!
「あっちっちぃ......♡ そうですね、これから凄い事になってしまう先輩は……これから先輩に凄い体験をしてしまう私の告白を聞く権利がありますよね。良いですよ教えて差し上げます。貴方は私が人体改造の専門家という事を知っていますね……?」
「ああ! もちろんだ! 最近本来の競技の体の使い勝手を知ったなら筋トレもキッチリやるべきだと顧問に言われたからこそ、俺は専門家である君の元を訪れ体の秘密の教えを請うたんだとも......!」
「頼もう!そこの君!俺に体の秘密を余すことなく教えてくれ!」と、彼女のクラスの前に訪問し部活仲間と他の女子に「色々省略しすぎだタワケ!」とボコボコにされたことを昨日の事の様に覚えている。
「懐かしいですね。貴方の後先考えない獣の様な眼差しに私は、かすかな希望を抱きこそしていましたが……だからこそ筋トレをお教えしたのですが。本当は諦めていたんです。何処にも……私の望む本当の物が誕生する訳はないんだって。
でも……! 貴方は成し遂げてくれた......! 角度色艶汗の流れ具合......! これこそがこれこそが私の理想のシックスパック! 私の初めては……初めての人体改造はもう貴方以外考えられないって……!」
なん...だと。「雨の日に猫を助けた所を見たから、貴方が好きになりました」とか、そういう感じの話はこの年まで生きたのだもの。色々聞いたことがある。しかし……シックス......パックだと!? 馬鹿な、そりゃあ、ちょっと割れたなーとかそう思った時には、ドヤ顔になったりもしたものだけれど!
これは......まさか、腹筋が人を惑わすとか……ある......のか!? というか、サラッと他はいらないとか、そういう話だったりしたら、何気にショックでもあるのだが! でもそれ以前に正直に言おう......! なんかこう何を言われているかはサッパリ分からなかったが……いろいろ言い放っている佐枝後輩には、すごく、こう年下とか小さいとか、そんな事月まで吹っ飛ぶ色気があった! これだけで俺本体が目的なのか、シックスパックが目的かとかそんなのはもうどうでも良かった!
そして、だからこそそれと同時に真剣に尋ねなければならない事があった。
「思わずエヴァ最終回のごとく、「おめでとう!」と君をハグしたい様な気持ちで今胸がいっぱいなのだが、同時に真剣に聞かなければいけない事がある!」
「大丈夫ですよ愛しい人もとい、初めての人! 手術は即終わりますし痛くしません♡ 優しくしてあげますよ……?」
「初めての人体改造との事だが……君はスペシャリストと触れ込みがあったじゃないか。だから筋トレの事も俺に教えてくれたのだろう……? これから始まる事もその......とっても......ふふ、イケナイ感じの事なんじゃないかなーな事であって、人体改造とは何の関係も無いのでは......?」
「いえいえ。貴方の体を覆うものはなんですか?」
「ライダースーツだな?」
「私は何の専門家です?」
「人体改造......?」
「ライダーは何で誕生しますかぁ?」
「改造手術......人体改造手術? あれ?」
もしかして……これは......デッドエンドカウントダウンなのではないか……?




