第12話 双子の影
依頼人は二十代の女性で、開口一番「姉が別人になっています」と言い、ちひろは思わず草薙を見た。
依頼人の名は村上沙織で、姉の村上麻織は三週間前から言動が変わり笑い方が変わり、左利きだったのに右手でスマートフォンを操作するようになり、好きだったコーヒーを飲まなくなったという。三週間前に海外出張から帰ってきてからだ。
「姉に双子や兄弟はいますか」
沙織が少し固まった。「います。双子の姉がいます。十年前から連絡が取れていなくて。花織といいます」
草薙が白板に「花織」と書いて丸をつけた。ちひろはそれをスマートフォンで撮りながら、自分なりに考えた。
双子。入れ替わり。でもなぜ今。なぜ三週間前から。
「今の姉に会わせてもらえますか」
麻織と名乗る女性は穏やかで受け答えもしっかりしており、草薙たちを笑顔で迎えた。草薙は話を聞きながら、女性の左手の使い方をずっと確認していた。
ちひろは女性の顔を見ていた。沙織の顔と見比べた。笑い方の癖。視線の動き方。
「シンガポールのコーヒーはどうでしたか」
女性の目が一瞬だけ動いてから「美味しかったです」と答えた。
ちひろはその一瞬を見た。コーヒーが好きじゃない人間が、コーヒーの質問をされた瞬間の動き方だ、とちひろは思った。
「草薙さん」ちひろが小声で言った。「うち、この人がコーヒーの質問で一瞬止まったのが気になりますわ」
草薙が小さく頷いた。
「以前、妹さんに左手で書いた手紙を送ったことはありますか」
女性の表情が少し固まった。「そんな手紙、送っていません」
「沙織さんが持っていました。三年前の誕生日に届いたもので、左手の字で書かれていて」
草薙が沙織の方を見ると沙織が鞄から封筒を出して差し出し、女性はそれを見て少しの間黙っていた。
「花織さん。麻織さんは今どこにいますか」
女性の顔から表情が消えてゆっくりと息を吐いた。「空港のホテルにいます。麻織が頼んできて、借金から逃げるために姿を消したいって。こんなに長くなるとは思わなかった」
沙織が「お姉ちゃん」と言い、花織が「ごめん」と答えて、二人の間に静かな時間が流れた。
帰り道、ちひろが言った。
「草薙さん、うち、コーヒーの反応で気づいてましたよ。あの一瞬で」
「そうだね。それが確信になったよ」
「うちの気づきが使えてましたか」
「使えたよ」
ちひろは少し黙ってから前を向いた。




