使命に命を懸ける
アルジェがツバサを連れて現場に飛来すると、そこではすでにアルムとハーミットクラブキメラの戦闘が繰り広げられていた。
アルジェは戦闘の規模を演算し、ツバサを安全圏の物陰に隠した。
『アルムの使命はキメラの脅威から人間を守ること。そのために彼女は命を懸けて戦っている。その事実をただその目で確かめてほしい』
アルジェはツバサにそう言い残すとアルムの援護に向かった。
ツバサは物陰に身を隠しながらアルムとアルジェの戦いの行方を見守った。
アルムはハーミットクラブキメラの堅牢な甲殻に対して攻めあぐねていた。
砂浜から平地に引き摺り出したことで砂の守りこそ消したものの、そもそも電撃の通りが悪かったのである。
そこへアルジェが加勢し、持ち前のパワーでハーミットクラブキメラに真っ向勝負を挑む。
アルムが離脱するとすかさず入れ替わるようにアルジェが現れ、ハーミットクラブキメラに体当たりを仕掛けた。
アルム以上のパワーを持つアルジェはハーミットクラブキメラにも押し負けず、アルム以上の硬度を誇る鱗がその甲殻に傷をつけた。
その鱗の守りはハーミットクラブキメラの爪による挟み込みを受けても形を変えることはない。
周囲にはアルジェの鱗が打突されたことによる金属音が激しく響き渡り、戦闘の熾烈さを物語った。
一方、ツバサはふとキメラたちの戦いのそばで避難する人間たちの姿が目に映った。
アルムたちがハーミットクラブキメラを遠ざけるように動いているため、周囲の大人たちが連携して他の人々を安全な場所へと退避させていた。
彼らもまた名も知らぬ協力者であった。
アルジェ相手では歯が立たないと判断したハーミットクラブキメラは巨大な殻の中に身を隠し、両腕で蓋をするがアルジェはその腕を掴むと力任せにこじ開けて隙間を作り、その奥に冷気を吹き込んだ。
冷気はたちまち殻の内部に浸透し、耐えきれなくなったハーミットクラブキメラは殻を捨てて本体を露わにする。
『アルム、トドメを』
アルジェはアルムにトドメを促した。
アルジェには守りをこじ開けられる力こそあるものの、その守りを突き破ってトドメをさせるほどの火力は持ち合わせていなかったのである。
アルジェが突破口を開くとアルムはそれに答えるように強化形態に移行した。
激しい放電と共に角が四本に増え、尻尾の先が刃のように変化する。
『行くぞー!』
アルムは空に飛び上がって全身から雷を迸らせた。
その余波は離れていたツバサですら痺れるような感覚を覚えさせる。
ハーミットクラブキメラを殻から引き摺り出したアルジェはその殻を遠ざけるように蹴飛ばすとハーミットクラブの手足の末端を凍らせて動きを封じ、アルムが待機する空中へと投げ飛ばした。
アルムは全身に電気を纏うと音も置き去りにする速さで突撃を仕掛け、ハーミットクラブキメラを滅多打ちにした。
ハーミットクラブキメラの身体は空中にいながら壁に激突しているかのように跳ね回り、堅牢な甲殻に覆われた両腕が右左の順に斬り飛ばされた。
その次の瞬間にはハーミットクラブキメラの身体は地面と垂直に打ち上がり、その真上から落ちてきた一閃の雷光が胴体を貫いた。
その威力にハーミットクラブキメラの全身は跡形もなく消滅し、地上にはアルムの姿のみがあった。
今回の戦いは終わった。
その後には金龍と銀龍、二体のキメラの姿が残った。
アルムは強化形態を解き、二本角の姿に戻っている。
アルムは周囲を一瞥して逃げ遅れた人間がいないことを確認すると飛び立とうとした。
『待って』
飛び立とうとするアルムをアルジェが呼び止めた。
『どうしたのさー』
『実はツバサをここに連れてきている』
アルジェはそういうと低空飛行でツバサの元に向かい、地に足をつけることなくツバサを抱え上げるとアルムの前まで運んできた。
『ボクたちの戦いを見てたの?』
アルムはテレパシーを使ってツバサに語りかけた。
ツバサは黙って首を縦に振る。
「アルムたちが一生懸命戦ってるのがわかった。それに、人を守ろうとしてるのも嘘じゃなかった」
ツバサはキメラ同士の戦いを見て感じたことをアルムとアルジェに伝えた。
現場でキメラを食い止めているからこそ人間たちが逃げられるのだということもその目で確かめたことで考えを改めることができた。
「パパを助けてくれなかったなんて言ってゴメン」
ツバサはアルムに頭を下げた。
アルムはその言葉を受け取って優しく目を細めた。
『いいんだよ。またキメラが出てきた時はボクたちがみんなを守るから。ツバサも応援してくれると嬉しいな』
「うん。俺応援するよ!」
こうしてツバサはアルムと友達になったのであった。
『病院まで乗せてってあげよっか』
『やめた方がいい。ツバサはアルムのスピードに耐えられない』
アルムが足代わりになることを提案するとアルジェが制止をかけた。
音速を超える速度を出せるアルムに生身でしがみついても振り落とされるか肉体がバラバラになるかのどちらかになるのは目に見えていた。
結局アルジェが行きと同じようにツバサを乗せることになった。
『じゃあね!』
『さようなら』
病院の前までツバサを送り届けたアルムとアルジェはツバサを一瞥するとそのまま空高く飛び立っていった。
病院の前には冷たい風が吹き、晴れた空に雷鳴が轟くのであった。




