その手が届く場所
アルムとアルジェが少年ツバサと出会った翌日の朝。
アルムとアルジェはツバサと合流して市内の病院を訪れていた。
アルジェの計らいにより、入院しているツバサの父と対面するのである。
「ここが本物の病院かぁ」
アルムは初めて目にする病院の内部をキョロキョロと見回している。
ドラマなどで見たことはあるが本物の現場を見るのは初めてであった。
アルジェも人間の利用する医療に内心では興味津々である。
ツバサの手引きによって面会の機会を得たアルムとアルジェはツバサの父がいる場所へと案内された。
そこには両手で手すりを掴んで身体を支えながら歩行に励む男の姿があった。
その男こそがツバサの父であった。
ツバサの父はツバサの存在に気付くと松葉杖を取ってツバサの傍に歩み寄った。
「おはようツバサ。今日も来てくれたのか」
「うん。今日はパパに会いたいって人がいるんだ」
「俺に?」
ツバサはそう切り出すと父にアルムとアルジェを紹介した。
アルムは多少緊迫した面持ちでツバサの父の前に出た。
自ずと身体に力が入り、アルジェの手を強く握りしめる。
「初めまして。ツバサのお友達のアルムって言います。こっちは妹のアルジェ」
「初めまして」
「アルム……あー、確か動画チャンネルの子だよね。ツバサからよく話は聞いてるよ」
ツバサの父は挨拶を受けるとアルムのことを認知している旨の言動を見せた。
彼は息子がカグヤチャンネルのファンであることを知っており、そのメンバーであるアルムとアルジェのことも息子を通じて存在は知っていた。
「そのケガは……」
「前に現れた化け物にやられてね。表面は治ったけど神経がまだ回復できてないんだ」
ツバサの父はアルムたちに自分が負った傷の状態を明かした。
傷は見た目以上に深刻であり、足の表面だけでなくそこに通っていた神経も焼き切られてしまっていたのである。
「治るの?」
「少しずつだけど回復には向かってるよ。リハビリを始めたときは立つことすらできなかったからね」
アルムが恐る恐る尋ねるとツバサの父は気丈に答えた。
リハビリによって少しずつだが機能が回復しており、はじめはその場での自立すらままならなかったのが現在は多少なら自力での歩行が可能なほどにまでなった。
彼の努力が垣間見えた。
「今日は貴方に尋ねたいことがあってここに来た」
ある程度話をしたところでアルジェが淡々と話題を切り出した。
ツバサの父は耳を傾ける。
「貴方はキメラの破壊活動に巻き込まれてこうなった。ツバサはそれを金龍が駆けつけるのが遅かったせいだと考えている」
アルジェはツバサの胸中を代弁して彼の父に伝えた。
自分の行動に非がなかったことを理解しつつもアルムは胸を痛めた。
「貴方は当時どう思った。率直に教えてほしい」
「そうだね……できることならその場で助けてほしかったとは思ったよ。でも金龍があの場に来てくれたおかげで死なずに済んだとも思ってるんだ」
ツバサの父は当時の心境を振り返ってアルムとアルジェに語る。
未然に防ぐことこそ間に合わなかったものの、金龍がバーンドレイクキメラと戦闘して引き付け、それを排除したおかげで救助の手が間に合ったというのが実情であった。
それを自ら助け出せなかった相手自身の口から聞きだしたことでアルムは救われたような気がした。
「パパ」
「ツバサ、金龍が来てくれたおかげでパパは生き延びることができたんだ」
ツバサがなおもの言いたげにしていたところを父が窘める。
そこにアルムがキメラの気配を察知した。
潜伏していたハーミットクラブキメラが再び姿を現したのである。
アルムの表情が変わったのを見たアルジェは事態を察する。
「ゴメン。ボクちょっと急用ができたみたい」
アルムはわざとらしくスマホを見ると離席を告げる発言をした。
アルジェもそれに同調してスマホの画面を確認し、踵を返す。
「ありがとうございました。お大事に!」
アルムは簡潔に言い残すと先にその場を離席し、ハーミットクラブキメラが現れた現場へと急行すべく駆けだした。
「ツバサ、どうしても金龍に対して思うところがあるのなら私についてくるといい」
アルジェはツバサに意志を確認した。
ツバサはアルジェの言葉に従い、彼女についていくことにした。
「パパ。リハビリ頑張ってね」
「ああ、一日でも早く杖なしで歩けるようになってみせるからな」
ツバサは父に一言言い残し、アルジェについて病院を後にした。
ツバサの父はつま先で床を踏み鳴らしてアピールするがツバサの姿が見えなくなるとやせ我慢をやめてその痛みに表情を歪めた。
アルムは病院を飛び出すと勢いそのままに足に電気を纏って大きく跳躍した。
彼女の身体はひねりを付けて空中高く浮きあがり、そのままドラゴンの姿へと変身して雷鳴を轟かせながら空を翔けた。
アルムの軌跡を見たツバサは彼女の正体を知って衝撃を受けた。
アルジェも銀龍の姿に変身してツバサを背負うと路面を凍らせて滑走し、その勢いを利用して離陸し飛行してアルムの後を追う。
「アルムとアルジェが、金龍と銀龍!?」
『そういうこと。口外は厳禁』
アルジェの背にしがみつきながらツバサが驚いているとアルジェが忠告を放った。
ツバサを背に乗せ、アルジェは冷たい風を吹かしながら空を翔けるのであった。




