キメラは親子がわからない
カグヤのアパートでのトータスキメラへの対策を進めたところで時刻は夕方に迫りつつあった。
カグヤたちは気分転換を兼ねて夕食を取ることにした。
今日の夕食はカグヤの思い付きでピザのデリバリーである。
「別に夕食ぐらい私が作るのに」
「いいのいいの。あーしの気まぐれ」
「ボク、ピザって初めてだから楽しみだなー」
アルムはこれから初めて食べるピザに期待を膨らませた。
スマホを片手にカグヤたちと談笑しながら時間を潰す。
そんな中、アルムとカグヤは同時にスマホでとあるものを見た。
「えっ……あーしのチャンネルの収益化……?」
「ん?収益化って何?」
カグヤとアルムが見たもの、それは動画サイトにおける自身のチャンネルの収益化が認められた旨の通知であった。
カグヤが驚愕する一方、アルムはその意味を理解できずに首を傾げる。
「要するに動画を配信すればお金が稼げるようになるってこと」
「収益化できるチャンネルってほんの一握りだからすごいんだよ」
カグヤとハルヒが収益化の意味をアルムに説明した。
だがアルムは人間基準のすごいを理解できず、さらに首を深く傾げた。
「まあいっか。あとで記念配信やろ」
カグヤは記念配信をすることを提案すると、ちょうどタイミングよくカグヤの部屋の呼び鈴が鳴った。
それにカグヤが応対するとそこにはピザのデリバリーの配達員の姿があった。
「はいお待たせー。じゃあみんなで食べよー」
カグヤは受け取ったピザの箱を机の上に移すと中身を披露するように箱を開けた。
アルムは初めて間近で見るピザに目を輝かせる。
「じゃあここはひとつ。あーしのチャンネル収益化記念ということで、かんぱーい」
「かんぱーい!」
「おー!アニメで見たことあるやつだ!」
カグヤが音頭を取るとハルヒ、アルムを加えて三人でジュースの入ったグラスを交わした。
アルムは初めて見る乾杯に感激した。
「はいどうぞー」
ハルヒはピザを取り分けるとアルムの前に差し出した。
アルムはそれを手に取ると口を大きく開けてそれを頬張った。
「おーおー、いい食べっぷりで」
「ねー」
カグヤとハルヒは同じピザを食しながらアルムの食事風景を微笑ましく見守る。
人間を遥かに超えた力を持ちながら人間を愛し、人間と共に生きることに憧れを抱く。
初めてのピザを喜んで食すアルムの姿はそんな彼女の性格を体現するかのようであった。
二人はアルムにもっと食べてもらいたいとすら感じていた。
「二人は食べないの?」
「アルムがあんまり美味しそうに食べるもんだからさ」
「その……ちょっと気が引けちゃって」
アルムが不思議そうに尋ねるとカグヤとハルヒは正直に答えた。
二人はキメラと戦いから遠ざかった日常の中で見るアルムに対して庇護欲のようなものを掻き立てられていた。
二人はうまく言語化できないが今の行動もその庇護欲から出たものであった。
「なんていうか、アルムがあーしらの子供みたいに思えるっていうのかな」
「ボクはカグヤの子じゃないよ?」
「たとえ話だっての。本当はそうじゃないことぐらいあーしも分かってる」
肝心なところで天然ボケを見せるアルムにカグヤは頬を掻きながら誤魔化した。
「あっ、子供といえば。カグヤたち人間には親っていうのがいるんでしょ?カグヤとハルヒの親ってどんな人なの?」
アルムは興味津々に話題に踏み込んだ。
するとカグヤとハルヒは気まずそうに顔を見合わせる。
「二人ともどうしたの?」
「なんていうか、あーしの口からは話しにくいっていうか……」
「私が教えてあげる」
カグヤが口を濁すと姉の心情を察したハルヒが代わりに説明を始めた。
「私たちのお父さんとお母さんはどこにでもいるような普通の人だよ。でもお姉ちゃんとはちょっとそりが合わないっていうか」
「親子でもそんなことあるの?」
「あるんだよ。家族だからといってなんでも理解し合えるわけじゃないから」
アルムが不思議がるとカグヤがぶっきらぼうに口を挟んだ。
家族という関係があってもすべてが円満に受け入れられるわけではない。
カグヤは過去に親と一悶着起こしており、それが彼女がアパートで独り暮らしをしている理由の一因でもあった。
「なんでカグヤはお父さんとお母さんと仲が悪くなっちゃったの?」
「母さんとは別に仲悪くないよ。仲悪くなったのは父さんの方」
カグヤは両親との関係を大雑把に語る。
彼女と関係が嫌悪になっているのは父の方であった。
「あーしの父さん昔からアニメとかゲームが嫌いでさ。あーしがクリエイターになりたいって言ったらそれに大反対してきてさ。それで大学進学蹴っ飛ばしてバイトしながらここで一人暮らしってわけ」
カグヤは父に対するヘイトをぶつけるように語った。
カグヤと父は厳格で堅物な人物であり、カグヤがオタク趣味にのめり込むことを快く思っていなかった。
それが原因で衝突を起こし、母と妹に間を取り持ってもらってカグヤが家を出ることで一応の決着をつけたのである。
アルムはただそれだけのことで親子の関係がそこまでこじれる理由が理解できなかった。
「じゃあハルヒはどうなの?」
「別に悪くはないかな。よく口癖みたいに『やるべきことをやれ』とは言ってくるけど」
アルムが質問の対象をハルヒに切り替えるとハルヒは苦笑いしながら答える。
ハルヒはカグヤとは違ってサブカル方面の趣味はないため父との関係は悪くなく、多少の口うるささに目をつぶれば関係はむしろ良好ともいえるほどであった。
「カグヤは仲直りはしないの?」
「しない。できるわけないから。それにあーしにはハルヒさえいてくれればそれでいいし」
アルムが尋ねるとカグヤはいじけながらきっぱりと断言した。
カグヤはサブカルを愛している一方で彼女の父はサブカルを嫌っている。
例え親子であろうと趣味嗜好が対極にある両者が分かりあうことは決してないのはわかりきった結果であった。
「人間って難しいでしょ」
「うん。やっぱりボクにはわからないや」
アルムはカグヤの父とのこじれた関係がやはり理解できなかった。
そんな彼女の疑問を横目にカグヤはどこか寂しそうな目で遠い場所を見ながらジュースを煽るのであった。




