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妻、猫になり逃走中! 至急確保し溺愛せよ!  作者: 専業プウタ@コミカライズ準備中


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8.片想いの限界

「ようやっと、ビルゲッタと離婚できる時が来たな」


聞こえてきたエマヌエル皇帝の声に私は思わず柱の影に隠れる。

キルステンは跪いてエマヌエル皇帝を見上げている。後ろ姿で彼の表情が見えないのが不安。


「ロレーヌ侯爵が納得しないでしょう。まだ、ビルゲッタと離婚する時ではないかと」


キルステンの静かな言葉に、胸が締め付けられる。

(やっぱり、私と離婚したかったんだ)


「今が、離婚を突きつけるチャンスだ。チャンスというのは早過ぎてもいかんが、遅過ぎるのは問題外。ビルゲッタは失踪し公式行事に現れなかった。昨晩、薔薇園のパティオ付近で知己の騎士と熱い抱擁を交わしていたという目撃情報もあるぞ」


「ビルゲッタが?」


キルステンは心から驚いたような声を上げる。私は昨日不用意にフェリクスに抱きついてしまった自分を恥じた。


「ロレーヌ侯爵には三日の猶予を与えた。三日後になってもビルゲッタが姿を現さなかったら、ロレーヌ侯爵家の有責で離婚だ。本当についているな、お前がビルゲッタに冷たくしていたお陰で彼女から逃げ出してくれた。ロレーヌ侯爵家からの寄付も十分吸い取ったし、もうビルゲッタは用済みだろう」


淡々と語るエマヌエル皇帝の姿がぼやける。猫になっても涙は出るらしい。


「ビルゲッタと離婚させて、皇帝陛下は僕をどうしたいのですか?」


「キルステン、お前は聖女アルマと結婚させる。ビルゲッタのような傷物と違い美しい女だ。お前も抱く気が起きるのではないか?」


エマヌエル皇帝が自分のお腹の辺りを抑えながら、口の端をあげる。


今はないが、私はお腹に大きな傷跡があった。私の我儘なゴリ押しで十八歳でキルステンと結婚できたのは、彼が傷跡に責任を感じていたからだ。傷物の花嫁など誰も欲さない。


私はこれ以上、二人の会話を聞いていられずその場を後にした。皇城を出ると、激しく剣を交える金属音が聞こえる。騎士達の訓練場の辺りまで来てしまったようだ。白い騎士服は近衛騎士団。その中に真っ赤な髪を靡かせて一際強い男がいた。


「にゃあ(フェリクス)」


思わず漏れた小さな声。フェリクスは相当耳が良いのか、私の方を見る。目が合った瞬間、彼は剣を放り出し近衛騎士団長の制止も聞かず私の元に来た。


「お前、ビルゲッタだよな」


私にしか聞こえない小さな声で囁く彼。


「にゃん。にゃにゃ。(そうだよ。私だよ)」


「団長、すみません。この子、キルステン皇太子殿下の猫なんです」


私を抱き上げ、フェリクスが近衛騎士団長に声を掛ける。


「その猫って、キルステン皇太子殿下の誕生祭を荒らした猫だよな。殿下は慈悲深いのが弱点だな。君主は邪魔になる者は切り捨てる冷酷さがないと」


「団長、誰が聞いているか分からない場所で、皇室批判は危険ですよ」


キルステンはエマヌエル皇帝に比べると甘いというのが、貴族たちからの評価だ。私は思わず今はない傷跡があったはずのお腹を摩った。


(私と結婚してくれたのも同情⋯⋯分かっていたけど)


フェリクスが私を抱えて、皇城の方に小走りで急ぐ。

「にゃ、にゃ、にゃーん⋯⋯。(フェリクス、私、もうキルステンとは⋯⋯)」

キルステンと結婚し妻になり、猫として寵愛を受けた。


それで、もう私は十分だ。


私が邪魔をしてしまったけれど、今からアルマとキルステンの愛の物語が始まる。センチメンタルに浸っていると、怒りを含んだキルステンの声が聞こえた。


「フェリクス・ダルトワ! エリナを返して貰おうか」


冷静沈着で表情管理もバッチリなキルステンが、怒りを隠せずにいる。

(本当に猫が好きなんだ)


「キルステン・ルスラム皇太子殿下にフェリクス・ダルトワがお目にかかります」

挨拶をするなり、キルステンにスッと私を差し出すフェリクス。

私は思わずフェリクスから離れまいと彼にしがみついた。


猫としてでもキルステンと一緒にいたいと思ったけれど、私の女の部分が限界。

これからビルゲッタとしての私は邪魔だったかのように離婚を突きつけられ、キルステンは美しい聖女と恋をする。そんな姿を見て平気な程、私のキルステンへの想いは軽くはなかった。


「おい、ちょっと」


フェリクスが騎士服にしがみ付く私に戸惑っている。私はこれからキルステンの口からビルゲッタへの本音を聞くのが怖い。嫌いな女と十二年も付き合わされた挙句、結婚までさせられた彼。愛されていると感じたことは一度もないけれど、鬱陶しいと思われていたとはショックだった。


キルステンが私を無言でフェリクスから引き剥がす。私は思わず爪でフェリクスの騎士服のボタンを引きちぎってしまった。ボタンがゆっくりと地面に落ちる。


「にゃ、にゃん(ごめん、フェリクス)」


私は手をバタバタさせながら、フェリクスにボタンを引きちぎった謝罪をする。しかし、そんな私を隠すように抱き込みキルステンは皇城内へと入って行った。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると嬉しいです。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。

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