30.貴方を守りたい
私はフランシスを抱えながら、フェリクスと共にクリフトン様に会いにローズパレスに向かった。
「クリフトン王子殿下にお目に掛かります」
仰々しく挨拶をし出した私を彼が鼻で笑う。
「な、何? 一応、あなたまだルスラム帝国の皇太子妃でしょ。私に頭を下げるのはおかしいわよ」
「無理なお願いをしに参りました」
「無理なお願い?」
私はクリフトン様に封をしていない手紙を渡した。
「『一月後の七月八日の早朝、海賊がルスラム帝国のオルタ湾を襲撃します。つきましては水中堤防を作って対策をとってください 貴方の友、クリフトン・アルベールより』って私のフリして手紙を出すの?」
「アルベール王国とルスラム帝国の間には国交ができました。クリフトン王子殿下からの親展として即刻キルステン皇太子殿下にこの文を送ってください」
クリフトン様は私の提案に首を傾げる。
「そもそも水中堤防って何? 聞いた事ないんだけれど」
「古来、海賊船を沈没する為に行われた戦法で水中に積み石で堤防を築くものです」
私は水中堤防の築き方を紙に書いたものを見せながらクリフトン様に説明をする。
この辺りの国は海域協定が結ばれている事もあり、ルスラム帝国だけでなくアルベール王国も海軍を持っていない。
海賊は自分の縄張りを侵されない限りは攻撃的ではない。
それ故に海に対しての防衛はどの国も手薄であった。
今からでは一ヶ月で海軍を作るのは不可能。
しかしながら、水中堤防を作るのは一週間足らずでできるだろう。
突破されたとしても陸まで誘き寄せて陸上戦に持ち込めば帝国の被害は抑えられる。
キルステンなら予めそこで暮らす人々を非難させ、海沿いに軍を配置させて備えるだろう。
「この手紙を送ることで私にメリットは?」
「アルベール王国の花を使った違法輸出について目を瞑らせて頂きます。それから平民の学校設立に関しても費用や人員の面で支援させてください」
「キルステン皇太子殿下と寄りを戻すってこと?」
私はクリフトン様の問いかけにゆっくり首を振った。
今は夜だから人間の姿だが、昼は猫。
こんな状況でキルステンの元には戻れない。
「いいえ。私は実家を頼るつもりです。ロレーヌ侯爵家から支援をさせて頂きます」
兄のケネトに連絡をすればロレーヌ侯爵家からの支援を頼めるだろう。
帰ってこない妹に呆れるかもしれないが、私の居場所は帝国にはない。
「ちょっと待って、キルステン皇太子殿下と寄りを戻さないってこと? フェリクスちゃんとフランシスをここで育てるのよね」
クリフトン様がフェリクスをチラリと見る。
「そうですね。いずれフランシスは取り上げられるかもしれませんが、ビルゲッタと俺はそれまでフランシスを守って行くつもりです」
「あれだけ、きっぱり振って来た女と一緒に他の男の子を育て続けられるの? フェリクスちゃん、良い人超えて聖人の域じゃない」
「俺は聖人じゃありません。ただ、ビルゲッタとフランシスが放って置けないだけです」
呆れたような顔をするクリフトン様に、フェリスくが明るい声で笑いながら返していて胸が締め付けられた。
「本当に狡い女に使われてるわね、フェリクスちゃん。仕方ないから私も使われてあげる」
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