29.貴方が好きなのがやめられない
「エマヌエル皇帝陛下が危篤?!」
やっとフェリクスの体が元通りになり、平穏な日々を過ごしていた矢先。
驚きの情報が入ってきた。
ここに来る前には、とっくにエマヌエル皇帝は危篤状態だったのだろう。
私はタッった一人残された肉親が死ぬかもしれない状況に苦しむキルステンに思いを馳せた。
「ビルゲッタ、一回ルスラム帝国のことは忘れたらどうだ」
私にエマヌエル皇帝の危篤を告白したフェリクスが囁く。
質素な二人きりの部屋。
ベッドと小さな机しかない場所で、すやすや眠る皇族の血を引くフランシス。
床にタオルを敷かれたのが場所で寝る彼は合成写真のようだ。
一歳になったフランシスは相変わらずやんごとないオーラを放っていた。
綺麗で見惚れる美術品のような赤子。
彼を見る度にキルステンが思い出され、父親から引き離した自分に罪悪感を感じる。
私は昼間はそこらに放浪する猫と変わらない。
キルステンがどうしたことか離婚をしないせいで、皇太子妃の猫であるだけ。
「そうだね。はい! 今、忘れたよ。エマヌエル皇帝陛下が危篤なんてルスラム帝国も大変だね」
私は頭の中はキルステンとルスラム帝国でいっぱいなのに、バカになって忘れたふりを務めた。
そうでないと怪我が治ったとはいえ、全てを捨てて私の側にいるフェリクスへの申し訳がたたない。
「これでも、忘れたと言える?」
フェリクスが私にそっと出して来た密書には驚くことが書いてあった。
ルスラム帝国に海軍がないのをいいことに海賊が偶然を装って責めるシナリオ。
グロスター公爵はルスラム帝国を偶然を装って潰すつもりだ。
目的がキルステン。
現代では反社のような海賊と手を組み、ルスラムて帝国を滅ぼす算段をしている。
小さな穴を通すような策略だ。
誇り高い貴族がするような事ではないが、だからこそ穴。
「何も知らない可哀想な皇太子に手紙を書こうかな?」
「やっぱり諦められないんだな。ビルゲッタ」
私の言葉に肩をすくめるフェリクス、
「⋯⋯んっ好き! ごめんなさい。キルステンが好きなの。私って彼の為に生まれて来たのかな」
前世で推しだったキルステン。
転生したら推しの婚約者だった。
浮かれて、冷たくされても彼を一途に愛した。
誰にもいえない孤独に苦しむキルステン・ルスラム。
これだけ他の男から好意を向けられても私はキルステン命。
本当に情けなくて、みっともなくて申し訳ない。
「違うよ。ビルゲッタはキルステン皇太子殿下が好きなだけ。お前はお前が幸せになる為に生まれて来た」
フェリクスの優しい言葉に身体中の産毛が逆立つ。
もっとやりたい事もあったし、親に反抗もしてみたかった。
何一つできないまま死んでしまった前世。
後悔ばかりで苦しんだ私はキルステンを愛することで気持ちを保った。
本当に前世の私の映し鏡のように不器用な男。
愛しくて仕方なくて、彼を忘れたように生きる自分を想像できない。
「私だって分かってる。でも、馬鹿かもしれないどキルステンの幸せが私の幸せなの。知ってる事を全部教えて! ジャスパーから得た機密情報もあるんでしょ。キルステンを助けたいの」
男女交際の経験もないのに、眼前の自分に好意を持つ男をたぶらかす自分に寒気がする。
それでも私はキルステンの為に生きることをやめられなかった。
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