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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第1章 神獣協会
22/127

負の遺産

21話です

 東京で怪人の死体が発見された事件から一夜明け、伊地知一佐率いる自衛隊特殊作戦群は、自衛隊の最大の駐屯地、東京中央基地に集められていた。基地中央にあるコマンドセンターの地下10階大会議室では、自衛隊の中でも選りすぐりの精鋭たちが、出羽長官と秋津副長官の話を聞いている。

「では、今回の任務について説明していく。まずはこれを見てくれ」

 出羽長官の言葉で、会議室前方のスクリーンに一枚の写真が映し出された。

「君たちは一度目を通しているはずだが、改めてこれが昨日見つかった怪人だ」

 その写真は、発見された怪人の死体だった。そして、別のアングルからの写真をいくつか映していく。その中で、ある写真が最後に映された。怪人の背中を写した写真である。

「首を見てくれ。ここに注射痕があるのが分かるはずだ。もっとも、これはマスコミにも伝えられている情報だが、さらにもう二つ、ここから分かることがある。まず一つ目は、筋肉量の違いだ。よく見ると分かると思うが、主に僧帽筋全体が人間ではあり得ないほどに発達している。二つ目は、これは検死の結果わかったことだが、注射痕のある当たりの皮下組織に、マイクロチップが埋め込まれていた。これらを踏まえると、怪人には、怪獣と同じように自身の肉体を作り替えること、つまり過程変異が出来るということと、この怪人は人為的に作り出された可能性があることが分かる」

 出羽長官は続ける。

「……これで察しがついた者も多いだろうが、今回の事件で我々は、犯人を捜査する過程で常人以上の力を持つ、人間と全く同じ姿をした怪獣と相対する可能性がある。この意味は良くわかるはずだ」

 そこで伊地知一佐が挙手をした。

「伊地知一佐、質問は後にしてもらえるか?」

「承知の上です」

「…何だ?」

「もし仮に、並外れた身体能力と人間と全く同じ見た目を持つ怪獣と戦闘になれば、対象の殺害は許可されるのでしょうか?」

「やはりそれか……。怪人は法律上怪獣に認定される。だが怪人には駆除申請の制度が無く、浄化のみを行う決まりとなっている。つまり対象の駆除、殺害は基本的にNGだ」

「基本的、というのは?」

「……物事の解釈は人によって多少の差異が出るということだ」

「では、我々はあくまで専守防衛に徹することとします。それによって生じる多少のトラブルは致し方ありませんね?」

「ああ……だが決して一般人は巻き込むな。怪人だけだ、いいな?」

「もちろんです」

(こいつら、何処まで…)

 出羽長官は、伊地知と出羽の一連の会話で若干、特殊作戦群の隊員たちの目の色が変わったことに気づいた。その目は、ぞっとするほど暴力的で嗜虐的だった。

「…話を戻すぞ。諸君は今回の任務の危険性がどんなものであるか、理解することが出来ただろう。具体的な内容はすでに確認済みとして、一つ政府からの言伝がある」

 出羽長官は政府首脳陣からの伝言のメモを読み上げた。

『今回の捜査において、君たち特殊作戦群は最も重要な任務に就く。それはもちろん、怪人の制圧と、犯人の直接的な確保とその補佐だ。そこで知っておいてもらいたいのは、これらは全て、日本が単独で行うということだ。すでに米国とEU連邦からは調査隊派遣の申請が来ているが、君たちにはそれを受理するまでの間に事を済ませてほしい。EUはまだしも、米国に借りをつくることは今現在好ましくないからだ。外交上の理由も含めて、迅速に対処してくれ』

「だそうだ。正直私も、米国に付け込むすきを与えるのは避けたい。調査隊派遣の延期ももって一か月だろう。そこまでに事態を解決に導く。それでいいな?伊地知一佐」

「は、必ず一か月で」

「では解散だ。早速仕事にかかってくれ」

 出羽の言葉に隊員たちは一斉に立ち上がると、きれいに隊列を組んで部屋を後にした。

「……秋津、本当に彼らに任せていいと思うか?」

「任せるも何も、これが最善の手だと思います」

「それはそうだが…」

(奴らは野蛮すぎる。合理に徹しているようでその裏、非合理的な残虐性を突き詰めている連中だ)


 それから一週間後、自衛隊と公安警察の合同捜査チームは、とある団体に目を付けた。その少し前、警視庁公安部では、とある捜査員が一つの資料を見つけた。それは電波灯台プロジェクトの出資者名簿表である。そこには、かつて電波灯台を建設するときにその莫大な費用の一部を負担した企業、個人名がリストアップされていた。電波灯台内に怪人がいたことから、電波灯台管理委員会も内部調査が行われたためである。捜査員はその表に一つ、気になる項目を見つけた。

「出資団体名、白金グループ?聞いたことが無い企業だな」

 捜査員は白金グループの詳しい経歴を調べてみた。そのホームページに記載されている内容は、いたって普通で、何の不可解な点も見られなかった。だがそこが、捜査員の好奇心を刺激した。

(あまりに何もかもが綺麗すぎないか?この会社。経歴や社員に至るまで全て無色透明、清廉潔白だ。大戦前の大企業は、もっとどす黒く汚れていた。それと比べて気持ち悪いほどに何もない。この企業には表裏が存在していない)

 捜査員は、西暦の生まれだった。暫く調査を進めるうちに、捜査員はとある人物にたどり着いた。

「……金城実、か。白金グループの代表にして、その創設者」

 捜査員は次に、この金城について調べることにした。すでにその情報網はダークウェブにまで到達していた。そしてついに、金城についてのとある情報を入手した。

「神獣協会……金城はその会長なのか」

 捜査員はそれまで調べた情報を細かく整理すると、上層部に直接渡した。

「これは何だね」

「白金グループという企業とその代表を調査したものです」

「白金グループ?お前、どこでその名前を…」

「は?いえ、僕は偶然発見したので」

「……なるほど、これなら辻褄も会うか。君、これは私が預かっておく。すぐに人員を集めたまえ、緊急だ」

 こうして、白金グループおよび、金城実についての調査書が公安の総力をあげて僅か一日で作成された。そして、驚きの事実が浮かび上がってきた。その日の夜、伊地知に電話がかかってきた。

「はい、伊地知」

「警視庁公安部の室伏です。急で申し訳ないのですが、明日の夜、特殊作戦群に護衛をお願いしたく…」

「護衛対象は誰だ?」

「長門公安委員長です」

「場所は?」

「東京新帝国ホテルです。そこで官僚の区宗議員と会談を行います」

「人員はいくら必要だ?」

「前後の階も制圧できる程度の人数は必要かと……」

「了解した」

 そして二日後、最初の怪人が発見されてから11日後に、伊地知は隊員たちとともに新帝国ホテルに護衛として入った。中は華やかな装飾に覆われ、戦前と戦後の美術様式の美しく入り乱れる、世界屈指の高級ホテルとしてのこれ以上ない姿だった。だがその景色に目を向ける隊員は一人もいなかった。正面ホールから長門委員長に護衛班が付き添い、そこから左右に分かれるように上階、中階、下階に制圧班が速やかに配置された。皆スーツの下には防弾チョッキと小型拳銃を仕込んでいる。伊地知はというと、長門委員長の横に立ち、周囲に目を光らせていた。これらはすべて、怪人対策であった。

「お久しぶりです、区宗議員」

「こちらこそ、お久しぶりです」

 長門委員長と区宗議員は90階にあるスイートルームで、にこやかに握手を交わした。

「まずはお座りください」

「これはこれは、議員自ら申し訳ない」

「たいしたことではありません。それで、ご用件をお聞きしても」

「では単刀直入に。区宗議員、あなたは白金グループに幾度となく資金援助を行っていますね?」

「……長門委員長、それはご法度のはずでは?」

 すでに区宗議員の顔は笑っていなかった。

「状況が変わったのです。議員も周知のこととは思いますが、東京に怪人が現れた。私たち公安は、その犯人を何としてでも突き止めて逮捕し、法によって断罪する義務があります」

「ちょっと待ってください。公安はあの事件が人為的に引き起こされたものだと?」

「そうです。確かに今までの怪人は、違法に居住圏を越えた越境者にのみ確認されてきましたが、検死の結果、居住圏内でも怪人になる可能性があると認定されました」

「……地球外生命研究所ですか」

区宗議員はどこか忌々しそうに言った。

「話を続けますね?発見された怪人は連続誘拐事件の被害者の一人と一致しました。つまりこの二つは強い関連性がある。その捜査の過程で浮上したのが白金グループだ」

「……私を逮捕する気ですか?」

「犯罪の関与を認めるなら、ですがね」

 そこで伊地知が何事か長門委員長に伝えた。それを聞い委員長は一瞬動揺の色を見せたが、すぐに落ち着き、立ち上がるとこういった。

「区宗杉流議員、あなたを公安特権により任意逮捕します。両手を前に出してください」

「まさか!本当に逮捕するつもりで?」

「区宗議員、指示に従った方が身のためですよ?」

 伊地知と隊員たちは服越しに銃のロックを解除した。それを議員は、人間離れした聴力で見逃さなかった。

「……なるほど。バレていたわけですか。いや、それはない、なら怪獣探知か。まあ、この際それはどうでもいい。撃ってみろ、そこの人間。お前がこの中で一番の手練れなんだろ?私がお前の頭を握りつぶすのが早いか、お前が引き金を引くのが早いか比べてみようじゃないか」

議員はネクタイを緩めると、伊地知と対峙した。伊地知はそれに体をぴくりとも動かさず、ただ冷静に、

「その必要はない。怪獣」

 伊地知の言葉で区宗議員以外が一斉に小型ガスマスクを付けた。すると、天井の空調が急にマックスになった。そこからは、大戦時の負の遺産、対人神経ガスが流れ込んでいた。

「これは……!」

 議員はそう言って苦しそうに喉を両手で抑えると、おびただしい量の黒い血を吐いてその場に倒れた。そして伊地知たち隊員が銃口を向けつつ、素早く倒れた議員の脈を確認すると、これまた冷静な声で言った。

「対象の無力化を確認」

 こうして東京では、二人目の怪人が発見された。その二人目は、政府の高級官僚、区宗杉流議員だった。さらにそこから二日後、仙台に怪獣が現れた。

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