言葉足らず
20話です
「伊地知…いや、伊地知一佐だと?」
「はい、何でも赤本さんと東雲さんに話があるらしくて…」
「話、か」
(正直あいつと今話したくないんだが…)
「源、本部に伊地知一佐に折り返しで秘匿回線を繋ぐように伝えてくれるか?」
「秘匿回線ですか?…分かりました」
しばらくして、また無線が入った。
「赤本か」
その声の主は伊地知だった。
「…何の連絡でしょうか」
赤本はなるべく言葉を選んで尋ねた。そうしなければ、Fワードくらい言ってしまいそうな気分だったからである。
「まあまずは怪人の無力化ご苦労と言ったところだな。貴様にしては手早かった。最も、我々なら一度目の接触で殺害できたが」
「そうですか。それで、要件は?」
(早く本題に入れよ!)
「一連の犯人の目星がついた」
「その犯人というのは?」
「単独犯じゃない、複数犯だ。それも、とある組織が関与している」
「組織?」
「神獣協会という組織だ」
「聞いたことが無いですね…」
さっきジオナが言っていた、アシュキルとかいう奴と何らかのかかわりがありそうだ。
「詳しく調査を進めると、この神獣協会は戦前からある組織だった。会員数も10000人と多い。そして、これだけの規模の組織が今まで影になりを潜めていられたのは、一重に政治家との癒着にある」
「それは……!」
「無論、重罪だ。協会の首謀者もろともな」
(今までそんな政治家がいたとは驚きだ。そういった質の人間は絶えたと思っていたのだが)
「犯人の話は一旦置いておく。赤本、お前、どうやって怪人を倒した」
突然、伊地知はそんなことを聞いてきた。
「どうやって…そもそも、力でねじ伏せたわけでは無いので。あの怪人を無力化できたのは源のおかげです」
「そうか」
「一体なぜそんなことを?」
「その裏で癒着していた政治家というのが、怪人だったのだ。すでにこちらで処理したが、お前はどういう方法を使ったのか疑問でな」
「そんな!それでは、今まで人間社会に人間の皮を被った怪獣が紛れていたということですか?それも国家機関の中枢に!」
「その通りだ。さらに、どこから漏れたのか調査中だが、マスコミがこの件とそっちの事件をリークした。」
「では…」
「ああ、こうなれば、一刻も早く神獣協会を完全に潰すことが最優先だ」
「もしかして、僕と東雲さんも参加しろと?」
「……本当は死んでも言いたくない台詞だが…そうだ。」
あの伊地知が、プライドの塊のような伊地知が、散々目の敵にしていた赤本たちを頼っている。それだけで、事態の深刻さが分かるような気がする。
「赤本、無力化した怪人から何か情報を得られたか?」
「はい、その怪人が仕えている人物、もしくは怪人の居場所を」
「何?それは本当か?」
「無力化した怪人はその場所をフジと言っていました。それは恐らく富士工業地帯のことかと思われます。そこなら組織の隠蔽も可能です」
「富士だと?貴様、偽の情報を掴まされているな?富士工業地帯は我々も真っ先に調べた。だが不審な点は何一つ見つからなかった」
「その調査を行ったのは?」
「本土守備隊の連中だ」
「では自衛隊が再調査するべきです」
本土守備隊は最新鋭の設備を備えているが、いかんせん軍組織としての歴史が短く、隊員の練度は自衛隊に劣っていた。
「守備隊が見落としている箇所があると?」
「その可能性もありえます。なにより、怪人本人から伝えられた場所を確かめない手はないでしょう」
「……実に癪だが、その意見を採用しよう。赤本、お前は今日中に東京に戻れ。そこでお前と東雲に改めて話がある。
「東雲さんは退院したんですか?」
「今日退院した。いいか?今日中に東京に戻れよ」
「了解しました」
そうして伊地知の方から無線が切られた。
(今日中に東京…もう、すぐに行かなくては)
赤本は源たちの待つ装甲車に急いで向かった。車両に着くと、赤本は急いでその中に入った。
「源、緑屋。すまないがすぐに出発を……おい、緑屋。お前何をしている」
赤本が車内に入ると、何と緑屋が源を正座させていた。
「赤本、ちょうどいいところに来た。お前も横に正座しろ」
「赤本さん、おとなしく従った方がいいですよ……」
源は弱々しくそう言った。
「緑屋、悪いがすぐにここを出ないと……」
「お前、何か私にいう事があるよな?」
赤本は少し考えて、一つ思い当たった。
「…すまない、緑屋。お前たちを置いて行ってしまって」
「正確には私だけ、だな。なあ源」
緑屋は源を覗き込むと、目を逸らそうとする源の頭を掴んで無理やり目を合わせた。
「すいませんでした…」
「そうだよなあ。てめえら、私を一人、こんな場所に置いていきやがって。お前たちには私に対するリスペクトが欠けている。特に女性としてのな」
「女性というにはいささか幼い気が…」
そう言いかけた赤本の横を何かの物体がかすめた。赤本は驚いて振り向くと、それはメスだった。
「赤本、私は今猛烈に機嫌が悪いんだ。軽率な言動は控えた方がいいぞ?」
(もう機嫌の悪い奴はうんざりだ…!)
「……分かった」
「では早くこっちにこい。そして私からの有難いお言葉を有難く傾聴しろ」
赤本は仕方なく緑屋の指示に従って、源の隣に正座した。
「赤本、お前には一つだけ言葉を送ろう。いいな?」
(おとなしく従った方が早く終わるか……)
「それは!これだあ!」
緑屋はそう言って手に持っていたスリッパを振りかぶると、赤本の頭を思いっきり叩いた。
「痛ッ…!」
赤本はその痛みに思わず頭を抱えた。
(こいつ、今何を…!)
「全く、お前も源も、肝心なことを言わずに行きやがって。いいか?そういう時は、一言私に何か言ってから戦いに行くなりなんなりしろ。お前たちは少し、言葉足らずが過ぎるぞ……」
そう言う緑屋は、すでに怒ってはいなかった。
「…すまない、緑屋。俺が悪かった」
「僕も、改めて申し訳ありませんでした…」
二人は揃って緑屋に頭を下げた。
「……よし、許そう」
緑屋は赤本に氷袋をくれた。どうやら二人を解放してくれるらしい。
「これで頭を冷やせ」
緑屋から渡された氷袋はしっかりと冷えていた。
(もしかして、わざわざ準備してたのか?)
赤本は思わず笑いそうになった。緊張が少し和らいだ感じがした。
「…それにしても、頭を全力で叩くのは今後はやめてくれよ?」
「はあ?あれは手加減したぞ?」
(マジかよ…)
赤本と源は、先ほどの衝撃を思い出してヒヤリとした。
「……じゃあ、そろそろ行くぞ。少し飛ばすからそのつもりでいてくれ」
赤本は新たに編成された護衛車列にその旨を伝えると、伊地知との約束通り、日付の変わらないうちに、東京に帰投した。
やっと東京帰れた




