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27.魔獣討伐演習とは


 エドウィンが授業を受け始めて数日が経った。アンネマリーは最初こそ、やはり違和感と変な気恥ずかしさで感情が昂っていたが、数日一緒に居れば流石に慣れ、比較的心穏やかに過ごす事が出来ている。

 クラスメイトも同じ様で、あんなにエドウィンの存在を気にしていたのに今や殆ど気にしている人はいない。アンネマリーとサラとエドウィン、この三人が一組になっているのも見慣れた様だ。だが、教師陣は未だ慣れぬ様で授業中、何度もエドウィンへ視線を送っていた。何故そんなにも怯えられているのか疑問に思い、アンネマリーはサラに聞いてみたが、曖昧に笑うだけで詳細は教えてくれなかった。きっと入学当初に何かやらかしたに違いない。アンネマリーは深追いする事を早々にやめた。


 エドウィンはというと、今はそれなりに大人しくしている。確かに多少胸がギュンとなるような事は起きるが、耐えられる程度のものだ。流石に連発すると悲鳴をあげそうになるが。


 そしてこの問題はやはりアンネマリー側の問題だったと日々痛感している。例えば、何気無しにふと微笑まれたりするとギュンとなる。本当に顔がタイプというのは危険だ。一瞬で意識が吹っ飛んでしまう。声だって何かの拍子に耳の近くで聴こえれば悶えたくなる。本当にいけないことだ、これは。


 エドウィンは初日の様にあからさまな発言はしていない。なので、これは本当にアンネマリー側の問題なのだ。




「来月に魔獣討伐演習があるでしょ?」


 お馴染みとなった三人でのランチ中。サラが突然脈絡もなく話し始めた。


「ん?」


 アンネマリーは食事の手を止め、首を傾げる。サラはアンネマリーが知らないのを意外そうに見ると説明を始めた。


「最終学年に必ず行われる行事で、王領にある西の森で魔獣を討伐するその名の通りの行事よ。西の森は魔素が薄いから弱い魔獣しかいないのよ、ラビット系とか。だから危険は少ないの」


 それを聞いてアンネマリーは目を丸くした。


(そんな魔術打ち放題の行事があるの?これは今の私に丁度良いかも知れない)


 アンネマリーは魔力過多な体質である。前世を思い出した8歳から急激に増えた。幼い頃はよく熱を出していたが、ある程度体が成長してからは大分落ち着いてきた。だからと言ってもう何も問題ないかと言えば、定期的に放出しないと体がムズムズし始めてしまうので、まだ少し弊害はある。


 好きなだけ魔術を使う事が出来そうな行事にアンネマリーは心躍らせた。

 

「面白そうね」


 アンネマリーは最近、ほぼ授業でしか魔力を消費出来ていない。その為、魔力が溢れ出しそうな程溜まっている。いつもであればヘルマン家の研究棟に引き篭もって研究という名の魔術連発をして消費するのだが、それも出来ない。雑念に囚われ、継続して思考する事が出来なくなってしまったからだ。その理由はアンネマリーの目の前に座る黒髪の男なのだが、今回その問題は置いておこう。


 因みに研究したくて堪らないカーティスから貰った魔石も結局は自室のドレッサーの引き出しに入れっぱなしになっている。


 サラはアンネマリーの反応が予想外だったのか乾いた笑い声を出した。


「大体の子は嫌がってるわよ」

「そうなの?」


 アンネマリーはサラダを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。その様子をサラが不思議そうに見ていた。


「そりゃいくら弱くても魔獣は嫌じゃない?」


 確かに魔獣は忌み嫌われているし、恐ろしいものだとは思う。見た目が恐ろしいものも居るが、それは中級以上の魔獣だ。低級の魔獣は愛玩動物に似ているものも多い。


「弱い魔獣なら別に怖くも何ともないけど」


 ラビット系の魔獣を思い浮かべてアンネマリーがそう言うとサラは一瞬呆れた顔をし『アン……』とつぶやいた。暫くするとサラは表情を明るく戻し、エドウィンに話し掛ける。


「エドウィン様も出席されますよね?」


 二人の会話に耳を傾けながらも、黙々と食事をしていたエドウィンは緩やかに微笑んだ。


「ああ」


 以前だったら授業も出ていなかったので欠席していたかも知れない。だが今はアンネマリーと親交を深めている途中なので欠席をするという頭は無いようだ。


 そんなエドウィンを見て、アンネマリーは一つの提案をしてみた。


「じゃあ三人で行く?」


 その提案にエドウィンは嬉しそうに頬を緩ませたが、サラが横から残念そうに口を出す。


「それがペアはくじ引きで決めるのよ」

「くじ引き?」


 自由にやる訳ではないのか、とアンネマリーとエドウィンは驚き、サラを見た。サラは言い辛そうに口元を歪めながら話を続ける。


「まず……Sクラスは必ずバラけるわ」

「何故だ?」


 エドウィンが眉を顰める姿を見て、アンネマリーは可哀想な提案をしてしまったと様子を窺う様にサラを見た。サラもエドウィンとは違う意味で顔を歪ませており、おずおずと喋り出す。


「実力があるからです。だからSクラスはD〜Fクラスの人とペアになります」


 考えてみればそうか、とアンネマリーは頷いた。

 この学園のクラス分けは成績で行われる。S〜Fまであるのだが、下位のクラスは必然的に成績が悪い。言い方は悪いが、成績の悪い者同士がペアになって万が一の事があってはならないという事だろう。その逆も然りで成績が良い者同士がペアになっても実習の意味がない。


「公平なペアを作ろうって事?」

「そういう事。あとペアが決まってからは魔術の授業が学年合同になって多く時間が取られる様になるの。演習までにペアの親交を深めるっていうのもあるみたい」


 アンネマリーはまだクラスメイトとも、碌に交流を持っていない。そんな状態で他のクラスの人と関わっていかなければならない事に少し緊張した。

 サラの様に初日から気心が知れるのは珍しい事だ。友人が出来るかもしれないのは嬉しいが、それ以上に気疲れしそうだと思った。


「変な人に当たらなければいいわ」


 最終的にはそれに尽きる。変に個性が強い人でなければ良い。


 一足先に食事を終え、紅茶を啜っていたエドウィンがふと思いついた様に顔を上げた。


「アンネマリーのペアは女が良いな」

「…………」

「エドウィン様……」


 その言葉にアンネマリーの表情は抜け落ち、サラは残念そうな顔をする。


(こういう処がいけない)


 アンネマリーはエドウィンを睨み付けながら手元のムニエルを口に放り込んだ。




読んで頂き、ありがとうございます。

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