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26.また明日も


 ひとつの授業が終わるまでアンネマリーは特別室で時間を潰した。カーティスはアンネマリーが居ようか居まいがどうでも良いらしく一人でずっと魔導具の作成をしていた。アンネマリーも先程の魔石を手に、ずっと構造を考えていたのでその事に関しては何も言えない。


 チャイムが鳴り、アンネマリーはカーティスへの挨拶もそこそこに部屋を出る。カーティスは集中していたので声をかけても『あ?』と言うだけだった。


 心を落ち着かせたいと温室を目指していたが、結果的には落ち着いた気がする。というよりも別の気になる事柄が出来たから気にならなくなったと言う方が正しいかも知れない。

 カーティスは確かに言葉遣いは粗暴だが、研究者気質でマイペースな性格の様で最初こそは絡んできたが、段々とアンネマリーの存在を無視し始め、最終的には完全に自分の世界に入っていった。だからだろう。とても楽だった。


 教室へ帰るとまずエドウィンが視線を向けてきた。少し自分のやり方に思うところがあったのかも知れない。席を立ち、アンネマリーの前まで来ると曖昧に笑いかけてきた。


「何処に行ったのかと思った」


 トイレに行くと言って1時間帰って来なかったのだからそう考えるのは自然だ。教師は授業を受けない事を知っていたが、生徒にまでは周知しないのだろう。

 アンネマリーはエドウィンにどう答えるべきか考え、視線を横にずらした。


「途中、人に会って話し込んでしまって」


 嘘は言っていない。だがとても言いづらかった。


「そうか」


 エドウィンの複雑そうな顔を見て、アンネマリーはほんの少し罪悪感が湧いた。全く気にしなくても問題ないのに、それでも後めたさを感じてしまう。


「君が迷惑に感じるなら元の生活に戻してもいい」


 そう言われ、アンネマリーはハッとする。エドウィンからしてみてはアンネマリーが嫌がるとは思わなかったのだろう。だが実際に食堂からの帰り道、逃げる様に消えていき授業も休んだ事実に察してしまったのだ。そんなに嫌だったのか、と。

 確かにアンネマリーは嫌だった。でも嫌だった理由は主に自分サイドの問題で、エドウィンがどうこうという訳ではない。いや、まあ少しはエドウィンも嫌だったが。

 アンネマリーはエドウィンが人前でぐいぐい来る事に感情が耐えられなかったのだ。恥ずかしかった、ただそれだけだ。


「迷惑、というか……」

「うん」


 エドウィンは困り顔ながらも優しく相槌を打つ。アンネマリーは目線を彷徨わせながらどう言ったら良いのか思案する。


「エドウィン殿下があまりにも、急に距離を詰めてくるから驚いてしまったというのが……正直なところです」


 アンネマリーはゆっくりと、最後はエドウィンを見てそう言った。エドウィンはアンネマリーの言葉に少し安堵したのか息を吐く。


「では、また一緒に食堂へ行ってくれるか」


 エドウィンはにこりと笑った。その顔は何処かほっとしており、つられてアンネマリーも小さく笑い、頷く。


「ええ」


 正直言うとこのまま行動して良いのかわからない。エドウィンは婚約を希望しており、アンネマリーは婚約を断ろうとしている。関係性を築くと婚約が断りづらくなるのは目に見えて分かる。だが、何処かで前世の自分が『クラウス』と話す事を期待している気がした。


 アンネマリーは教室の入り口からエドウィンと移動し、自分の席に向かう。エドウィンは大人しく自分の席に戻っていった。

 席に着くとサラが心配そうに声を掛けてきたので、急に居なくなった事を謝った。そしてエドウィンと話した事を言い、明日も一緒に食堂へ行くと伝える。サラはやはりアンネマリーの食堂での様子を気にしていたらしく、ほんの少し顔を顰めた。


「本当に大丈夫?」

「うん、大丈夫。今日は態度悪くてごめんね」


 アンが大丈夫なら良いけど、とサラは納得はしていない顔で言い『無理はしないで』と複雑そうに微笑んだ。




読んで頂き、ありがとうございます。

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