13.試験
帰宅すると珍しくヘルムートが早めに帰宅しており、日中の人形の件を渋い顔で咎められた。何も職場に送らなくても、という事らしい。言われてみれば確かに家に送って見て貰えば良かったのだと少し反省した。
物としてはやはり届出は無さそうだったので、調査して今までの分の使用料を請求すると悪い笑みで言っていた。大いにやって欲しい。
因みにアンネマリーは知らなかったが、そういう事をしれっとする商会らしく、前から良くない噂がたっていたらしい。今回の件を置いていたとしても是正命令がその内出ただろうとの事だった。
こちらとしてみればお金が入ってくれば問題はないので、是正命令でも何でもすれば良い。
夕食の時間になると、ワクワクした両親が初登校の話を強請ってきた。アンネマリーは多くは語らず、ただ大変だったと苦笑いをすれば隣の兄が鼻で笑った。
それに少し気分を害したが人を小馬鹿にする態度はいつもの事だと諦め、話を深掘りしようとするギュンターとエリゼから逃げる様に食事を済ませ、部屋へ戻った。
食後すぐに風呂へ入り、寝巻きに着替えるとアンネマリーはすぐにベッドに潜り込む。余程疲れていたのだろう。ベッドへ入ると一瞬で意識を失い、目が覚めると朝だった。夢も見ず、スッキリとした目覚めに腕を伸ばす。
「んーーー」
ボキンと肩甲骨が鳴り、思わず恍惚の声が漏れた。
さて、今日は試験初日だ。
自宅での試験とどう違うのか。少しだけ楽しみに思い、アンネマリーは朝の支度を始めた。
学園に着くと昨日と同様の視線を感じたが、仕方ない。何せ5年も登校していなかったのだから気になるのだろう。視線を気にするのも気疲れするので、堂々と教室へ向かった。
見られるだけで誰にも話し掛けられず、順調に教室に辿り着けば早めに着いたのにも関わらず、クラスメイトの6割は既に着席していた。どうやら試験の追い込みをしているらしい。
(凄いな、皆凄い集中してる)
小声で挨拶をしたが、返事はまばら。それはそうかとアンネマリーはそそくさと自分の席に着いた。
隣のサラはまだ来ていない様だ。
皆と同じ様に教科書をペラリとめくり、横目で周りを見る。さすがSクラスと言うべきか、試験に対する意気込みが凄まじい。
(そっか、少しでも点数が落ちたらクラス落ちだものね)
また教科書に目をやりペラリ。実はアンネマリーは試験範囲を知らない。なので勉強をしているフリをしているだけだ。
そろりそろり段々と教室が満たされていき、ホームルーム10分前には全ての席に人が着席していた。
あの第二王子カーティスも大人しく座っている。そんな見ていた訳ではないが目が合い、ヒラヒラと手を振られた。苦笑いで返すのは不敬かしらと冷めた目で会釈をして、再び教科書に視線を戻す。
(そういえば!)
授業に出ていないという隣国の王子は誰だろうと目だけをキョロキョロと動かす。だが目の可動域だけでは探し出せず、そもそも容貌が解らないので見たところで解らない事に気付き、断念せざる得なかった。
試験は試験官三人で行われた。当然のように魔力遮断具をはめる事はなく、自分を中心に囲われるように監視される訳でもなく、授業を受けるのと同じ要領で試験は行われた。
実際はこんなものなのか、とアンネマリーはほんの少し脱力し、今までの待遇は本当に異常であったのだなと溜息を吐きたくなった。いや、実際に小さく吐いてしまったのだが。
2教科の筆記と1教科の実技が行われ、試験初日は穏やかに終わった。
「どうだった?試験」
試験終わりにサラがうずうずした様子で話し掛けてきた。
「なんか新鮮だった。学校で受けるの初めてだったから」
「そういう感想なんだ。問題はどうだったか聞きたかったんだけど」
少し呆れた様に言われ、アンネマリーはそういう事かと小さく納得した声を出した。
「いつもとそう違いは感じなかったけど」
どう答えたら良いのか一瞬悩んだが、悩んだところで答えは一緒なのでサラリと答える。するとサラは座った瞳で乾いた笑い声を出した。
「そうよね、そうだった…万年首席は伊達じゃないわよね」
「詰め込み教育の賜物よ」
「そういう事にしといてあげるわ」
はは、と肩を落としたサラにどういう顔をしたらいいのかアンネマリーは解らず、眉を下げ情けなく微笑んだ。
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