22.窮地
レイヴィン視点のお話です
10/25 15:50:内容を一部修正しました
城に戻るなり、慌ただしい城内にジークと共に困惑したが、侵入者ありとの声に急いで術部屋を出ると我が家に仕えている影の1人が待っていた。
「お帰りなさいませ、レイヴィン様。
旦那様から何が起きても城内で待機せよ、
とのご伝言を預かっております」
「侵入者ありとの声が聞こえたが?」
「その件につきましては既に手配済みです。
レイヴィン様がお動きになる事はありません」
「まるで襲撃があるのがわかってたみたいだな?」
「ええ。密告がありましたので旦那様が陛下に相談し、そなえておりました」
「では、我々が呼び戻された理由は?」
「事件の当事者として事の顛末を見届けるようにとの事です。
まもなくヴィーゼ男爵がこちらに参ります。
それでは失礼致します」
一方的に告げると影は姿をけした。
「ジークどう思う?」
「あまりにも展開が整いすぎている気がします。密告者の正体もきになりますね」
「誰の手の上で転がっているのかが一番の問題という事か」
私の言葉にジークも頷いた。
ここは正面玄関から離れた位置にあり、見た目は術部屋まで直線の廊下だが、ここは隠し通路満載の廊下である。
知っているものは一部のものだしこの廊下自体も入れるものは限られているここで待機という事は何かがあるということだろう。
「レイヴィン様、静かすぎると思いませんか?」
ジークの言葉に考え事からふと周りの気配を探ると確かに静かすぎた。
衝撃音は最初だけでその後は城内はいつもの静けさだ。
「破壊音も剣戟も何1つ聞こえないし・・・?」
「それに外で人が動いてる気配も感じません」
この廊下は窓はないが外の気配をジークは感じられるし、襲撃があって外が静かと言うのはおかしすぎる。
術部屋に続く扉は一部の人しか知らないからここから出るのは現状得策ではないのは把握している。
だが、待っているだけではどうしようもないと考えているとこの廊下につながる扉が開く音がして足音が響いてきた。
ジークは私の前に立ちさりげなく構えの耐性に入った。
角を曲がりこちらに向かってきた男性は表情を変えぬままこちらに声をかけてきた。
「お待たせして申し訳ありません。レイヴィン様」
「ヴィーゼ男爵・・・」
思わぬ人物に何と言葉を続けるべきかわからなかったが、目の前に立った男爵に私は謝罪を述べた。
「アリアの事、申し訳ありません」
「今回の事は起こるべきして起きたのだと感じました。
到着早々申し訳ありませんが。地下までご同行願いますか?」
いつもの男爵と違う雰囲気に戸惑ったのに気づいた男爵は苦笑した。
「申し訳ありません。状況は歩きながら説明致します。
正直、私自身まだ信じたくないことだらけなのです」
そう言い、隠し通路を使って地下に向かう間に教えてくれた男爵の話は確かに信じたくない話だった。
だが、父が相手の取引に応じたのは男爵の為で、男爵もそれを感じてるからこそ何とも言えない顔をしているのだろう。
「これから地下に向かい、宝玉を狙った奴らをとらえてセルバア様の元に戻ります。
レイヴィン様もその時共に戻って頂きます」
男爵の言葉に頷いた時、3人の足が止まった。
「まさか・・・」
辺りを漂い始めた嫌な気配に男爵は走りだし、私とジークも慌てて後を追った。
嫌な気配の元へたどり着くとそこには黒服を着た者達と侯爵家の影達が血を流しながら倒れていた。
その血だまりの中に金髪の黒服を着た男が同じ服装の茶髪の男を問い詰めていたが、私達に気付くと男の襟元を掴んだままこちらに視線を向けた、
「お嬢様をどこに連れて行ったのですか?」
無機質な声音に誰も答える者はなく、構えたが本能が”これは危険だ”と訴えていた。
金髪の男は武器を何1つ持っていないが、近づいただけで斬られる予感がする。
背中に嫌な汗が流れるのを感じながら男を窺ってると突然黒い靄が襲ってきた。
「「レイヴィン様!?」」
男爵とジークの叫び近づこうとするが何故か私の体は金髪の男の側に引き寄せられていた。
そして首元には黒い靄が巻き付いている。
これは直ぐに首を絞めることが可能だという事だろう。
「お嬢様はどこですか?答えられないのなら彼を殺します」
再度いう金髪の男の声に男爵は口を開いた。
「公爵家だ」
「なるほど」
金髪の男はそういうと掴んでいた茶髪の男に闇でできた剣で胸元から腹にかけて斬りつけた。
茶髪男はそのまま体が粉々に砕け、宝玉に似た石が床に転がった。
その石を拾うと金髪の男は私を掴み、拾った石を握ると黒い靄が辺り一面を覆った。
徐々に靄が晴れると目の前には胸を抑えるアリアを攫った男と見たことのない女性が蹲っていた。
「ルク・・・」
女性が苦しそうに呟くと金髪の男は背後を振り向いた。
アリアの姿をした少女と父とジークの父であるマリノスが立っていた。
私は自分の区部に絡まってた黒いものが消えているのを確認して男の視線が外れた今逃げようとしたが、容易く金髪の男に捕まってしまった
「お嬢様の拘束を解いてもらおう」
私の首に闇のナイフが当たるのを見て父は手に持っていた宝玉を手放した。
蹲ってた女性が息を荒くしながらも立ち上がった。
「助かりましたわ」
「遅くなり申し訳ありません、お嬢様。裏切り者は全て始末してまいりました」
「ふふふふふ。これで形勢逆転よ!!ナイ」
「その男、まさか・・・」
「ええ。16年前に奪ったアンの力を埋め込みましたの。忠実な私の下僕ですわ」
女性はそう言うと男を蹴飛ばし、こちらに近づいてきた。
「それにしても貴方の駒が紛れているのに気付かなかったなんて私も落ちた者ですわ。
でもこれでナイとアンを取り込むことが出来ますわね。
叔父様と叔母様が私に力を貸してくださったのですわ」
高笑いをしながら女は男を睨んでいたが不意に私に視線をよこした。
「あら?何故貴方がここにいるのかしら?
あの小娘と共にどっかにいったと聞いておりましたのに。
まぁ、どうでもいいですわ。
さてここにアンがいない《・・・》のは残念ですが、役者はそろいましたわ」
高笑いしながら言う女の言葉に私は内心首を傾げた。
アリアの姿をしたあの少女はアンと名乗ったのにこの女性はアンはいないといったどういう事だと疑問に思っていると女性は目を細め父達を見つめた。
「叔父様と叔母様の血を受け継ぎながら仇を取ろうとしない者達。
とどめを刺して私が全ての恨みを晴らして見せますわ。ルク!!」
憎しみのこもった声でそういうと私の首元からナイフが離れ父達に向かおうとした時、アリアの姿をした少女が一瞬で男に近づきいつの間にか手にした闇のナイフで男の胸に突き刺していた。
「なっ!?ルク!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
女性の叫び声を聞きながらも私はアリアの姿から目が離せなかった。
「アリア?」
髪と瞳の色が違うだけだったアリアは刺した男から零れ落ちた石を掴み握りしめると顔立ちが徐々に別人になっていった。
その姿に思わず呟いた私を少女は静かにこちらをみつめるだけだった。