20.取引
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「旦那様、城に襲撃者が現れました」
「こちらの準備は?」
「ぬかりなく」
執事の言葉に公爵は静かに頷いた。
「客人殿は?」
「例の部屋で待機しております」
執事の言葉に公爵は客人がいる部屋へと向かった。
「失礼ながら旦那様はあの話を信じているのですか」
「我が一族しか知らない事を知っていたのだから。
信じるに値するだろう」
「・・・本音は?」
「お前に嘘は通じないか」
「当たり前です。イルコフの為ですか?」
「あいつの前では言えないがアリアを助ける道があるなら試す価値はあるだろう?」
「危険ですと言っても止めないのは知っていますが、今でも私は反対です」
執事の言葉に公爵は苦笑する。
あの日、マリノスとイルコフと侯爵の前に現れたアリアの姿をしたアンと言う名の少女との話は驚くことばかりの内容だった。
『ごきげんよう、シュテルン公爵、ヴィーゼ男爵』
アリアそっくりの姿で半透明の少女の言葉に3人は警戒態勢に入っていた。
『そんなに警戒なさらないで下さいませ。
私の名前はアンと申します。本日はお願いがありまして取引に参りましたの』
アリアと同じ声なのに喋り方も表情も全く異なり、男爵からは怒りの気が満ちてくるのが分かる。
「話だけは聞こう」
『ありがとうございます、公爵。
こちらの希望は束縛の腕輪をお借りしたいのです。
お借りできるならば、こちらの計画が終わった後にこの体はお返ししますわ』
「それは取引ではなく脅しだと思うがね?
それにアリアの体を返すという事はアリアは既に生きていないと感じるのだが?」
『生きていないわけではありませんのよ?
でも私ができる事はこの体を返すだけですもの。後は本来の持ち主次第ですわ』
「アリア次第?」
『ええ。男爵さえ知らないアリア・ヴィーゼの秘密。
ねえ、男爵?死産だと思われたアリアが息を返した理由知ってまして?』
「・・・」
「それは貴女の力が宿ったからといいたいのかね?」
『違いますわ』
無言のままの男爵に変わり公爵が問うとアンは否定し、アリアには3人分の力が入っていることを説明した。
『信じる信じないは貴方方の勝手ですわ。
でも、この件に決着がつきましたら私達はこの体から出ていきます。
その後、生きるかは本当にアリア次第としか言えませんの。
でも可能性があるのですから取引に応じてもらえません?』
「腕輪を使う目的は?」
『学院を襲ったキラを捕まえる為に必要ですの。
その後、私達は1つになって闇に帰ります。
可能でしたらそのあたりも手伝ってもらえると助かりますが、如何でしょう?』
「改めて聞こう。君達は何者だね?
精霊がいなくなった原因の事件を起こした魔女の分身とはとても思えないのだが?」
公爵の言葉にアンは驚いたように公爵を見つめていた。
『まさかと思いますが、
公爵様も世間で言われてる事件の内容を信じていらっしゃいますの?』
「自分の力の見せつける為に呪矢を作った魔女の行いで、
精霊達の住処も穢れてしまいこの大陸から精霊はいなくなってしまった。
世界中の教会で教えている教えだな」
『でも束縛の腕輪を持つものなら違う真実をご存じだと思ったのですが違いますの?』
「魔女が今のルーチェ国だった辺りを中心に呪をかけた理由は伝わってる。
だからこそ君達の行動理由が理解できないのだよ。
復讐の為に力を使った魔女が何故、滅ぼそうとする仲間を止めるのだ?」
『復讐の心を引き継いでしまったのがキラですわ。
ナイは精霊としてのきまぐれで争いを好まない性質を引き継いでいます。
そして私は魔女と言われる前の穏やかだった時間の記憶を特に受け継いでますの。
だからこそ私は未だに復讐にとらわれているキラを止めたいのです。
力をお貸しくださいませ、公爵』
深く頭を下げる少女を未だに警戒心の眼差しで見つめる2人をみて公爵はしばらく考えてから深く息を吐いた。
「わかった。応じよう」
「「セルバア様!?」」
『ありがとうございます。明日改めてお伺い致しますわ』
そう言うとアンと言う少女の姿は消え、2人から小言を言われる羽目になった事を公爵は苦笑しながら思い出し、目的の扉をあける。
「やあ、待たせたかね?」
「ごきげんよう、公爵様。
私達には時間の概念などありませんのでお気になさらずに。
それよりまもなく来ますわ」
「そうか」
「ねぇ公爵様?この件の決着がつきましたら貴方こそどうなさるおつもりですの?」
「さてね、考えていないよ」
「真実が記されたものは全て破棄するべきかと思いますわ。
例えどんなに貴重なものだとしても命にはかえられないと思いますの」
「君は狙われるといいたいのかね?」
「私には予知能力はありませんのであくまで可能性の1つです」
「そうか」
「束縛の腕輪が使用されました」
マリノスの言葉にアンと公爵は喋るのをやめ、部屋の中央にある魔法陣をみつめた。
しばらくすると魔法陣が光り、キラを連れたナイが現れた。